Banka2013年、32冊目。今野敏 『晩夏 東京湾臨海署安積班』



「東京湾臨海署安積班」シリーズの8作目?



並行して立てられた殺人事件の捜査本部で、速水に殺人の嫌疑がかかる。懸念する安積を余所に、二つの事件が一つに纏まって、というストーリー。





水上安全課からの連絡によれば漂流するクルーザーから死体が発見されたという。



嵐の海の上、密室となったクルーザーでの殺人事件に、臨海署に捜査本部が立てられ、安積班が担当になる。



臨海署では既に新木場のクラブで発生した殺人事件のために捜査本部が立てられており、これで二つの捜査本部が同時に立つことになった。



安積が捜査に着手しようとする矢先、新木場の捜査線上に速水の名前が上がり、身柄拘束のうえ事情聴取を受けているとの報が入る。



気が気でない安積に、安積と組むこととなった警視庁捜査一課の若手矢口雅士は一人で現場での事情聴取をすることを安積に提案し、安積にもう一方の捜査本部へ向かうよう勧め、安積もその提案に乗る。



相楽班が担当ということもあり、速水への対応に懸念を持っていた安積だったが、意外にも相楽は親身に安積に対応するのだった。



毒殺された被害者香住昌利の持っていたグラスに速水の指紋が残されていたことが速水拘束の理由だ。



VIPが集まるパーティーにどうして速水が参加していたのかもわからないままに、安積の気は焦るが、容疑者扱いされる速水は頑なに口を閉ざし、速水への容疑が濃くなっていく一方だという。



更に、自身の捜査を投げ出し、矢口一人に事情聴取をさせたことが問題視され、安積は管理官らに叱責されるとともに、矢口の上司であり相楽の元上司佐治基彦警部もまた安積を非難する。



再度事情聴取を行おうとする安積に矢口は抵抗を示す。



高圧的な矢口の態度は関係者を委縮させ、関係づくりも損なっていることに気付く安積だったが、なかなかうまく矢口を諭すことができない。



本部に戻ると早速佐治のもとに報告にいく矢口の姿に捜査一課のエリート臭を感じる安積だったが、意外にも須田は佐治もまた矢口に手を焼いていると喝破する。



程なく、速水から事情を聞くことになった安積は、速水が暴走族から更生した青年新藤秀夫から招待状をもらったことを知る。



拘束を解かれた速水は(安積の進言もあり)クルーザーでの殺人事件本部に引き取られる。



クルーザー殺人事件の被害者加賀洋がつきあっていた友人らが浮かび上がるが、その面々は新木場の事件にもいくばくかの関係があった。



フリーアナ永峰里美は新木場のパーティーにも参加していた。



また、加賀と同業でIT企業社長の木田修と弁護士の柴野丈一郎はパーティーに参加予定だったが急遽キャンセルしたのだという。



この三人への事情聴取にあたる安積は相変わらずの矢口の態度に閉口するだけだったが、速水は容赦なく矢口を叱責する。部下を育成する速水の態度に感心する安積だったが、速水にとっては何ほどのことでもなかった。



やがて、水上安全課の吉田勇警部補から、当日の嵐を鑑みれば、犯行後、犯人が船を操縦していたはずとの見解を引き出した安積はクルーザーの操船技術の有無をキーに捜査を進めていく。



永峰里美を巡る男たちの嫉妬、争いに端を発していることに気付いた安積らは・・・。





今回は、重要なキャラクターながらもどちらかといえば脇役であった速水が中心となる話。



速水と安積の関係だけでなく、跳ねっ返りの警視庁捜査一課の若造の教育という側面もあり、多面的な面白さを味わうことができる。



ただし、その分、安積班のメンバーの影がどうしても薄くなりがちで、要所要所に噛んではくるものの、どうも添え物扱いになってしまっている。



あの須田でさえそうなのだから、村雨や黒木に至っては・・・。



その意味で、安積班とはいうものの、「班」って感じじゃないな、この作品は。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★☆☆