おとといの13時頃、
道端で声をかけられた。
四ツ谷駅赤坂口を出て左に向かう道は
「迎賓館」を見学しに来た人が行き交う道。
朝夕は、「学習院初等科」に通う子どもたちが
道いっぱいに広がってワサワサしているから
とても歩きづらい。
それ以外、これといった特徴がないけれど、
日中は、それなりに人が通る道だ。
声をかけてきたのは
小柄な初老の紳士。
ボクに向かって「あっ！」と言うので、
「えっ？」と返したら。。。
立ち話がはじまった。
音楽やってる？
芸人？舞台？
スーツ姿のボクに
そんなことに言うなんて？？？？？
「道を尋ねてきたんじゃないんだ」
「誰かと間違っているんじゃ？」
「何かの勧誘？」「何か文句言われる？」
「時間を持て余し、誰でもいいから
話しかけたかったパターン？」
疑念だらけ……。
戸惑いつつ、
「サラリーマンです」と答えたら、
紳士は、そんなワケがないと言い、
すべてを見透かしているような
霊能力者的な雰囲気を醸し出してくる。
ボクは会話をやめようとしたけれど、
紳士はやめない。
今度はボクの外見の話になり、
「背が高いから、
ストライプ柄のスーツが似合っている」
「茶色の靴はいいけど、シャツは白じゃなく、
薄い色がついたものにした方がいい」
「少し太ってきているのかな」
「髪は1000円カット？」
矢継ぎ早に、褒めたり
けなしたり……。
紳士は、ベージュのジャケットに
ブルーのセーター。小ざっぱりしていて、
身なりのいい印象。
ワケが分からない展開だけど。。。
不信感より好奇心が勝った！
なんだか面白くなってきて、
紳士の話をもっと聞くことにした。
話題が最初に戻る。
「歌、うたってるでしょ」。
うたっていないし、
自分の声が嫌いだと答えると
うたった方がいい。響く声だ。
顔を隠したってあなただと分かるいい声だと
しきりに褒めてくれた。
自分でコンプレックスだと
思っていることを褒められ、
どう返したらいいか分からなかったけど、
嬉しかった。
「ら、ららら、ららららら」。
紳士は、周りの視線を
まったく気にすることなく歌い出した。
「シャンソンですね？」と尋ねたら、
「そうだよ」とひとこと。
★★★★
紳士は不意に腕時計を見て
10分か。あなたは人の話をよく聞く人だ。
今日の話は、右から左へ流して忘れてもいいし、
「変な人に会った」と笑い話にしてもいい。
ーーそんなことを言ったあと、
また歌い出し、
さっと手を上げて去っていった。
変な余韻が残っていたので、
2、3歩進んだところで振り返ったら、
向こうも振り向き、コッチに手を振った。
反射的に
ボクも手を振り返した。
オチがない
シュールな話でした。