地下鉄で見た奇妙な男
少し混んでいる地下鉄大江戸線の車内。
“男”が突然「あ~、最低」と言った。大声ではないが背中越しに聞いた女性が振り向いたからそんなに小さな声でなかったことは確かだ。
私は“男”が「あ~、最低」と突然言った理由を知っていた。
“男”は本を読んでいる内に熱中して汐留駅で降りそこなったのだ。気付いた時にはドアが閉まる瞬間だった。
地下鉄はゆっくりと汐留駅を出発した。“男”はバツが悪そうに皆に背を向けて窓から流れる暗闇を眺めていた。否、暗闇ではなく窓に反射したみじめな自分の顔を見ていたに違いない。
私は“男”の状況だけでなく、気持ちまで完璧に分かった。“男”はブログでこのことを記事にしようと考えている、と。そして、今、その記事をアップしたことも知っている。