お世話になりありがとうございます。

 

前回、前々回で、5大栄養素の解説をしました。これでお伝えしたいことが全て説明し終わりましたので、今回は、改めてそれをまとめて、起立性調節障害の治療にどのように活かせるかを説明したいと思います。

 

これまでの9回の解説を振り返ってみます。

第1回 脳腸相関について

第2回 リーキーガットについて

第3回 アレルギーと食物不耐症について

第4回 グルテン・カゼイン不耐症について

第5回 SIBOとSIFOについて

第6回 慢性炎症と分泌型IgA抗体について

第7回 副腎疲労とブレインフォグについて

第8回 三大栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)について

第9回 ビタミンとミネラルについて

 

の合計9回でした。様々な重要な概念について説明をしました。それでは今回のブログでは、これらの概念が、今後の起立性調節障害の治療にどのように利用できるかを考えていきます。

 

まず今まで、起立性調節障害は、自律神経の調節が上手くできない病気であり、自律神経やメンタルについてをメインに診るというのが一般的なスタンスでした。脳腸相関の観点から考えると、自律神経は、脳、免疫、内分泌と強く関わっており、それが全て腸の状態によって左右されると言えます。今後はこの脳腸相関の観点から起立性調節障害の状態や治療について考えることが大切になります。特に、起立性調節障害で、週1、2回以上、学校の遅刻、欠席がある中等症以上の子では、次のステップの治療に進むべきなのでと考えています。

 

最初にすべきことは、第6回目のブログで記載したように、慢性炎症をしっかり治すことです!鼻炎や副鼻腔炎、歯肉炎、アトピーなど、大なり小なり、皆さん、何かしらの慢性炎症があるのではと思います。これを、症状が軽いからと放置しておくと、体内で常に炎症が続いている状態となり、全身に良くない反応を起こし、リーキーガットを悪化させたり、副腎疲労が起こったり、鉄の吸収が悪くなって、どんどん炎症が進む悪循環になります。面倒と思わず、それぞれの診療科でしっかり治してもらうようにしてください。

 

次に、食事のスタイルを見直すようにしてください。起立性調節障害がなかなか改善しない人は、朝が起きれないからとかお腹が空かないからと、朝ご飯を抜いてませんでしょうか?第8回目のブログで説明したように、食事の間隔が長く開いてしまうと、血糖値の乱高下が起こってしまい、倦怠感や眠気、メンタルの症状が悪化してしまいます。血糖値は常にある程度一定にすることが望ましいことと、腸内細菌のバランスを維持するため、朝食を抜いている人や、1日1、2食しか食べない人は、少しでも良いので、1日3食食べ、血糖値の変動があまり起きないようにしましょう。

 

そしてお菓子やジュースなど、炭水化物を多く摂ると、血糖値の乱高下が更に大きくなったり、余分な炭水化物が中性脂肪として蓄えられてしまい肥満に繋がります。また炭水化物を過剰に摂取すると、ビタミンB1の消費が増え、疲れやメンタルの不調が増えてしまいます。腸内細菌の悪玉菌やカビのカンジダが増えて、SIBOやSIFOが悪化しますし、過剰な炭水化物は、脳や腸で起こる炎症の原因となるため、過剰に摂るのは望ましくないのです。炭水化物を減らして、その分をしっかりタンパク質で補うのが理想です。しかし、タンパク質の中でも、小麦のグルテンや、乳製品のカゼインは、腸で炎症を起こしやすく、ほとんどの人で不耐症を持っていると説明しました。小麦や乳製品は、食べて明らかに調子が悪くなるようなら、普段は控えるようにするのが良いでしょう。小麦、乳製品以外の、肉、魚、玉子を中心に、中学生の男子では1日60g、女子では1日45gを目安に摂ってみてください。

 

タンパク質をしっかり摂ることにより、酵素や免疫に関わる抗体、フェリチン鉄のタンパク質などがしっかり作られるようになり、セロトニンやドパミンなどの神経伝達物質も合成されるため、身体症状だけでなく、不安や落ち込み、イライラ、不眠などの症状も改善することが期待されます。以前の記事にも書きましたように、うつや、PMS、マタニティーブルー、産後うつ、更年期障害などの精神症状は、直接的にはセロトニンの低下が原因となるので、セロトニンの重要さを理解いただけることかと思います。ご家族の方も、しっかりタンパク質の摂取を心がけてください。

 

脂質は、体脂肪を増やしてしまう、長鎖脂肪酸の中のオメガ6脂肪酸(大豆油、コーン油など)と、トランス脂肪酸(マーガリンやショートニング、ファットスプレッドなど)をなるべく控え、逆に中鎖脂肪酸(ココナッツオイル、パーム油など)やオメガ3脂肪酸(青魚に含まれるDHA、EPA)をしっかり摂ることが健康に良いということになります。オメガ3脂肪酸は青魚や干しエビなどに沢山含まれますが、これらに中鎖脂肪酸や、物によってはビタミンAやDが配合されたサプリメントも良コストパフォーマンスで販売されています。これらを内服するのもお手軽です。

 

ビタミンとしては、腸粘膜の修復や分泌型IgA抗体の生成、抗炎症作用として、特にビタミンAやビタミンDが重要となります。ビタミンAとDは、なかなか医療機関では検査や薬の処方のハードルが高くなりますので、少ないと感じたら、サプリメントで補うのが良いかも知れません(ビタミンDを増やすには日光浴=できれば散歩が望ましい)。またビタミンB群も、炭水化物や脂質、タンパク質など様々な栄養素の代謝や免疫などで重要と説明しました。全てのビタミンB群がサプリになっていて、30日分で250円程度ですので、活用されるのも良いと思います。

 

ミネラルとしては、最も大切なのは鉄です。血液検査でフェリチンが低い結果となった場合は、まずは慢性炎症をきちんと治して、タンパク質をしっかり摂り、鉄剤の内服を行ってください。フェリチンの基準値に関しては、特に女子ではとても低く設定されているため、男子と同様の基準値で考えるべきだと思います。亜鉛も検査をし、不足しているようなら、薬やサプリメントで補うことで、全身の機能や免疫の機能、腸の粘膜などの改善が期待されます。

 

第2回目、第6回目のブログで、リーキーガットがあり炎症が長期化すると、コルチゾールが低下すると説明しました。そうなると、副腎疲労の状態となったり、小腸からの鉄の吸収が落ち、分泌型IgA抗体の分泌が減り、免疫力が落ち、更に炎症が悪化し、鉄の吸収が落ち・・・と悪循環に陥ってしまいます。

 

分泌型IgA抗体が慢性炎症によりどれだけ出にくくなっているかを、市販の検査キットで行うことも可能です。しかしこれは、あくまで目安でしかなく、低いから心配とは言えますが、高いから安心という物ではないのでご注意ください。コストパフォーマンスの良い検査キットをご紹介しておきます(当院横の薬局に置いてもらっています)。調子の悪い時に検査をし、分泌型IgA抗体が下がっていて、治療により体調が良くなった時にもう一度検査をすると、分泌型IgA抗体は上がっていると考えられるので、目で見て体調を確認できる可能性があります。

 

免疫は腸で70%が行われていて、特に分泌型IgA抗体が重要な働きをしていると説明しました。睡眠時間や適切な睡眠周期での睡眠により、分泌型IgA抗体が増えて風邪を引きにくくなるデータがあるなど、臨床的にIgA抗体の重要性は盛んに言われています。起立性調節障害の症状で、眠れない、起きれない場合は仕方ありませんが、夜更かし、朝寝坊でどんどん睡眠リズムが乱れるのは良くありません。学校に行かなくなったとしても、健康維持のために、睡眠時間や睡眠リズムには十分気を付けるようにしてください。

 

腸のリーキーガットを治し、分泌型IgA抗体を増やすために、先ほどまでに挙げたこと以外にも有用なことがあります。

 

整腸剤の内服により、腸内細菌のバランスを整える。ビオフェルミンやラックビーなどいくつかの整腸剤がありますが、ミヤBMという種類が、腸内のIgA抗体を増やし、免疫機能を上げるというデータがあり、酪酸菌から合成される酪酸もエネルギー効率が良いとされます。また腸内細菌は、セロトニン代謝を促し、脳腸相関を改善させる効果もあります。

 

腸のバリア機能の修復には、アミノ酸である、「グルタミン」が重要です(旨み調味料で有名なグルタミン酸ではありません)。グルタミンは、グルタミン代謝という代謝経路があるほど重要なアミノ酸で、腸粘膜細胞の修復、再生を行い、腸管のタイトジャンクションを改善させるとともに、分泌型IgA抗体の産生を増やし、全身の炎症が減るという、とても有用な働きがあります。肉、魚、玉子、大豆などに多く含まれますが、タンパク質を食事でしっかり摂れない場合は、L-グルタミンとしてサプリメントで摂取したり、胃薬であるマーズレン錠にはグルタミンが含有されているため、しばらく内服するのも良いでしょう。

 

そして漢方薬である「補中益気湯」の内服も提案します。これは一般的には倦怠感や疲労に使う漢方薬で、風邪の予防などの効果もあるとされていました。文献的には、補中益気湯は、交感神経の過緊張を整えたり、消化吸収を改善させる効果もあり、更には腸管で分泌型IgA抗体の産生を促し、免疫力を高める効果が報告されています。慢性疲労症候群という病気に、補中益気湯が使われることがあるのは、このような観点からの治療を期待されているのかも知れませんね。

 

以上のような治療を組み合わせることで、今まで治りにくかった起立性調節障害の症状が改善するのではと考えています。しかしもう1点、第5回目のブログで説明しましたように、小腸に細菌や真菌が異常に増殖し、小腸内でガスが沢山発生している状態は、とても良くない状況となり、しっかり見極めて適切な対応をしなければいけません。

 

まず、お腹の腹痛や下痢、便秘、ガス、腹部膨満などの症状が、機能的症状である、過敏性腸症候群(IBS)による物なのか、器質的症状である、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)やSIFO(小腸内真菌異常増殖症)による物なのかを、症状の問診や診察から判断する必要があります。その症状に適応した治療をしないと、治るどころか、逆に悪化してしまうため、食事や内服薬でどのように気を付けないといけないか、慎重に考えないといけません。

 

SIBO(小腸内細菌異常増殖症)

整腸剤の内服で悪化する場合がある

食物繊維や発酵食品などで悪化する

抗生物質、ステロイドの内服、ピル、胃薬、便秘薬の内服で悪化する

 

SIFO(小腸内真菌異常増殖症)

整腸剤の内服で悪化しやすい

糖質や鉄剤、食物繊維の摂取で悪化しやすい

抗生物質、ステロイドの内服、ピル、胃薬、便秘薬の内服で悪化する

日常生活のカビに注意(バナナやパイナップル、ナッツ、コーヒーなど)

 

という点に注意をしないといけません。SIBOやSIFOの治療が軽快すると、脳腸相関による自律神経やメンタル、ホルモンなどの症状も軽快する可能性が期待されます。

 

第5回目のブログで説明ができていなかった内容で、1つ重要な項目について、追加で説明しておきます。「FODMAP食」についてです。「FODMAP」とは、Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、and(そして)、Polyols(ポリオール)の頭文字です。

 

具体的には、小麦、根菜、玉ねぎ、ニンニク、果物、ジュース、牛乳、ヨーグルト、チーズ、ハチミツ、大豆、不溶性食物繊維(穀類、きのこ、豆類、ごぼう、バナナ、芋類など)です。これらが少ない食品を「低FODMAP食」、これらが多い食品を「高FODMAP食」と言います。健康な人にとって、高FODMAP食も大切な栄養素で、腸の状態を整えてくれる物になります。しかし、IBSやSIBO、SIFOでは高FODMAP食で症状が悪化するため、なるべく低FODMAP食を摂るように心掛けましょう(特にSIBO)。

 

今回のブログでは、これまで説明してきた内容から、起立性調節障害の治療に重要と思われるポイントを抜き出して解説しました。もう一度、整理すると

 

脳腸相関から自律神経やメンタルの症状を改善するには、腸の改善が重要!

リーキーガットという状態になっていては良くない

グルテンやカゼインはなるべく制限することが望ましい

IBSと似た症状のSIBO/SIFOとの見極めが重要で、この治療がとても大切!

腸の中で沢山作られる分泌型IgA抗体は、とても重要でこれを増やすことが大切!

慢性炎症があると全身状態が悪化するため、これをしっかり治療することが重要!

炭水化物は多く摂らず、沢山のタンパク質と良質な脂質の摂取を心掛ける

鉄や亜鉛、ビタミンA/D、ビタミンB群の摂取が良い

整腸剤、グルタミン、補中益気湯も腸の環境や免疫機能を向上させるために良い

 

という内容でした。

 

このような治療法は、実は、「分子栄養療法」などの呼び方で、自費診療でされているクリニックで行われていることが多いです。このブログの中でも、検査の説明などで何度か紹介をしてきました。このような診療は、腸の環境やコルチゾールの状態を調べるのに、保険診療での検査ができないため、自費の検査になってしまいます。そして多くは薬ではなく、サプリメントや栄養指導になります。かなり高額な費用となるのが欠点ですが、様々な検査があり、サプリメントや栄養指導も経験に基づいて適切に治療を受けられるのが利点と言えます。

 

一方、当院のような保険診療で行っている医療機関では、このような治療を行っている所は少ないです。自費の検査ができないため、推測で診断することが多くなりますが、臨床症状や診察所見から、検査はしなくても診断は可能と考えます。そして、通常の血液検査は保険診療でできますし、整腸剤や鉄剤、亜鉛、漢方薬など、処方薬として出せる薬も多いのは利点と言えます。

 

どちらが良いということはなく、どちらも利点、欠点があると思いますので、納得いただいた医療機関で診療を受けるようにしてください。

 

この治療は、あくまで起立性調節障害の「補助的」な観点から行う治療になります。しばらくは血圧の薬や水分をしっかり飲むことは続くことになりますが、慢性炎症が良くなり、腸の状態が軽快することで、起立性調節障害(もしかしたら起立性調節障害の症状ではなく、リーキーガットの症状や、副腎疲労の症状なのかも知れませんが)の症状が軽快し、徐々に血圧の薬の内服や、水分をしっかり飲む必要が無くなってくる可能性を期待します。そして以前はスーパーライザーによる赤外線治療に効果が無かった人も、このような治療により脳腸相関が良くなると、今度は効果がある可能性があると考えています。よろしければ健康維持のためまたやってみてください。

 

下竹も、この1ヶ月ほど、小麦を減らしたり、牛乳を豆乳に変えたり、甘い物を飲まなくし、昼食はタンパク質をメインに摂るようにしました。小麦はあまり制限しても関係なさそうでしたが、それ以外は結構効果があるように感じます!少し良くない食事を多く摂ってしまうと、お腹のガスが溜まるようになり、体も調子が悪くなる気がしました。食事療法も、最初は面倒かも知れませんが、明らかにそれを制限すると体調が良くなることも期待されます。食事制限もずっとしないといけない訳ではないので、どうかストレスに感じないようにしてください。

 

そしてこの治療は、本人の治療に対するモチベーションがかなり大切と考えます。家族が無理に治療を受けさせ、本人が全く乗り気でなく嫌々やっているのであれば、あまり改善が期待できない可能性があります。どうか本人の治療に対するモチベーションを重要視してあげてください。

 

最後に、今回の治療は、「起立性調節障害」に対する新しいアプローチとして紹介しました。しかしこの治療は、何も起立性調節障害に限った物ではなく、過敏性腸症候群や片頭痛、心因性嘔吐症、不安障害、うつなどにも効果は見られます。チックや強迫性障害の症状にも効果はあると思われますし、発達障害の癇癪や多動、集中力のなさなどの特性も改善させると考えています。大人の方でも、更年期障害の治療や、生活習慣病、癌の予防などにも効果があると思われますので、あらゆる方に是非、試していただきたい治療と言えます。

 

全10回とかなり長い内容になりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました!これまで起立性調節障害で、友達と同じように学校に行ったり、遊んだり部活動ができずに、有意義な学生生活を送れなかった子はとても多いと思います。そのような子で、従来の治療でも良くならなかった子に対し、少しでも生活を改善させてあげられたら・・との一念で、色々調べてまとめあげました。皆さんが少しでも健康になれますように・・・。

 

参考文献を挙げておきます

① 魔法の7つの食習慣 安藤麻希子 分子整合栄養医学普及協会

  今回のブログで取り上げたSIFO、慢性炎症、IgA抗体以外はほとんど網羅

  お母さん目線で非常に分かりやすく、食事のレシピがとてもオススメ!

② 小腸を強くすれば病気にならない 江田証 インプレス

  SIBOについての解説本。SIBOについての本は少ないので参考になります

③ 改訂増補版 おなかのカビが病気の原因だった 内山葉子 ユサブル

  SIFOについての解説本。SIFOについての解説本はこれしかない?

④ 朝、起きられない病 今西康次 光文社新書 

  起立性調節障害を栄養学の観点から治療されている小児科Dr記載の良書!

  本ブログの半分くらいはこの本にも書かれています(この本を教えてもらったのは

  ブログを全て書き上げてからなので、厳密には参考文献ではないのですが・・)