2013年、85冊目。万城目学 『とっぴんぱらりの風太郎』
伊賀忍者として育ちながら放逐されてしまった主人公風太郎が偶然知り合った(?)瓢箪の依頼に応え、落城する大阪夏の陣に潜入するという話。
身よりもなく風太郎は忍者の養成機関である柘植屋敷で育つ。
しかし、謎の大火により柘植屋敷は消失。
多くの忍者予備軍らが死ぬなか、4人だけが生き残る。
その一人、常世は大阪城に潜入し、また蝉左右衛門と百市は伊賀を治める藤堂家で忍び働きだ。
風太郎は、その身の振り方を試されるべく、城への潜入試験に臨むが、組んだ相手が悪かった。
海外マカオ出身で伊賀に身を寄せている黒弓の不手際もあり、城の御殿の勘気に触れてしまう。
忍びを纏める采女の差配もあり、黒弓と風太郎の二人は死んだこととされる。
忍びの隠れ蓑である萬屋を取り仕切る義左衛門からの餞別を受け、二人は伊賀を出る。
京で別れた二人だったが、風太郎は行く宛もなく、いつか伊賀への帰参が叶うと信じて、吉田山の麓に腰を落ち着けるのだが、ついには資金もなくなり、日雇いに精を出す。
そんな風太郎のもとに顔を出した黒弓は萬屋からの依頼として、風太郎に瓢箪を運ぶ仕事を依頼する。
その晩、夜半に風太郎の前に姿を現した老人はひょうたん屋”瓢六”に行くついでに、そのあるじにと一つの箱を渡すことを依頼する。
真剣に取り合わなかった風太郎だが、黒弓がその中身を確認すると、中に入っていたのは蛾。黒弓がくしゃみをしたはずみに、蛾のなかに仕込まれたいた粉が撒き散らされ、風太郎は粉を深く吸い込んでしまう。
瓢六を訪ねた風太郎は、風太郎を毛嫌いする店員芥下とともに、なぜか店を手伝うことになってしまう。
それと前後して、吉田山の麓の風太郎のあばらやに、時折、因心居士と名乗る正体不明の存在が現れるようになる。
姿をその時々で変える、その存在は古い瓢箪だった。
本来、瓢六に頼むはずだった用事を風太郎で叶えるべくまとわりつき、風太郎に瓢箪を育成させる。
一方、瓢六の仕事で高台寺を訪ねた風太郎は、期せずして常世を見かける。
間もなく、常世は風太郎に仕事を持ってくる。
これまで一度も街に出たことがないという二十歳の若者”物忌みの君”を祇園会に案内して欲しいというのだ。
高台院(ねね)との関係もあるという物忌みの君の護衛役として、常世のほか、風太郎と黒弓がつく。
”ひさご様”と仮称される警護対象とともに、風太郎らはかぶきものの姿で街を練り歩く。
蹴鞠を楽しみ、街をいく彼らの前に現れた他のかぶきものたち。
多くは脅威をならなかったが、その中に含まれる月次組の残菊は手練。実質の護衛としてついていた左門は斬られて死ぬ。
辛うじて、黒弓の爆薬により九死に一生を得るが・・・。
瓢箪が成長した頃、大阪で戦が始まる。
因心居士は己が、世を騒がす果心居士とともに、双子の瓢箪であることを明かし、二人してこの世を去るべく、果心居士のもとを訪ねるという願いを語る。
その前に、自身が宿る瓢箪を華麗に装飾したいのだという。
高台院を訪ねた風太郎は、ねねの紹介を得て本阿弥光悦に装飾を依頼する。
黒弓の誘いとして、騙されて堺に向かった風太郎は蝉左右衛門に拘束され、戦の手伝いをさせられることになる。
戦のなかで仕方なく子どもを殺めてしまった風太郎は、同じ境遇である芥下のことを思い出し、思い悩む。
更に、大阪城を攻めるなか、戦の、そして忍、あるいは采女の酷さを風太郎は知っていくこととなる。
合わせて、ひさご様の正体も・・・。
忍に戻ることもなく、京に戻った風太郎はまたしても因心居士から大阪行きを督促される。
豊臣家を潰してしまいたい徳川家の陰謀に加担し、蝉左右衛門は風太郎とともに新たな戦の噂を撒こうとするが、それを知った月次組の残菊に阻まれ、ともに遺恨を残すこととなる。
新たな戦が近づくなか、風太郎のもとに姿を現した残菊は常世の消息を尋ねる。
シラを切ろうとする風太郎だったが、百市を尋問した残菊は単にその証言の裏が取りたかっただけだった。
仕方なく、常世が大阪にいることを告げる風太郎だったが、そんな風太郎を残菊は斬る。
意識を失った風太郎を救ったのは百市だった。残菊に斬られて死んだことになっている百市は、残菊と取引し、風太郎を殺さないよう依頼していたのだった。
百市は忍から抜けることを風太郎に告げるとともに、かつての柘植屋敷消失は采女の差配で百市が行ったことであると告白する。
そんな百市を風太郎は許せない。
傷が癒えた頃、高台院から風太郎は呼び出され、因心居士の正体、そして果心居士をめぐる逸話をねねの口から聞かされる。
装飾のなった瓢箪とともに、太閤の脇差しをひさご様のもとに届けるよう求められた風太郎は、窶れたねねを見て承知せざるを得なかった。
とはいえ、包囲された大阪城に潜入し、ひさご様に会うのは至難の業。
因心居士はまず果心居士を救い出し、その後に果心居士の力でもって、ひさご様のもとに向かうという案を出す。
風太郎は黒弓とともに大阪城に向かう。
藤堂家の陣に紛れ込んだ二人だったが、間もなく蝉左右衛門に見つかってしまう。
蝉左右衛門もまた大阪城の奥に潜入した常世のもとへ向かうべく、風太郎と黒弓に同行する。
まずは、果心居士を見つけるべく千畳敷に走った三人は、豊家の馬印であるひょうたんに閉じ込められた果心居士を見つける。
果心居士を救出し、続いてひさご様を探すが、残菊をはじめとする月次組がひさご様の籠る朱三櫓を取り囲む。
果心居士の術により辛うじて、ひさご様のもとにたどり着いた三人だったが・・・。
今回は歴史ものということで、ちょっと意表をつかれました。
ただ、その面白さはこれまでの現代を舞台としたものと比べても遜色なく、非常に堪能することができました。
主人公にも等身大の魅力があり、謎の瓢箪”因心居士”やら曲者も多数。
珍しく(最後はちょっとイメージが変わってしまいますが)蝉左右衛門のような嫌われ役であったり、明確な敵役残菊とかを配しているあたりが、これまでの平穏な現代のエンターテインメントとは違うことを印象づけます。
ひさご様のラストがわかるだけに、ラストへ向かって疾走する物語が物悲しい。
果心居士による大スペクタクルなど、最後に盛り上がりはみせるものの、やはりラストの締めくくり方は哀しい。
そのうえで、最後に提示される『プリンセス・トヨトミ』 との繋がり。
やはり上手いなぁと思ってしまいます。
お薦め度:★★★☆☆
再読推奨:★★★★☆