文庫版 死ねばいいのに (講談社文庫)/講談社

2014年、25冊目。京極夏彦『死ねばいいのに』
殺人事件の被害者の関係者のもとを、被害者の知り合いと名乗る男訪ね歩く。ただ、死んだ被害者のことが知りたいと。
関係者ごとの話をまとめた連作短編集。
 
 
一人目。
仕事帰りに山崎は一人の若い男に声をかけられる。
年上を敬う態度もみせず、不躾に3か月前に殺された鹿島亜佐美のことを知りたいのだというケンジだとかいう男に腹を立てる。
亜佐美は山崎の会社の派遣社員の女性だった。
開き直って態度を改めないケンジに当惑しつつも、自身の素性が知られていることに不安を感じた山崎は語り始めるが、亜佐美を語るにあたって自身の境遇・不満を語っていくと・・・。

 

二人目。

亜佐美の隣人、篠宮佳織は亜佐美の知り合いを名乗る渡来健也と名乗る若い男の訪問を受ける。

亜佐美のことを知りたいという健也だったが、佳織には特に何も語ることはなかった。

しかし、健也に水を向けられた佳織は亜佐美の男出入りが激しかったことを告げる。

同情的な発言ながらも佳織の言葉に裏にある思いをついた健也は・・・。

 

 

三人目。
ヤクザの佐久間淳一のもとを渡来健也は訪ねる。
兄貴分である高浪のお下がりとして、亜佐美を情婦としていた佐久間の事情を知りつつ、悪気もなく無邪気に亜佐美のことを知りたいという健也に佐久間は最初は恫喝するのだが・・・。
 
 
四人目。
渡来健也は、次に亜佐美の母、鹿島尚子の母を訪ねる。
既に亜佐美とは疎遠になっていた尚子は自堕落な生活を見られることを恥じ、最初は部屋に入れることすら拒む。
開き直った尚子が語り出したのは、亜佐美の生い立ちの様でいて、自身の苦労話だった。
そんな尚子に健也は・・・。
 
 
五人目。
次に渡来健也が向かったのは警察。
健也を事件の情報提供者だと理解した刑事が健也に亜佐美のことを聞こうとするが、事情は反対だった。
単なる知り合いに過ぎない健也は、警察が調べたであろう亜佐美についての情報を聴こうと警察にやってきたのだ。
興味本位で情報を漁り、関係者の心を逆なでするような健也の態度に反感を示す刑事だったが・・・。
 
 
六人目。
国選弁護人として渡来健也についた五條だったが、健也の言葉に戸惑うばかりだった。
亜佐美を殺したことを自白はするものの、その経緯が全く理解できないのだ。
亜佐美の生い立ち、境遇から亜佐美が不幸であったと断じる五條に対し、健也はそれを否定する。
弁護方針がなかなか定まらないなか、得られた情報をもとに、今回の殺人事件の背景を推し量り、健也に語る五條だったが・・・。
 
 

話云々よりも、この連作の中心人物(決して主人公ではない)、渡来健也の話し方が兎に角気に食わない。

なんだかんだ自身を卑下したように見せながら、結局のところ全て開き直った態度で相手に向かう。

それで、よく誰もが話に付き合うもんだと逆に登場人物たちに感心してしまう。

ストーリー自体は連作のなかで少しずつ、殺人事件の様相が見えてきて犯人に至るという、非常に真っ当な展開。

ただ、渡来健也は既に登場人物たちと被害者の関係性は十分知っているわけで、「知りたい」といいながら、結局は揶揄しているようにしか見えない。

当然、登場人物たちもそれにそった反応をするわけで、展開に無理はないのだが、その分、登場人物に代わって読者がイラッとする。

少なくとも、現実にこんな話し方をする人物とは、まともに相手にできるものではない。人の好意や譲歩も完全に踏みにじるのだから。

強いて言えば、連作を通じて、個人的にはヒールに上り詰めた渡来健也が弁護士にやや説得されていく過程が溜飲を下げる部分だったが、その後にはお約束のように弁護士までやり込められてしまうという展開に、空しくなってしまった。

精神衛生上よろしくないので、再読することはないだろう。

 

お奨め度:★★★☆☆
再読推奨:☆☆☆☆☆