小説と脚本の違い | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 脚色の考え方を説明する前に『小説と脚本の違い』について話しましょう。



 小説と脚本の書き方で一番大きな違いは「描写」と「ト書き」にあり、特に
脚本は「シーン」と呼ばれるセクションごとに書いていきます。


 脚本のト書きは、ほとんどが現在形「~~する」や現在進行形「~~してい
る」で書きます。これは、「記した人物が次に~~の動作をします」と、これ
から起こる内容を伝えるためです。つまり脚本は、役者や演出家、スタッフに
向けた『指示目的の文章』といえます。
 また、小説は「書いた文章で読者に感動を与える作品」であるのに対して、
脚本は「書かれた文章に基づいて映像や音声で視聴者に感動を与える作品」と
いう違いがあります。文章だけで表現する小説は、人物描写や情景描写を詳細
に伝える必要があるため、かなりの文章量を費やします。一方脚本のト書きも
文章で表現しますが、その目的と誰に向けたものかを考えると『簡潔に書く』
のが鉄則といえます。それだけに動きや心境を伝える描写部分はある意味「無
味乾燥」になります。しかし、脚本はそれでいいのです。
 さらに脚本では人物を三人称で書きます。『冬の花火』の主人公を、小説形
式では一人称で「俺」と書いていますが、脚本形式では三人称で「男」として
います。
 最後に、小説が連続的表現なのに対して、脚本はシーンごとやシーン内のト
書きも箇条書きのようなので、『断片的』な印象になるでしょう。しかし、こ
れらが実際に映像化されたときには、魅力的でテンポあるドラマに変わってし
まうのが、脚本の面白いところでもあります。