給食当番や掃除当番、運動会の準備って、子どもの何を育ててるんだろう

 

給食当番。掃除当番。運動会の準備。

 

日本で育った人なら、誰でも経験あると思う。

 

でも、これが実は何かを育ててるなんて、当事者として過ごしてるときはほとんど意識しない。

 

文部科学教育通信(ジアース教育新社、No.630、2026年6月22日号)で新連載「子どもの何を育てるか:日本の教育実践とSELから」を始めました。

 

第1回はこの話から。雑誌は購読者向けなので、ブログでも内容を紹介してみる。

 

 

 

「当たり前」が、海外だと「驚き」になる

2016年、エジプトの大統領が来日したとき、目黒区の小学校を視察した。子どもたちが自分で給食を配膳して、掃除を分担して、学級会で意見をまとめる。その姿に感銘を受けたらしい(外務省、2016)。これがきっかけで、安倍元首相とのあいだでエジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)が結ばれた。

 

日本の教員にとっては毎日の当たり前。なのに、外から見ると、意図して育てられた一つの教育的選択に見えるらしい。だったら、その「当たり前」が何を育てているのか、自分たちの言葉でも説明できた方がいいし、教育行政側からみたら非常に大切。価値があることと、それを示せることは別の話なので。

 

日本の教員は、給食当番や掃除当番、運動会が育てる力の意義を、日々肌で感じている。でも、これらの活動が育てている力は、読み書きや計算を測る学力テストでは捉えにくい。だから、政策の文脈でエビデンスを示すのが難しい。

 

価値があることと、その価値を示せることって、別の話なんですよね。

教育が育てているものを測って、国際的な言葉で示せて初めて、政策の議論の場に立つことが出来る。

 

SELという「共通言語」を借りてみる

そこで手がかりにしたのが、「社会性と情動の学習」、英語でSocial and Emotional Learning(SEL)と呼ばれる概念。

 

SELへの関心が高まる一方で、「非認知能力」「21世紀スキル」「ソフトスキル」とか、似た概念がたくさん転がってる。どれも認知テストでは測りきれない能力を指してるんだけど、同じスキルが違う名前で呼ばれたり、違うスキルが同じ名前で呼ばれたりする。

 

この混乱が、研究者や政策立案者、現場の対話をややこしくしてる。OECDもユネスコもSELを政策言語として使ってるけど、各機関が独自の枠組みを持ってるせいで、ある枠組みの「何を育てるべきか」が、別の枠組みでは何に対応するのか整理されてない。フレームワークを横断した比較ができないわけだ。

 

これを整理しようとしたのが、ハーバード大学のステファニー・ジョーンズ教授が作ったSELの分類体系(Jones & EASEL Lab、2019)。堅い言い方をすると分類体系だけど、要するに、いろんな国や団体が言う「SEL」を同じ尺度で比べられるようにした早見表みたいなもの。6領域、177の行動指標に分かれてる。この領域のロゼッタストーンって呼んでみてる(俺が勝手に言ってるだけだけど)。

 

6つの領域は、認知、情動、視点、社会、価値観、自我。お互いに影響しあいながら発達する。

 

「生きる力」をSELで読み直してみた

この分類体系を使って、学習指導要領(平成29年告示)の「生きる力」を分析してみた。

 

 

 

すると、価値観の領域の比重が大きくて、残りの5領域もバランスよく入ってることが見えてきた(水野谷、小川、小原、2026)。生きる力って、思った以上に多面的な設計だったんだなと。

 

SELの分類体系を通すと、日本が長年大事にしてきた教育の概念を、国際的な文脈で説明する共通言語が手に入る。これが第1回の結論。

 

SELって本当に効くの?

最後に、SELの効果についてのエビデンスも少し紹介した。

 

OECDが16カ国・地域でやった社会情動的スキル調査(SSES)では、目標を追いかける力や感情を抑える力が高い生徒ほど、学業成績や就労、健康、幸福度の指標も高い傾向にあるらしい(OECD、2023)。ただこれはアンケートにもとづく相関関係であって、因果関係を示すものじゃないので、その点は気をつけたい。

 

学校教育の方では、213件の研究を集めたメタ分析がある。SELプログラムをやった学校の児童生徒の学業成績は、やってない学校と比べて平均11パーセンタイル高かったらしい(Durlak et al.、2011)。これは介入研究のメタ分析だから、相関じゃなくて効果として読める数字。PISA2022でも似た傾向が出てるとのこと。

 

世界経済フォーラムの「雇用の未来2025」も、今のスキルの4割近くが5年で通用しなくなると言いつつ、これから求められるスキルとしてレジリエンスとか柔軟性、リーダーシップを挙げてる(WEF、2025)。

 

次回への問い

第1回は、日本の特別活動が育てる力をSELの枠組みで読み直して、国際的な共通言語で語れることを示した、というのが骨子。

 

共通言語で語れるって、国際的な対話に入っていく土台になるし、自分の実践を客観的に見るための足場にもなる。

 

でも、エビデンスがあることと、それを公教育としてすべての子どもに届けることは、また別の話。

 

第2回では、幼児期から職場までのライフサイクル全体を眺めながら、公教育システムとして機能させるという、世界共通の未解決課題に踏み込む予定。AIがどんどん進む中で「何を育てるか」をどう問い直します。

 

詳しくは、文部科学教育通信No.630(2026年6月22日号)をどうぞ。 https://www.kyoikushinsha.co.jp/book/7630/index.html