春の風〈小ネタ) | 雪だるま通信☆その後☆

春の風〈小ネタ)

月の光に君の面影。

 

片手に砂糖菓子を持ちながら、少年は窓から月を眺め身を乗り出すようににやりと笑う

全身を春にはまだ早い冷たい風がつつみこむ。

 

口に放り込まれた菓子がホロリと唾液によって口中に広がり

満足そうに眸を細めた少年は、まるで何かを手に取るように腕を伸ばし窓の縁を蹴り飛び立つ

 

その姿は小柄な馬のようでもあり

風に乗り月下に広がる、深い森へ走り抜ける

 

…こんな風も悪くねぇ。

鬣を靡かせ木々の間をすり抜け、耳を澄ませば森の生物の声が微かながらに届くようだ。

またその両足で跳躍し、月を背に受ける影は獅子のごとく煌きたなびく

 

…どうせ、俺のこたぁ誰も気にしやしねぇ。

普段を考えれば、こんな暴走も可愛いもんだと言ってほしぃもんだけどな

 

嘲笑を浮かべ、駆け巡る存在を咎める姿すらなく

眸に移る灯や闇を見渡せば、静やかに言葉が蘇る。

 

…ふぅ

滑稽なことだが、鮮やかに昨日の事のように思い出す

確証もなく、ただそのまっすぐな瞳を信じると誓った精神。

 

足は自然と、また仄かな灯の燈る窓へと戻れば

脱ぎ散らかされた服と、狼の様な獣が叱咤するように見つめている。

 

…ごめん、ちょっと夜風にあたってきた。

寄り添う獣から温かな温もりが伝わって、小さく反省の言葉をかけ

身なりを整えその心音に体をゆだね眸を閉じ寄りかかる

 

月は雲間へと姿を消した。

 

 

普段口にすることもない、心の中で感謝を呟き眠りへと落ちていった。

 

 

…ありがとう…