日本国憲法の改憲論者の言い分として、「若干22歳の法律の専門家でもない女性が憲法草案の人権条項の作成に関わった」というのがある。かの女性、ベアテ・シロタ・ゴードンさんの自伝「1945年のクリスマス」を最近読み終えた。ベアテさんとはどのような人であったのか。
１．リストの再来と謳われたロシアのピアニスト、レオ・シロタの娘として生まれたユダヤ人であったこと
２．父の仕事の関係で5歳から15歳まで東京の乃木坂で暮らし、日本のことを知り尽くした人であったこと
３．ロシア語、ドイツ語、英語、日本語、フランス語を使いこなす才女であったこと
４．第2次大戦後はＧＨＱ民政局のスタッフとして日本で働いた後、アメリカでは「演奏芸術センター」の館長に就任し、アメリカに日本文化とその関係者を紹介する仕事を行ったこと。彼女は海外における日本の紹介者として最大の存在の一人となったこと。
憲法24条（婚姻における両性の平等）の背景にあったベアテさんの考えは「私は、各国の憲法を読みながら、日本の女性が幸せになるには、何が一番大事かを考えた。それは昨日からずっと考えていた疑問だった。赤ん坊を背負った女性、男性の後をうつむき加減に歩く女性、親の決めた相手と渋々お見合いをさせられる娘さんたちの姿が、次々と浮かんでは消えた。子供が生まれないというだけで離婚させられる日本女性。家庭の中では財布を握っているけれど、法律的には、財産権もない日本女性。「女子供」（おんなこども）とまとめて呼ばれ、子供と成人男子との中間の存在でしかない日本女性。これをなんとかしなければいけない。女性の権利をはっきりと掲げなければならない。」（Ｐ153より引用）
皇后陛下も読んで感動されたという本である。
日本国憲法を知るためには、単に憲法解釈のテキストを読むのではなく、成立と誕生の歴史を知ることが大切だろう。当事者たるベアテさんの語る9日間の草案作成過程の刻一刻を描いた章はスリリングであり、熱い情熱を感じることができる。