第23章〜前日〜 | 何が善で何が悪か

ベランダで煙草をふかす…2週間前の、”あの事件”が、ずっと昔の事のように思える…

あの日、俺は誓った…自分の応援するアイドルがアイドルでいる間…その限られた"時"…だけでもアイドルに全力を尽くそうと…

俺の応援(推し)しているアイドルは、倉持明日香(AKB48)さんと、増井みお(PASSPO☆)さんの二名だ…

キモヲタ兼ヒモヲタである俺にも…いつかは、”ヲタ卒”しなければいけない”時”が来る…

俺は、この二名のアイドルがアイドルでは、なくなった”時”、ヲタクを卒業することを決心している…



倉持明日香さんは、俺よりも1つ年上、今年で24歳のアイドルだ。

アイドルとしては、既に高齢の域に達しているのだろう…

常にAKB48のシングルに選抜されるようなメンバーでもない…

卒業ラッシュが続く、近頃の様子を見ると、AKB48を卒業するまでに残された時間は、少ないのではないか…


勿論…自分の推しが叶えたい夢の為の卒業なら…できる限り、精一杯の笑顔で、祝福したいと思っている…しかし、恋愛などのスキャンダルによる、卒業は、非常に悲しい…

恋愛云々ではない…恋愛すること自体に、俺は何も嫌悪感は無いし、アイドルとはいえ、年頃の女の娘…仕事と恋愛を両立出来るのならば、恋愛はしてもらっても構わないと思っている。

AKB48のコンセプトは…夢への通過点…だ…

だからこそ、熱くなれる…ヲタクとして。

だから…もし、スキャンダルが出たとしても…そこで卒業はしてほしくない…



これは、増井みおさんにも言えることである…


恐らく、色々な誹謗中傷がネット上で、飛び交うだろう…
もしかすると、握手の時に…アンチな発言をされるかもしれない…

でも、そこで踏ん張って欲しい…アンチに負けず…ただ、ひたすらに夢に向かって欲しい…

俺は、心からそう願っている…














チュンツン…チュンツン…鳥の囀りが聴こえる…

「ん~っんん…朝かぁ」

俺は、ベッドの中で、身体を伸ばし、ゆっくりと上体を起こした…

「ふむ…今日は暖かそうだな…」


そう呟き、もう一度身体を伸ばし、リビングに降りた…朝食は、完全に

”のし梅さん太郎”…3枚という質素ぶりだ…


支度を終え、俺は颯爽と駆け出した…









ゴトンゴトン…ツンツン…


気がつくと…俺は、海浜幕張駅に到着していた…


海浜幕張駅の改札を颯爽と駆け抜け、俺は、今日の現場…”幕張メッセ”に向かった…


この日は、UZA個別握手会が幕張メッセで行われていた。

俺は、金欠のあまりUZAの再販のみの応募だったが、運良く…倉持明日香さんの握手券を2、4部各5枚ずつ手に入れていた…



握手券を握りしめながら、軽快なサイドステップで、幕張メッセに向かう…

何せ…俺にとって、5ヶ月ぶりのAKB48の個別握手会なので、自然と期待は膨らむ…



久々のAKB48の握手会…会場に入ると…あまりの人の多さと蒸し暑さに嫌悪感を抱いた…


俺は、倉持明日香レーンの場所を確認し、一目散で向かった。


そこには、見慣れたオタクが何人かいた…懐かしい…


PASSPO☆の赤坂ブリッツワンマンフライティングで、ふるぼっきさんが言っていた…

「ヲタクだよ…ヲタクの臭いがするニキィ…アイドルに逢いたくて逢いたくて震えている…そんなヲタクの臭いニキィ…!!?」

この言葉の意味がやっと分かった気がする…


そして、相変わらず、倉持明日香さんの握手人気は凄まじいものがある…総選挙では、いつも惜しいところまで、行くのだが…なかなか選抜には入れない…しかし、握手券の売上を見ると、選抜メンバーよりも完売するのが早い…

2推し3推しとして、応援している方が多いのだろう。

倉持明日香さんは、所謂、”釣り”という行為をやる訳ではない。

どのような人に対しても親身になって、対応してくれる。
また、頭の回転が早いので、即座にベストな切り返しをしてくれるので、初めて握手する人にとっては、まず間違いのないメンバーであると思う。

ファンの顔を覚えるのもかなり早いと思う。

そういった要素が、握手人気に繋がっているのだろう…




そんなことを考えていると俺の番になった…

握手レポを書きたいと思う…

餅=倉持明日香
ゴ=ゴンザレス義経

1ループ目 1枚出し

ゴ「どうもー…お久しぶりです」
餅「おぉ!変態!久しぶり!」
ゴ「いやぁ、あまりにも金欠で…散財し過ぎて来れなかったんですよ…」
餅「えぇ!そうなのぉ?でも、劇場来てるじゃん!」
ゴ「あっ…ま…まぁ、劇場はね…い、行きますよ」

2ループ目 4枚出し

ゴ「どうもー」

餅「変態!」

ゴ「鶴幸さんのANN見た…あっ…」

餅「聴いたでしょ!」

ゴ「き、聴いたよ!あれ、とんでもなく素晴らしかったよ!」

餅「いや、全然素晴らしくないでしょ!」

ゴ「いやぁ、あの下ネタのオンパレードはなかなか無いからね!」

餅「いやいや!冷や汗ヤバかったからね!あの状況で司会、進行だよ!?焦ったわ!しーちゃんも暴走するしさぁ…でも、私かなり頑張ってたでしょ!?」

ゴ「うん!頑張ってたね!あの時間帯だからね!いやぁ、あの感じもっと出していって欲しいよ!」

餅「ダメでしょw」

ゴ「いやぁ、でも倉持さんも…レマン湖でねぇ…」

餅「あれは、NGでしょw完全に!」




このような感じであっという間に俺の握手券5枚は散っていった…


その後、俺は海浜幕張の駅近くにあるプレナ幕張に行き、かまどかで昼食を摂ることにした。

勿論、一人だ…




朝は、”のし梅さん太郎”…3枚だけだったので、お腹が空いていた…
俺は、縞ホッケ定食とレモンサワーを頼んだ…


すると…Twitterで、よく絡ませて頂いている、”三流やまさ”さんから連絡を頂いた。
話しを聞くと、13時から暇になるということだったので、絡ませて頂くことになった。
一人ぼっちの俺にとっては、本当に有り難かった。

何せ、次の握手まで、3時間半以上時間が空いていたから…

13時になり、お昼はまだとのことだったので、かまどかに来て頂くことになった…

俺は、三流やまささんと会うのは、初めてだ…非常に緊張していた…

そして時が来た…

「ふふふ…ゴンザレス…さんですか…!?」

「!!!?あっ、はい!やまささんですか!?」


こうして、俺は”三流やまさ”さんと対面した。

三流やまささんは、お洒落な帽子を被っており、凄く穏やかな感じの方で安心した。

三流やまささんとは、AKBの話しからPASSPO☆の話しまで、色々な話しをさせて頂いた…

本当に有意義な時間を過ごすことができ、また、コーヒーも奢ってもらってしまい…本当に感謝しかありませんでした…

次は、30、31日のPASSPO☆のフライティングで会うことを約束し、俺達は別れた…


そろそろ、4部が開始する時刻だったので、71番レーンへ向かった…




3ループ目 1枚出し

ゴ「どうもー」

餅「変態!」

ゴ「あっ、俺もう変態じゃないから!」

餅「!」

ゴ「これからは、麻呂キャラでいくから!」

餅「麻呂!?なんで!?何の麻呂なの!?」

ゴ「いや…(麻呂に種類なんかあるのか)」

餅「何の麻呂なの?」

ゴ「ゴンザレス!」

餅「?」


俺は、猛烈に反省した…猛省した…
麻呂に種類があるなんて、思ってもいなかった…
麻呂が麻呂であることに…何の疑いも持っていなかったが…俺は…麻呂のことを何ひとつ分かっちゃいなかったんだ…


4ループ目 2枚出し

餅「おぉ!」

ゴ「俺もやっと4月から社会人ですよ!」

餅「えっ!?変態就職決まったの?」

ゴ「うん!決まったよ!」

餅「変態でも社会人になれるんだね(^^)」

ゴ「そ…そうみたいですね…」

餅「じゃあ、4月から来れないの?」

ゴ「いや、土日休みだから来れるよ!でも、4月はちょっと来れないなぁ…」

餅「来れないの?」

ゴ「あっ、でもSo longの握手会は行くよ!」


5ループ目 2枚出し

ゴ「歌舞伎町の風俗でカモられてから完全に俺のサイリウム(チラッ)が光らなくなった、っていう話しは…しましたっけ?」

餅「!!(チラッ)してない…してないよwちょwえっ、いつの話し?」

ゴ「あれは…9月ですね…」

餅「wwwちょw何それ」

ゴ「いやぁ、完全に光らなくなってしまいましてね…」

餅「変態もう駄目だね…」

ゴ「それまでは、完全にブンブン振り回してたんだけどね…」

餅「もう使いモノにならないじゃんw」



俺は、何をしているんだ…今日の握手で、俺は一体何を…倉持明日香さんに伝えることが出来たのだろうか…

俺は…悔しかった…この10枚の握手券を取りたくても、取れない人だっている…
俺はその人の分まで、倉持明日香さんを笑顔にしたい…そう思っていたのに…

「何なんだ、このヲタク人生は!!!」

俺は…握手を終えた後に通る通路でひたすら泣いた…









俺は、近くのフードコートの”麦丸”の近くの喫煙所に向かった…


喫煙所のドアを開けようとした…その時…未だかつて感じたことの無いほど圧倒的なヲーラを感じた…


ミシッミシッ…

次の瞬間…


俺の身体は床を突き破り…1メートル下方へ、めり込んだ…

「グフッ…ブハッ…」


地面にめり込んだ身体は圧迫され内蔵が破裂し…俺は吐血した。


痛い…痛いよ…誰か助けて…



カツンカツン…カツンカツン…



誰かが…こちらに向かって歩いてくる音が聞こえてくる…

俺は、痛みに悶えながらも…上を見上げた…

























ま、眩しい…覇王色のヲーラだ…あまりにも幻想的なヲーラ…
今まで、数々のヲーラを見てきたが…そのどれにも…似通っていない…”太郎”の名のつく者だけが…手に入れることが出来る…ヲーラ…

圧倒的、存在感…俺は、神を見ているのか…?


「つ、つん太郎さん…」

「…」

「つ、つん太郎さん!?」

「…」


ゴクリと喉が鳴る…唾を飲み込むのもやっとになるほど…張り詰めたヲーラが漂う…


「ワレ、ヲタガミノケシン。ツンタロウ。」


「!!?は、はひっ!?」


「ダレ、ダ?オマエハ!?」

「つ、つん太郎さん!?僕のことを忘れてしまったのですか!?」

「シ、ラナイ」

「つん太郎界隈の広報担当のゴンザレス義経
卐です!俺の力不足で、全然つん太郎界隈の勢力拡大に貢献出来ていませんが…

「ツンタロウカイワイ?」

「!!?…つ、つん太郎界隈のことまで忘れてしまったのですか!?つん太郎さん…ゲホッゲホッ」


俺の知っている、つん太郎さんは、もういないのか…
そう思った時…



「ス、ミレ…スミレ二、アイタイ」




つん太郎さんだ…やっぱり、つん太郎さんはつん太郎さんだ…俺は泣いた…俺や、つん太郎界隈のことは、忘れてしまっているが…”佐藤すみれ”さんのことは覚えているようだった…それが俺には、嬉しくて堪らなかった…

つん太郎さんにとって、佐藤すみれさんは、何よりも大切な存在…
以前のつん太郎さんは、ヲタ活の後の反省会で、俺達に向かっていつも、「ヲタ活はプライスレスであることを、この人生を持って証明したい」…と言っていたのを思い出した…


そして、俺はずっと気になっていたことをつい言葉に発してしまった…

「渚つん太郎さんとは…一体…誰なんですか…!?」

「ナギ、サ…ツンタロウ……ナギ……ウガァアアアアアアアアアアアアアッーーーーーーーーーーーー」


突如、つん太郎さんは雄叫びを上げだした…

ビリビリッ

雄叫びと共に、喫煙所のガラスは全て割れ、吹き飛んだ…


そして、つん太郎さんは、倒れてしまった…

「つ、つん太郎さん大丈夫ですか!!?ガハッ…つん太郎さぁあああああああん」

俺は、まだ身体が1メートル埋まってしまったままなので身動きが取れない…何とか、手だけなら床から自由に動かすことが出来るので、俺は必死につん太郎さんの身体を突いた…ツンツン…ツンツン


暫くすると、つん太郎さんは、目を覚ました…

「ん、んんっ…此処は…何処だ…?」

「つん太郎さん…此処は幕張メッセの近くのフードコートですよ」

「ゴ、ゴンザレスくん!大丈夫かい!?何故、地面に埋まっているんだい?」

「つん太郎さん…俺のこと…分かるんですか…ゲフッ…つん太郎さん…それよりも…早く…すみれさんの所へ行ってあげてください…」

「すみれ…すーちゃん…はっ!そうか…今日は、握手会なのか…だから、幕張メッセの近くにいるのか…記憶が途切れ途切れだけど…ごめん…ゴンザレスくん!俺、行くよ!すーちゃんの所に!」

「はい…ゲホッゴホッ…行ってあげてください…もう5部が始まります…すーちゃんが待っています…」


つん太郎さんは、俺に向かって爽やかな微笑みを見せて、佐藤すみれさんに会うために軽快に走りだした…

俺は、つん太郎さんが幕張メッセの後ろ姿を見届け…気絶した…







気がつくと…俺は病院のベッドの上だった…

どこの誰かは分からないが…地面にめり込んだまま気絶した俺を救助してくれたらしい…

医師からは、内蔵破裂の為、緊急手術をしたことを告げられた…

俺を救助してくれた方には、本当に感謝したい…あと少し手遅れだったら、出血多量で死んでいたようだった…





俺は、目を瞑った…


”渚つん太郎”さんのことを聞いた時、何が起こったのだろう…気絶する前のつん太郎さんは…一体…何者だったのだろうか…




この時の俺には…この後に何が起こるのか…知る由も無かった…





次章へ続く…