小説「最後の立ち会い」③ | うさみーの御朱印御首題✿歴史散歩

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全国各地、といっても関西圏が多いですが、を旅してお寺や神社で御朱印や御首題を頂いた記録です。
コロナもようやく落ち着いたのであちこち出没再開しています。記事はのんびり不定期に書いております。

 

 

15分くらい経っただろうか、中から業者の男が「お願いします」と私を呼んだ。いよいよ部屋中のチェックが終わったようだ。

 

まずはリビングのフローリングの床のキズだ。これは家具を引きずってから「しまった」と気づいて遅かった、ということが無きにしも非ずだったので致し方ない。案の定、床の細いキズを補修が必要と指摘された。



次いで部屋の隅に呼ばれて見ると、本棚が置いてあった場所に小さな円形の凹みがいくつかついていた。

「これは家具を置いていて付いたと思われる凹みなので補修が必要になります」と業者の男は指摘した。しかしそこに置いていたのは大きな本棚だったので四角い面で凹みができているのならまだしも、小さな円のような限られた点で重みを支えていたものでは無かったので、以前のものではないかと説明した。

「そうですか…」男は反論する訳でもなくあっさり次の説明に移った。

 

①でも触れたが、補修が家主負担になるか借主負担になるか悩ましいケースのひとつが「家具による床のくぼみ」だ。

後で調べたら移動したり置いたりした時に不注意でできた凹みは借主負担だが、家具を普通に置いてできた凹みは家主負担となるようだ。


この場合は本棚の跡のくぼみとは形から思えないので論外だが、かと言って私の入居前からあったと証明できない。例の入居後の状態チェックの報告の書類でも「クーラーの室外機でカタカタ音がした」としか書かなかった。見逃していたというより、そんなに床を這いつくばるようにしてチェックが必要とは夢にも考えていなかった。

 

実際、安っぽいフローリングだと凹みはよく付くらしい。凹みをつかないようにするなら頑丈な敷き板を置いてその上に家具を、といった話になるようだが、そんなことをしていたら板が何枚あっても足りないし、室内の美観も何もあったもんじゃない。

 

じゃーどうやって直すのかと思って調べたら意外に原始的な方法で、凹みに水を垂らしてタオルの上からスチームアイロンをかけたり、凹みにドライヤーの温風をあてたり、といった方法が列挙されていた。これをリペア業者に頼むとまた法外な値段を吹っかけられることになるのだろうか。

 

その凹みはとりあえず「自分が置いていた本棚のものとは思えない」と主張して保留のような形になった。

男は相変わらず表情を硬くしたまま別な部屋へと歩いていった。私はこれからまた補修箇所が積み重ねられていくのかと思うとウンザリした気分になってきた。