脚本創作において「最初の発想」があると、どれくらいの「検討や構成」を経たうえで
脚本自体の「執筆」に入りますか? 費やす「時間」や書きものの「分量」の話です。
「検討&構成 < 執筆」か「検討&構成 > 執筆」か……どちらです?
理想は前者です。最初の発想を脳内でどんどん膨らませて人物像やストーリーをイメー
ジする。プロローグ(序章)があって起承転結の流れをちょこちょこっと組み立て、クラ
イマックスはこんな感じで見せてエピローグ(終章)はこんなところか……細かいことは
書きながら考えるとして、さあ、執筆しよっと! な~んて脚本創作が進んだらどんなに
すばらしいことでしょう。
しかしながら現実は後者なんですよ。あーだこーだと考え書き残し、あれはどうするか、
これはそれでいいのかと構成をこねくり回して、やっとのことで執筆です。記憶(脳ミソ)
の容量も少ないし保存期間も短いんで、しゃーない(仕方ない)かァ……と観念して長い
道のり(創作スタンス)で臨んでいます。
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■脚本『放課後泥棒』 作・塾生A(補作前の原作/2014年10月15日掲載)
■脚本『放課後泥棒』の補作と解説(1)(2014年10月23日掲載)
■脚本『放課後泥棒』の補作と解説(2)(2014年11月1日掲載)
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※脚本内の ピンク色 は削除、 黄色 は変更、 緑色 は追加した内容です。
脚本対比表3-A |
【原作】
----+----10----+----20・・
S8 学校・教室(日変わり)
ザワついた教室に教師が入る。
教師「座って座って」
生徒達が全員席に着く。
教師「(ドアに)入って」
越前「(入って康太を見て)あ」
康太「(目があって)あ!」
教師「エスシー学園小学校から転校してきた
越前だ」
ザワつく生徒達。
水谷「エスシーと言えば、全てにおいて優れ
た天才だけが入れるエリート校ですよね」
康太「何でそんな奴が六年にもなってここに
来るんだよ」
水谷「親の転勤ですかね? いや、そんなに
遠い学校ではないし……」
康太「(考える)」
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【補作】
----+----10----+----20・・
S10 小学校・教室(日変わり)
ザワついた教室に教師が入る。
生徒達が全員席に着く。
教師「(ドアに)入って」
越前「(入って康太を見て)あ」
康太「(目があって)あー!」
教師「エスシー学園小学校から転校してきた
越前宗也君だ」
ザワつく生徒達。
水谷「エスシーと言えば、全てにおいて優れ
た天才だけが入れるエリート校ですよね」
康太「何でそんな奴が六年にもなって、それ
も残り半年ってときに」
水谷「親の転勤ですかね? いや、そんなに
遠い学校ではないし……あ、そういえば何
度か彼を見かけました。僕んちの近くのマ
ンションに住んでるのかな、昔から」
康太「何だ、同じ学区内か……」
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(1) タイトルクレジット後の展開(起句)として、執筆枚数(規定四百字詰め30枚程度)
を考えたら「越前の正体を明らかにしつつ康太のライバル意識が募る姿を描く」で順
当といえます。
(2) 越前の正体に関する情報として原作では次の3点を投げかけています。
◆エリート校であるエスシー学園小学校(私立)からの転校生。
◆何でそんな奴が六年生になって転校か。
◆親の転勤? いや、そんなに遠い学校でない。
康太の通う小学校は(どこにも描かれていませんが)流れから想像して「公立」と考
えます。この点を明確にするなら教室のシーン(原作S6)の前に柱を立てて校門の
学校名「※※市立**小学校」(または区立など)を見せればいいでしょう。
原作では転校の時期(今が何月か)は語られていません。「六年にもなって」(N13)
とかS12でも「何でこんな時期に転校してきたんだよ」だけです。補作は「残り半年
ってときに」(N13)とし、今が9月終わりか10月初めであるのを示唆しました。
★これは先の展開で登場するエスシー学園の生徒・一ノ瀬がブレサー制服を着て
います(原作S16やS21)。つまり衣替えで冬服になった10月以降と、卒業ま
での月換算で半年(人の会話なのでざっぱく感)から「10月初め」と想像でき
ます。
越前の転校を受けて「親の転勤ですかね?」(N15)とありますが、想像の範疇であ
り、すぐに「いや、(エスシー学園は)そんなに遠い学校ではないし」と詮索してい
ます。投げかけだけで正体に迫って(明確して)いません。越前に関する情報を増や
すのが目的です。補作では「卒業を半年前にして有名私立校から自宅学区内の公立に
転校してきた」を明確にしました。
★執筆分量30枚程度に対して「何を明確にし何は謎めきとして残すか」を考えた
場合、「なぜ転校してきたか」が越前の核心であり、そのほかは早いうちに伝
えるのが妥当です。
脚本対比表3-B |
【原作】
----+----10----+----20・・ × × ×
放課。席に座っている越前。
水谷「(来て)学級委員の水谷です。よろし
く」
越前「君が策士の」
水谷「どうして僕のことを?」
パツキン「(来て)昨日あれから、一緒にド
ロケイしたんだ。そのとき話した。コイツ
めっちゃ速えからな」
水谷「その越前君と偶然同じクラスに? 出
会いって不思議ですね」
パツキン「(越前に)今日の帰りも来るか?」
康太「(来て)ちょっと待った」
越前「?」
康太「昨日は人数が足りなかったから入れて
やったが、今日はわけが違う」
パツキン「人数なんていつも違うだろが」
康太「大体、何でわざわざこんな学校に来た
んだ。折角厳しいお受験を勝ち抜いたのに」
越前「(顔を背け)僕の自由でしょ」
康太「ほう(意味深な笑み)」
パツキン「ハイハイハイ。じゃ、学校終わっ
たら昨日の場所に集合な!」 |
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【補作】
----+----10----+----20・・ × × ×
休憩時間。席に座っている越前。
水谷「(来て横に座る)学級委員の水谷です。
よろしく」
越前「君が策士の」
水谷「どうして僕のことを?」
パツキン「(来て向かい合って座る)昨日あ
れから、一緒にドロケイしたんだ。そのと
き話した。コイツめっちゃ速えからな」
水谷「その越前君と偶然同じクラスに? 出
会いって不思議ですね」
パツキン「(越前に)今日の帰りも来るか?」
康太「(来て横に立つ)ちょーっと待った」
越前「?」
康太「昨日は人数合わせで入れてやったけど、
今日はわけが違う」
パツキン「人数なんていつも違うだろが」
康太「(おでこを掻く)……大体、何でわざ
わざこんな学校に来たんだよ。折角厳しい
お受験を勝ち抜いたのに」
越前「(顔を背け)僕の自由でしょ」
康太「ほう(と見下ろす)」
パツキン「ハイハイハイ(と立って康太の肩
を叩く)……じゃ、学校終わったら昨日の
場所に集合な!」
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(1) 原作N21のト書きで《意味深な笑み》とありますが、より具体化かつ視覚的に見せる
ものとして補作では、越前のことろに《来て》話を繰り広げる水谷・パツキン・康太
の位置関係を明確にしてみました。中でも康太は立ったままにしN22で「ほう(と見
下ろす)」とすることで、越前への対抗意識(まだ優越感がある姿)を作りました。
★映像系の脚本の場合のト書きは抽象的に書くのではなく、具体的な仕草や表情
を用いれば、よりイメージを深められます。
脚本対比表3-C |
【原作】
----+----10----+----20・・
S9 集合住宅・公園(昼)
康太、パツキン、ドス、水谷、A、B、
C、D、Eが集まっているところに越前
が来る。
水谷「越前君!」
康太「(舌打ち)」
水谷「皆揃ったことですし、始めます?」
パツキン「水谷、俺ととりとりだ」
水谷「いいでしょう」
パツキン、水谷「とーりとりじゃんけんほい
(手を出す)」
パツキン「うし、越前もらい!」
水谷「あれ、康太君ではなく?」
パツキン「だって越前の方が速えし」
康太「(鬼の形相)」
水谷「(康太を見て)ヒッ! つ、次からと
りとりやめましょう!」
パツキン「何でだよ」
水谷「(必死に)こ、康太君と越前君が絶対
違うチームになっちゃいます!」
× × ×
康太・水谷・ドス・C・Dと越前・パツ
キン・A・B・Eが向き合う。
水谷、パツキン「じゃんけんぽん(手を出す)」
パツキン「泥棒だ!」
泥棒が散り散りに逃げ出す。
ドス「越前君が泥棒……捕まる気がしないよ」
水谷「僕に良い考えがあります」
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N
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【補作】
----+----10----+----20・・
S11 集合住宅・公園・大木の周辺(放課後)
康太、パツキン、ドス、水谷、少年A・
B・C・D・Eの集まりに越前が来る。
水谷「越前君!」
康太「(舌打ち)」
水谷「皆揃ったことですし、始めます?」
パツキン「水谷、俺ととりとりだ」
水谷「いいでしょう」
パツキン・水谷「とーりとりじゃんけんほい」
パツキン「(勝って)うし! 越前もらい」
水谷「あれ、康太君ではなく?」
パツキン「だって越前の方が速えし」
康太「(歯をむき出す)」
水谷「(康太を見て)ヒッ!(と首をすくめ
小声で)次からとりとりやめましょう」
パツキン「何でだよ」
水谷「(必死に)康太君と越前君が絶対違う
チームになっちゃいますし……」
× × ×
康太、水谷、ドス、少年C・Dと越前、
パツキン、少年A・B・Eが向き合う。
パツキン・水谷「じゃんけんぽん」
パツキン「ヨシャ、勝ったー。泥棒だ!」
泥棒チームが散り散りに逃げ出す。
ドス「越前君が泥棒……捕まる気がしないよ」
水谷「僕に良い考えがあります」
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(1) 原作N16に詰まり台詞(吃音表現)「つ、次から」があります。このほか原作のS23
ドス「が、がんばったよぅ」S24康太「と、当然のことをしただけだ」も……。
脚本において詰まり台詞自体は使用禁止ではありませんが、好ましい表現方法とは思
いません。怯えたり緊張した様子を出したいのでしょうが、別の表現方法を望みます。
★吃音する人を指す特定用語は放送禁止対象になります。
脚本対比表3-D |
【原作】
----+----10----+----20・・ S10 同
水谷(OFF)「彼はまだこのマンションに
疎いはず」
B棟1F通路でドスが越前を追いかける。
水谷(OFF)「先回りして逃げ道を塞ぎ」
駐車場に飛び出す越前。正面に待ち構え
るCを避け左に曲がる。
水谷(OFF)「一直線に走らせ」
駐車場を走る越前。左を見るが、Dが逃
げ道を塞いでいる。
水谷(OFF)「A棟の凹みに潜む康太が捕
まえる!」
A棟の壁面凹み部分から越前の正面に現
れる康太。ニヤリと腕を広げる。
だが、触れることもできず通り抜けられ
る。
康太「(半泣き)何でだよォ」
とがむしゃらに追いかける。
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【補作】
----+----10----+----20・・
S12 同・各所
水谷の声「彼はこのマンションに疎いはず」
B棟1階通路でドスが越前を追いかける。
水谷の声「先回りして逃げ道を塞ぎ」
駐車場に飛び出す越前。正面に待ち構え
る少年Cを避け左に曲がる。
水谷の声「一直線に走らせ」
駐車場を走る越前。右を見るが、少年D
が逃げ道を塞いでいる。
水谷の声「A棟の凹みに潜む康太君が!」
A棟の壁の陰から越前の正面に現れる康
太。ニヤリと腕を広げるが、触れること
もできず通り抜けられる。
康太「(半泣き)何でだよォ」
とがむしゃらに追いかける。
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(1) 人物が画面に登場せず声のみが流れる場合、人物名に続けて“(OFF)”と書きま
すが、本作品においては行数を確保したいため2字でまかなえる“の声”としました。
どちらの書き方でも問題ありません。
(2) 原作N11~12の台詞「捕まえる!」ですが、作戦の結果までを語っておいて「捕まえ
られなかった」現実(以降のト書きと康太の姿)を見せるのがおもしろいか、結果を
想像に委ねておいて現実を見せるか……好みの問題でしょう。補作で削除したのは、
単純に行数の確保にすぎません。
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■脚本『放課後泥棒』の補作と解説(4)へつづく