春の風〈小ネタ)
月の光に君の面影。
片手に砂糖菓子を持ちながら、少年は窓から月を眺め身を乗り出すようににやりと笑う
全身を春にはまだ早い冷たい風がつつみこむ。
口に放り込まれた菓子がホロリと唾液によって口中に広がり
満足そうに眸を細めた少年は、まるで何かを手に取るように腕を伸ばし窓の縁を蹴り飛び立つ
その姿は小柄な馬のようでもあり
風に乗り月下に広がる、深い森へ走り抜ける
…こんな風も悪くねぇ。
鬣を靡かせ木々の間をすり抜け、耳を澄ませば森の生物の声が微かながらに届くようだ。
またその両足で跳躍し、月を背に受ける影は獅子のごとく煌きたなびく
…どうせ、俺のこたぁ誰も気にしやしねぇ。
普段を考えれば、こんな暴走も可愛いもんだと言ってほしぃもんだけどな
嘲笑を浮かべ、駆け巡る存在を咎める姿すらなく
眸に移る灯や闇を見渡せば、静やかに言葉が蘇る。
…ふぅ
滑稽なことだが、鮮やかに昨日の事のように思い出す
確証もなく、ただそのまっすぐな瞳を信じると誓った精神。
足は自然と、また仄かな灯の燈る窓へと戻れば
脱ぎ散らかされた服と、狼の様な獣が叱咤するように見つめている。
…ごめん、ちょっと夜風にあたってきた。
寄り添う獣から温かな温もりが伝わって、小さく反省の言葉をかけ
身なりを整えその心音に体をゆだね眸を閉じ寄りかかる
月は雲間へと姿を消した。
普段口にすることもない、心の中で感謝を呟き眠りへと落ちていった。
…ありがとう…