交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 先週の土曜日。広島も寒波襲来で(広島としては)大雪に見舞われた。今日、
友人の伊藤さんがそのときの体験談を話してくれた……。


 娘さんのピアノの発表会を観るために、夕方から家族で廿日市にある文化ホ
ールへ車で出掛けたのだ。
 発表会が終わり午後9時を回ったころ外に出た一家が目にしたのは、振りし
きる雪と真っ白になった路面だった。「ウワ~」と思いながらノーマルタイヤ
の車に乗り込んだ一家は、我が家へと急いだ。ところが坂道に差し掛かかり、
始めのうちは上っていたが、やがてスリップし始めて立ち往生。それでも何と
か進もうと、アクセルを徐々に踏み込む伊藤さん。「こりゃダメじゃ」と思い
ブレーキを踏んで停まったはずが……。
「お父さん、吹かして吹かして」
 そう、車が滑ってバックしだしたのだ。立ち往生した伊藤さんの車の後ろに
は延々と連なる車の列。このままでは後ろの車に逆オカマを掘ってしまう。
「停まっちゃダメ~! 進め~!」
 伊藤家の嫁が金切り声を上げた。咄嗟に伊藤さんはエンジンを吹かし、スリ
ップでハンドルを取られながらも必死に車をコントロールし続けた。爺ちゃん
や子供たちは「どうなるんや」と心配顔。緊迫感に襲われた婆ちゃんが泣き出
した。発表会の楽しさはぶっ飛び、凍結の坂道でニッチモサッチモ行かない伊
藤家は一同顔面蒼白。車内はパニックと化した……。


 逆オカマもなく、何とかその場を乗り切った伊藤さんは、やっとの思いで平
坦な所まで行き車を停めた。
 ──さて、これからどうするかいの。
 振りしきる雪の中、この先続く坂道を爺ちゃん婆ちゃんや足を骨折して松葉
杖の息子をを歩かすわけにもいかず、かといってこのままここにいるわけにも
いかず。一難去って伊藤家は途方に暮れていた。
「解った。ワシが家までチェーンを取りに行ってくるけえ」
「隆志、大丈夫かいねえ」
 涙ながらに婆ちゃんが気遣った。
「ォオウ……任しときんちゃい」
 口籠もりながらも伊藤さんが返した。
「お父さん……」
「隆志……」
 嫁も子供たちも爺ちゃんも、一家の大黒柱である伊藤隆志の一言に希望を託
した。そして家族の危機を救うため、伊藤さんは吹雪の夜道をひとり歩き出し
たのだ……。


 1時間半が過ぎただろうか。相変わらずやまない雪の中を、チェーンを抱え
て伊藤さんは戻ってきた。空腹と寒さに耐えながらも家族を思い、ただひたす
ら歩き続けたのだ。家族は、伊藤さんがいない間にコンビニで買ったパンを食
べながら、勇敢な雪だるまを歓喜で迎えた。


「ワシにもパン喰わせ~ッ」
 チェーンを取り付けながら頼りになるお父さんは凍えていた。ブルブル……。


                        おわり(一部脚色あり)


 ちなみに翌朝のニュースで、この夜、雪の路上に車を放置して帰宅した人も
少なくなかったと伝えていた……。何事もなく過ぎた『伊藤家の災難』を笑顔
で話してくれた伊藤さん、ありがとう。


「伊藤さん、あんたはエライ!」

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