平成20年6月4日の国籍法違憲判決を読んでみる | My事務所Blog
2008年06月07日(土) 22時44分02秒

平成20年6月4日の国籍法違憲判決を読んでみる

テーマ:在留資格・家族関係

こちらのブログ記事 で平成20年6月4日の国籍法違憲判決について書きましたが、それを書くために判決文を読んでみました。


判決では最初に事件の概要と結論があり、その説明。さらに賛成意見の裁判官の補足意見等が続きます。読んでいくと、ドラマの古畑任三郎 でトリックを解き明かして説明していく部分のような心地よさもあります。また、補足意見については、判決という主役をさらに重鎮達が次々と登場して支える感じで爽快です。


判決文はこちらの裁判所ホームページで検索 できます。キーワードに「国籍」と入力して検索すると、平成20年6月4日の国籍法違憲判決の概要 が表示され、全文(PDF)も見ることができます


もっとも、42ページのPDFを開いて読むというのも気が重いかもしれません。しかし、難しく考えなくても読み物として「なるほど」と思った部分もあるので、法律論は全て省いて以下に抜粋してみました。




まず、そもそもなぜ、生後認知の場合だけ両親が結婚していないと日本国籍が取得できないのか?その理由については以下のように説明されています。

国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている。


このような規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にあるものと解される。


また,上記国籍法改正の当時(昭和59年法律第45号による国籍法の改正)には,父母両系血統主義を採用する国には,自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自国籍の取得を認める国が多かったことも,本件区別が合理的なものとして設けられた理由であると解される。

だとすると、なんで今回はそれを違憲だとしたのかというと。

しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。


このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。


これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。

また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。

というような検討を受けて以下のように結論付けています。

日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。

さらに一般人も疑問に思うところですが、以下のようにも説明されています。

なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難く

確かに、仮装認知の危惧では胎児認知も生後認知も変わらない気がします。むしろ、生後認知の場合の方がDNA鑑定で検証可能なくらいです。(胎児段階でもDNA鑑定は可能だそうですが、胎児への危険から一般に実施していないようです。) とはいえ、19歳までに生後認知すればいい分、仮装認知が可能となる期間は胎児認知の場合よりは広がります。


しかし、いずれにせよ、仮装認知の危惧を国籍法で防止するという合理性がないというのは筋が通っています。




さらに、ここからは冒頭で書いた賛成した裁判官の補足意見です。まず、泉徳治裁判官。なるほどと思いました。

日本国民である父に生後認知された非嫡出子は,「父母の婚姻」により嫡出子たる身分を取得していなくても,父との間で法律上の親子関係を有し,互いに扶養の義務を負う関係にあって,日本社会との結合関係を現に有するものである。上記非嫡出子の日本社会との結合関係の密接さは,国籍法2条の適用対象となっている日本国民である母の非嫡出子や日本国民である父に胎児認知された非嫡出子のそれと,それ程変わるものではない

次は田原睦夫裁判官の補足意見。こういう点にまで目配りしてくれているんだと思いました。

認知と届出による国籍の取得は,20歳未満の者において認められており(国籍法3条1項),また,実際にその取得の可否が問題となる対象者のほとんどは,本件同様,未就学児又は学齢児童・生徒である。したがって,それら対象者においては,国籍の取得により認められる参政権や職業選択の自由よりも,教育を受ける権利や社会保障を受ける権利の行使の可否がより重要である


(中略)


日本国民以外の子女に対しては,それらの規定は適用されず,運用上,市町村の教育委員会が就学を希望する外国人に対し,その就学を許可するとの取扱いがなされているにすぎない。また,社会保障の関係では,生活保護法の適用に関して,日本国民は,要保護者たり得る(生活保護法2条)が,外国人は同法の適用を受けることができず,行政実務において生活保護に準じて運用されているにすぎないのである。

また、私は疑問に思っていたのですが、実は民法784条は「認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。」としています。一方、国籍法2条が「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」に日本国籍を取得するとしています。そのため、両者を合わせれば、父親による生後認知でも出生時から、父親である日本人の子として日本国籍を取得するのでは?と思っていました。それについても、田原睦夫裁判官の補足意見では解説されていました。

生後認知子については,民法の定める認知の遡及効(民法784条)が国籍の取得の場合にも及ぶと解することができるならば,生後認知子は,国籍法2条1号により出生時にさかのぼって国籍を取得することとなり,胎児認知子と生後認知子との区別を解消することができることとなる。しかし,このように認知の遡及効が国籍の取得にまで及ぶと解した場合には,認知前に既に我が国以外の国籍を取得していた生後認知子の意思と無関係に認知により当然に国籍を認めることの是非や二重国籍の問題が生じ,さらには遡及的に国籍を認めることに伴い様々な分野において法的問題等が生じるのであって,それらの諸点は,一義的な解決は困難であり,別途法律によって解決を図らざるを得ない事柄である。

なお、藤田宙靖裁判官は結論としては違憲判断なのですが、その理由が異なります。その法律論の妥当性はどうなのかとも思いますが、燻(いぶ)し銀的なものを感じました。それはさておき、以下の意見は参考になりました。これは今後、生後認知の他に「一定期間、日本に居住すること」を両親の婚姻条件に代わり付加しようという議論への反対意見になります。

なお,非準正子の中でも特に我が国に一定期間居住している者に限りそれを認める(いわゆる「居住要件」の付加)といったような選択の余地がある,という反論が考えられるが,しかし,我が国との密接な結び付きという理由から準正子とそうでない者とを区別すること自体に合理性がない,という前提に立つ以上,何故に非準正子にのみ居住要件が必要なのか,という問題が再度生じることとなり,その合理的説明は困難であるように思われる



以下はこの判決に反対の立場の裁判官の意見の抜粋です。しかし、その一部にはなるほどと言う点がありました。今回の違憲判決は「社会情勢の変化や諸外国の動向」を判断して、生後認知にさらに両親の婚姻を条件とすることが不合理としています。しかし、統計的根拠等には言及がありません。それに対して反対意見は次のように説明しています。

多数意見は,出生後の国籍取得を我が国との具体的な結び付きを考慮して認めることには合理性があり,かつ,国籍法3条1項の立法当時は,準正子となることをもって密接な結び付きを認める指標とすることに合理性があったとしながらも,その後における家族生活や親子関係に関する意識の変化,非嫡出子の増加などの実態の変化,日本国民と外国人との間に生まれる子の増加,諸外国における法制の変化等の国際的動向などを理由として,立法目的との関連において準正子となったことを結び付きを認める指標とする合理性が失われたとする。


しかしながら,家族生活や親子関係に関するある程度の意識の変化があることは事実としても,それがどのような内容,程度のものか,国民一般の意識として大きな変化があったかは,具体的に明らかとはいえない。


実態の変化についても,家族の生活状況に顕著な変化があるとは思われないし,また,統計によれば,非嫡出子の出生数は,国籍法3条1項立法の翌年である昭和60年において1万4168人(1.0%),平成15年において2万1634人(1.9%)であり,日本国民を父とし,外国人を母とする子の出生数は,統計の得られる昭和62年において5538人,平成15年において1万2690人であり,増加はしているものの,その程度はわずかである。


確かに,諸外国においては,西欧諸国を中心として,非準正子についても国籍取得を認める立法例が多くなったことは事実である。しかし,これらの諸国においては,その歴史的,地理的状況から国際結婚が多いようにうかがえ,かつ,欧州連合(EU)などの地域的な統合が推進,拡大されているなどの事情がある。また,非嫡出子の数も,30%を超える国が多数に上り,少ない国でも10%を超えているようにうかがわれるなど,我が国とは様々な面で社会の状況に大きな違いがある。なお,国籍法3条1項立法当時,これらの国の法制が立法政策としての相当性については参考とされたものの,憲法適合性を考える上で参考とされたようにはうかがえない。このようなことからすれば,これらの諸国の動向を直ちに我が国における憲法適合性の判断の考慮事情とすることは相当でないと考える。


このように,約20年の間における非嫡出子の増加が上記の程度であることは,多数意見の指摘と異なり,少なくとも,子を含む場合の家族関係の在り方については,国民一般の意識に大きな変化がないことの証左と見ることも十分可能である。

また、反対意見の一つとして以下のような危惧が示されています。それもわからないではありません。

長年にわたり,外国人として,外国で日本社会とは無縁に生活しているような場合でも,認知を受けた未成年者であれば,届出さえすれば国籍の取得を認めることとなるなど,我が国社会との密接な結び付きが認められないような場合にも,届出による国籍の取得を認めることとなる

これら反対意見も一定の説得力はあります。しかし、「合理性を欠く差別的扱い」という意見に対しては少数意見に終わったのかと思います。



■抜粋だけでも長くなってしまいました。それでも、要点に絞った報道からはわからなかった部分もあります。ですので、やはり判決文自体を読むことは意義があると思います。さらに、裁判での資料も裁判所に行けば閲覧させてもらえます。


もっとも、そのような裁判資料や判決より、現実に辛い立場にある方々という現場にこそ真実があるのだとは思います。その前段、もしくは一部を垣間見るという意味で判決文を読み、またここに一部を抜粋してみました。








TYさんをフォロー

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス