月曜日の一歩(8) | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 また月曜日の朝がきた。今日は社内報の原稿の締め切りで、印刷に出さなけ
ればならない。今月号は少し注文をつけたいところがある。印刷業者と打ち合
せが必要だ。休むわけにはいかない。気持ちを引き締めて布団を出た。
 洗面台の鏡の前に立つ。鏡の中の自分を見る。少し痩せたようだ。パチンと
両手で頬を叩く。妻が気を利かせて電気カミソリを置いてくれていた。素直に
ありがたいという気持ちで使う。ドライヤーをかける。寝グセがおさまらない。
ヘアクリームをつけても直らない。妻が見ている。近づいて優しくドライヤー
を取り、代わってかけてくれる。情けない持ちが沸き立ってくるが、それでも
なんとか乗り切ろうとする自分が見えた。
 ハレモノにでも触るように妻が話しかけてきた。
「今夜、外で食事しない? あなたのお誕生日、少し早いけどいいでしょう。
いつか行ったフランス料理のお店、連れてって」
「ん……ああ……」
 重く返した。ワイシャツのボタンも、ネクタイも妻がしてくれた。娘が「赤
ちゃんみたい」と笑っていた。


 ──情けなさが百パーセントを超えていた。


 俺よりも妻のほうがもっと辛かったろう。
 そんな妻のことを考えながらなんとか家を出た。マンションの前の信号で足
がすくんだ。ベランダから見ていた妻が駆け降りて来た。


 ──会社に行ったところで。


 否定の渦が俺を取り巻き、しゃがみ込んでうろたえるだけだった。
 結局会社へは行けず、印刷業者への注文も文面にして原稿と一緒に妻に会社
まで届けてもらった。思ったとおり何の電話もない。もはや気分は透明人間だ
った。
 その週も会社に行けないままブラブラとすごした。来月号の企画を考えよう
としたが、すでに代わりの者がやっていると思い、仕事には一切手をつけなか
った。優しい妻も少しイライラを見せ始める。病院に行っても「本人の気持ち
が何よりも大事です」とお決まりの文句で、気休めにもならない。とにかく、
やりがいのあるものがほしかった。


                             《つづく》


【これまでの展開】
月曜日の一歩(1)
月曜日の一歩(2)
月曜日の一歩(3)
月曜日の一歩(4)
月曜日の一歩(5)
月曜日の一歩(6)
月曜日の一歩(7)

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