(『新・人間革命』第6巻より編集)
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〈宝土〉 21
イラクの首都バグダッドには、現地時間の午前十一時二十分に到着した。ここでは戒厳令が敷かれており、空港の入国審査も厳しく、荷物も丹念にチェックされた。
ホテルに向かう車のなかで、伸一は、同行の青年たちに言った。
「日本では、二月一日の夜には男子部の幹部会が、二日の夜には女子部の幹部会が行われることになっていたね。ホテルに着いたら激励の電報を打とうよ」
秋月英介が答えた。
「はい、ところで、文面は、どのようにいたしましょうか」
「いや、私からの電報ではなく、みんなの名前の電報にすべきだよ。同じ青年部として互いに励まし合い、広宣流布を進めていくことだ大事だからね。
本来は、私がこんなことを言い出さなくとも、君たちが自発的に行うべきことだ。青年部の幹部として、どこにいても後輩を思い、激励に心を砕いていってこそ、幹部ではないか。
いつまでも、私に頼ってばかりいてはいけない。青年部の幹部は、口先だけでなく、早く本当の指導者としての自覚をもつことだ」
伸一は、彼らに、リーダーとしての強い自覚を促したかったのである。
この伸一の旅は、同行の青年たちの育成の旅でもあった。
一行は、この日は、まず、バグダッドの南東、チグリス川東岸にあるクテシフォンの遺跡に向かった。
宮殿の近くで、白い布を被った老楽士が路上に座って、ラバーブという、バイオリンを四角くしたような形の弦楽器を奏でていた。
山本伸一が演奏に耳を傾けていると、若者や子どもたちが集まって来た。皆、人懐こかった。