修学旅行の帰り、臨時の新幹線に乗ってうとうとしていたが突然の急ブレーキでとび起きた。車内は停電。運転手はもちろん、車掌も気絶していてかなりの時間がかかるのは間違いない。電波は圏外、助けもよべないトンネル内。幸いなことに貨物ルートだったため駅ではないがホームがあった。普段は人やモノを乗降させない信号場である。
他の学級は別行動中だったので我々38人が遅行していたのだ。

リーダー格のひとりが仕切りだした。いったん外に出て電波の届くところから学校に連絡しようというのだ。各々友達同士で少数班を作ったが元々班行動が苦手な我々「ぼっち組」は8人グループになってしまった。自分と唯一口をきいてくれた無口な女子もこのグループだった。

ぼっちとはひとりぼっちのことで友達などひとりも作れないのだ。この状況下でも他のみんなは楽しくおしゃべり、笑顔が絶えなかったが「ぼっち組」は暗い顔をしてうつむいたままだった。そんなだからみんなとはぐれてしまったのだ。

ぼっち組の特徴としては
①一人になれる場所を見つけるのが得意
②狭いところ、暗いところが好き
③ひとりでもやっていけると思っている
他にも数あるが、このへんでやめておこう(悲しくなってくる)…

気付くと我々ぼっち組は故障現場から200メートルくらい離れたホームに座り込んでいた。連絡用通路から明かりが見える。それはかなりゆっくりした速度でまっすぐ向かってきた。上下運動がないから懐中電灯とかの人的な明かりではない。何か機械がこちらに向かって走ってきているらしかった。ぼんやりと眺めていた何かがホームに停車した。1両電車だ。新幹線のホームにT字型に停まる不思議な電車、しかもバックで入ってきたことに何の疑問も抱かず電車の連結部の、手で手前に開けるドアノブのような入り口を開けてぞろぞろと葬式の行列のように一言もしゃべらず下を向いて皆入っていくのだった。その一番後ろの私はみんなの乗車を確認すると、ドアを閉めるのだった。

カーテンで仕切られた頑丈な窓越しに影が見える。
「発車します…神代(かみしろ)回り、神木(かみぎ)駅行、定刻発車、オーライ。」電車が走りだした。

参考までに
同じ字で神代駅(じんだいえき)は、秋田県にある、JR東日本田沢湖線の駅である…が、単線ではない。神代駅(こうじろえき)は、山口県にある、JR西日本山陽本線の駅であるがこれも単線ではない。(どちらもwikiより)
神木駅も阿里山森林鉄道。場所は台湾Σ(゜ー゜;)


真っ暗なトンネル、通路というより連絡トンネル、単線で前から来る電車もない。バックで入ってきたのにも納得ができた。皆先ほどからうつむいたまま座っている。左右5人掛けの全10席、優先席が2席空いている状況でしばらく乗車していたがトンネルから抜ける気配がない。それだけゆっくり走っていたのかと疑うくらいだった。停車が2回ほどあったが誰も乗降車する気配はない。私は寝てしまっていた……ふと、あかない窓越しに声がした。
「お客様、終点神木駅到着です。他の方はもう降りられましたよ…。」

真っ暗なトンネル内で無人駅。周りに人はいない。電波は当然のようになく、時計を見ると2時間くらい経っている。無人だから外に出たのかと駅から外に出ようと思ったが足がすくんだ。出口が崖の絶壁にあって出たら最後戻ってこれない。田舎慣れしていて暗闇に慣れていなければ地面があると思ってしまう。他の奴らは手遅れに…瞬時に理解し、その暗闇に向かって手を合わせ合唱と黙祷を捧げた。

目を開くと新幹線の車内にいた。アナウンスが流れだす。「電線の故障により2時間遅れての発車となります、大変ご迷惑をおかけしました」私は真っ先に他の奴らの安否を聞き回った…しかし誰一人として彼らの名前もあの無口な女子のことも最初からいなかったかのようだった。先生の最後の一言…

「我々全31名は欠けることなく全員在籍」と。