Komainujohn2013年、58冊目。垣根涼介『狛犬ジョンの軌跡』



素性もわからないままに、実体化した狛犬を拾った主人公の困惑と愛着を描く話。





一級建築士・太刀川要は仕事にウンザリして、10年来乗っているレガシィB4に乗り込むと、中央環状線・湾岸線を抜け、東関道を成田で降りると、一路銚子に向かった。



ところどころに林の残る畑の中の一本道を走っていたレガシィB4は不意に現れた巨大な黒犬をはねてしまう。



慌てて確認した太刀川は、車による怪我ではない創傷で犬が瀕死であることを知ると、近隣の動物病院を調べるが、深夜のこと、開いているはずもない。



仕方なく、人間の救急病院にかつぎこむが、相手にされない。整形外科のある救急病院も街で発生した事故のために、手は空かないだろうとのこと。



意を決した太刀川は、自身の地元まで犬を連れていくと、早朝の動物病院に黒犬を運び込んだ。



黒犬が病院に運び込まれると、病院に預けられた犬や猫が敵愾心をむき出しにして吠えかかる。



幸い骨折もなく、傷の癒えるのも(異常なほどに)速かった。



飼い主が見つからないままに、犬を引き取ることになった太刀川だったが、独身で一戸建てを借りており、一階に黒犬を住まわせることになった。



外に出すと周囲の犬が騒ぎ出すため、収集が付かないのだ。



犬らしくない犬との生活が始まる。



実は、黒犬は銚子の神社の狛犬が生身を得たものだった。



人間の言葉を介す一方で、犬のことをよく知らない黒犬だったが、太刀川の心性が良性であることを知り、暫くともに暮らすことを決める。一方で、人間のことがよくわかっていることを隠しながら・・・。



太刀川は交際する年上の女性知花麻子と犬の名を決める。



平凡な名が良いという立川は、黒犬をジョンと名付ける。



捨てられた子猫を保護するように迫るジョンに太刀川も同意するなど、少しずつ良い関係が出来てきた矢先、太刀川は気になる雑誌記事を目にする。



太刀川がジョンを見つけた夜、銚子で少年らが巨大な黒犬に殺害されるという事件が発生していたのだ。更に、DNA鑑定では、黒犬とされる生物のDNAは犬のものではありえないという。



気になった太刀川は銚子に調査に赴く。



当日は、不良少年らが地元の八幡で台座に載った獅子を引きずり落として破壊し、狛犬も行方不明になっていた。



そんな罰当たりな不良少年らが犠牲者なのだった。



関係者の証言から、ほぼ犯行がジョンのものであると確信する太刀川だったが、今更助けたジョンを保健所送りにすることは忍びなく、銚子からそのままジョンを自宅に連れ帰る。



麻子は警察に届けることを主張するが、太刀川の思いを知り、しばらく猶予期間を取ることとする。



しかし、太刀川・麻子・ジョンが散歩に出たところで、突然ジョンに襲い掛かってきたドーベルマンからジョンを咄嗟に庇った太刀川は大怪我を負う。



その後、ジョンは保護しようとした警察から逃走し、行方不明。



病院から退院した太刀川のもとを訪ねてきたのは千葉県警の山崎だった。



山崎は太刀川に辿り着くに至った経緯を話し・・・。





狛犬が実体化という、かなり奇妙奇天烈な設定。



ただ、主人公は正体不明な黒犬というだけで正体を知らないだけに、読者としてはいつその正体が判明するのかという期待(?)のようなものを抱きながら読み進めます。



しかし、結局のところ、主人公は最後まで正体には気付かなかったのでしょうか。最後まで、普通の奇妙な黒犬として接するだけに終わりました。



勿論、それを暗示するような事件の提示はありましたが、それで狛犬が本当の犬になってしまったという解釈するほうがどうかしていますから、そりゃそうでしょう。



その意味で、全体の筋立てとしては、拾った巨大な犬の飼い方に困惑し、その犬の起こした事件を知って戸惑うという、いかにもな話に尽きるような気がします。



ただ一点、狛犬ジョンの独白が、アクセントですが・・・。



こういった話だと、最後にジョンは狛犬に戻るという終わり方をしそうなものですが、更に流離いの旅に出るというのは意表を衝かれました。



これは更に新たな人間との出会いを描く次作があるということでしょうか。



お奨め度:★★★☆☆



再読推奨:★★★☆☆