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前回はSIBOとSIFOという馴染みの薄い症状についての説明と、過敏性腸症候群(IBS)との区別が重要という説明をしました。今回は、慢性炎症の重要性と、抗体の1つである分泌型IgA抗体についての解説をしたいと思います。今回も、少し専門的な話になりますが、大切な内容ですので、最後まで読んでもらってください。

 

まず「炎症」という言葉を良く聞きます。炎症とは、細菌やウイルスなどに感染した場合や、怪我などの物理的刺激、薬や食べ物などの化学的刺激があった場合に起きる、生体の防御反応になります。これらの接触に対し、免疫細胞が集まり、排除しようとしたり、組織の修復を促すことなどを行います。その結果、患部が赤くなったり、腫れたり、熱を持ったり、痛むというような症状が出ます(炎症の四徴)。たんこぶや、蚊に刺された時の状態を想像してもらえると分かりやすいと思います。そのように分かりやすい反応を「急性炎症」と言います。

 

それに対し、「慢性炎症」は、先ほどのような特徴的な強い反応がなく、体の内部で、持続的に炎症が起こっているような状態を言います。例えば、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、慢性中耳炎、歯肉炎、虫歯、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、子宮内膜症、慢性胃炎など、様々な物があります。いずれも、落ち着いている時はあまり気にならない症状ですが、常に体内ではずっと「炎症」が起こっている状態になります。火事ではないけど、小さい火がずっとくすぶっているような状態を想像してください。

 

慢性炎症は、多少の症状があっても、痛みが強くなければ問題はないのでは?と考えてしまいますが、慢性炎症を放置しておくととても大変なことになるのです!

 

持続的な炎症により、多くのビタミンやミネラルの消費が激しくなり、免疫機能や神経の機能などで正常な働きができなくなる(特にビタミンA、D、鉄、亜鉛、マグネシウムなど)

 

腸の炎症の状態が悪化すると、腸内細菌のバランスが乱れ、前回解説したSIBOやSIFOが見られやすくなる。

 

腸粘膜の損傷が起こりやすくなり、以前に解説した、腸のバリア機能が壊れる「リーキーガット」の状態となってしまう。その結果、腸管から、食物や細菌などの抗原物質が体内に侵入し、更に炎症が広がってしまったり、鉄などの重要な栄養素の吸収がとても悪くなってしまう(これについてはまた後日、解説します)。

 

脳神経でも炎症が広がり、様々なメンタルの症状が起きる

 

炎症性物質がその場所だけでなく全身に広がることで、全身の組織や細胞に損傷が起こり、将来の生活習慣病のリスクとなる

 

通常は炎症が起きると、炎症を鎮めるために副腎という臓器からコルチゾールというホルモンが分泌され炎症が抑えられます。しかし、炎症が慢性化すると、コルチゾールの分泌が低下し、炎症が更に悪化し、自律神経のバランスが乱れ、交感神経優位となって、様々な自律神経の症状が悪化してしまいます。このような状態を「副腎疲労」と言いますが、これはまた後日、解説します。

 

このように、炎症が慢性的に持続すると、その場所だけでなく、全身にその影響が広まってしまいます。上の説明の通り、炎症の持続により、腸、脳、自律神経、免疫、ホルモンが全て影響しているのがお分かりいただけると思いますが、つまり、以前に解説した、「脳腸相関」の全てに影響してしまうということになるので、炎症の持続はとても良くないことになるのです。

 

新型コロナウイルスに感染した後、起立性調節障害のような後遺症が残ることが知られています(long COVIDとも呼ばれます)。最近ではこの症状は、脳や神経など様々な臓器や組織で慢性炎症が残ってしまっている状態だと考えられています。この状態で、自律神経に影響が出てしまった場合、新型コロナウイルスに感染後に起立性調節障害を発症したということになるのだと推測されます。

 

ここまでは「慢性炎症」の重要性について説明しましたが、次に「分泌型IgA抗体」について説明したいと思います。IgA抗体は、免疫グロブリンの1つで、以前に食物不耐症とアレルギーの説明の時に説明した、IgE抗体、IgG抗体、IgM抗体と同じ仲間になります。IgA抗体も免疫に関わる重要な抗体なのですが、大きな特徴があります。

 

それは、IgA抗体は、眼や鼻、口、腸などの粘膜に多く存在し、そこで細菌やウイルス、カビ、食物抗原、化学物質などから体を守るということです。以前に、人体の免疫の約70%が腸管で行われていると説明しました。その理由は、IgA抗体を産生する免疫細胞が腸に多く存在していて、IgA抗体は、体内の中でも腸管に最も多く存在するからになります。

 

そして腸の中で、細菌やカビ、食物抗原などと反応し、異常な反応が起きないように体を守ってくれたり、腸内細菌の善玉菌と悪玉菌を見分け、腸内細菌のバランス(腸内フローラ)を調整し、免疫システムを維持する機能も持っていると言われています。またお母さんから赤ちゃんに初めてあげる母乳(初乳)にはIgA抗体が多く含まれ、IgA抗体を持たない新生児を感染から守る働きもあり、とても重要な抗体になります。

 

ちなみに、赤ちゃんの予防接種には、注射で行うワクチンと、飲むワクチンがあります。注射のワクチンは、以前にも説明しましたように、特定のウイルスに対するIgG抗体を増やす働きがあります。ロタウイルスのワクチンは、飲むワクチンですが、これは口腔内や胃などの粘膜に接触することで、IgA抗体を作らせているという違いがあります(最近、出回ってきた、フルミストと呼ばれる鼻に噴霧するインフルエンザワクチンも、同様にIgA抗体を作らせています)。

 

これまでの解説で、腸でリーキーガットが起きたり、食物不耐症が起きたり、SIBOやSIFOの状態となったり、慢性炎症があった場合、脳腸相関から全身に様々な症状が出るとお伝えしました。腸が原因で様々な症状が出てしまい、とても怖いと感じられた方もいるのではないかと思います。このような状態は、結局、何が良くないかと言うと、慢性炎症が長期化してしまって、腸内の分泌型IgA抗体が下がってしまう状態が良くないのです。上のような状態から腸を守ってあげれば良いということで、結局、IgA抗体を増やすことが、様々な病気の治療や予防に繋がるということになるのです!!そう考えると、IgA抗体は本当に大切な分子だと思っていただけるかと思います。IgA抗体を増やすための方法については、これもまた最後のまとめの時に解説したいと思いますので、もう少しお待ちください。

 

このIgA抗体は、粘膜に存在する時は、2つの分子が結合した状態になるのですが、この状態を「分泌型IgA(s-IgA)」と呼び、唾液や便、尿などに多く分泌されます。分泌型IgA抗体は、急性炎症や自己免疫性疾患の状態の時は増加するのですが、慢性炎症や持続的なストレスの時は低下すると言われています。この分泌型IgA抗体の量を測定することで、体がどれくらい慢性炎症やストレスの状態にあるかをある程度、見積もることができます。インターネットで調べていただくと、唾液で分泌型IgA抗体を調べる検査キットがいくつか出てくると思います。個人的には、貼り付けた画像のキットがコスパも良く、お勧めです。こちらの会社は、大阪・関西万博で話題になった大阪ヘルスケアパビリオンでも検査キットを展示されたため、ご存知の方もおられるかと思います。インターネットからも購入できますが、当院横の調剤薬局さんでも置いていただくことになりましたので、興味のある方は是非やってみてください(先ほどの理由で、急性炎症や自己免疫性疾患のある方は、高値と出て、評価が難しいと思いますので、それらが無い方が望ましいかと思います。風邪を引いている時は、それが治ってから試すことをお勧めします)。

 

IgA抗体は、無害な食物や自分自身の組織・元々存在する腸内細菌などには過剰に反応せず、病原体など有害な物質に対しては粘膜を保護する働きがあります。IgA抗体を作り粘膜を守るとともに、腸内細菌のバランスを保っています。この働きが上手くいかない時に、自分自身の組織を攻撃してしまうのですが、このような病気を自己免疫性疾患と言います。このように、自分にとって無害な物か、有害な物かを識別しIgA抗体の産生が必要かを判断する細胞を、「制御性T細胞」と言います。2025年に坂口志文氏がノーベル医学・生理学賞を受賞したのが、この制御性T細胞を発見した功績になりますが、ここでもIgA抗体が関わっているのです。

 

ちなみに、腸というと、大腸癌という病気があります。大腸癌は日本人で毎年、約15万人が診断されるとても多い病気です。しかし、「小腸癌」はあまり聞かない病気です。小腸癌は、大腸癌の数百分の1しかないと言われていますが、なぜ小腸では癌が起こりにくいのでしょうか?それは、小腸は大腸よりも食物の通過速度が速いということもあるのですが、腸内細菌が大腸よりも少ないことと、IgA抗体が多く免疫力が高いことで癌が起きにくいと言われています。IgA抗体は癌とも密接に関係し、免疫力がいかに大事かお分かりいただけると思います。

 

今回は、慢性炎症と分泌型IgA抗体について説明をしました。慢性炎症は全身の症状に関わるとても良くない状況で、それを放置すると、脳腸相関によって全身に様々な症状が起こってしまいます。そして分泌型IgA抗体は、多くが腸の粘膜から作られ、免疫で重要な働きを持ちます。どちらも病気の発症や予防に重要な働きとなります。次回は、「副腎疲労とブレインフォグ」について説明したいと思います。