5月20日(水)の愛媛県中小企業家同友会の松山支部総会で記念講演として、広島同友会の求人社員教育委員長であり(株)EVWNTOS代表取締役 川中英章さんのされたお話は、すこぶる面白く大きな刺激となったので少し内容や感想を書いておこう。
川中さんは主に飲食業(実はそれ以外にも農業分野にも進出されてその話も今回聞けた)を営んでおられるのだが、私もかつて飲食会社の総務の仕事をしていた者として色々多い当たる点が多かった。それは「業界の常識は世間の非常識」という内輪の悪癖のことである。
川中さんは自分でも「口はうまい」と言うだけあって(これは本人はいい意味では使っていない)、とにかくお話が面白い。
会社を立ち上げたころ金策が苦しくなり借金取りを避けるために会社にも家にも寄りつけなかったこと、飲食業界は真面目に一つの会社で仕事をするよりも転職を繰り返す方が給料が上がるというおかしな世界であること、目をかけていた社員が実は会社のものを片っ端から盗難していたこと、男性社員のセクハラで真面目に働いてくれていた新卒女性社員が辞めてしまったことなど赤裸々に語ってくれた。
ただ同友会の目的は会場を沸かすことではないだろうから、他の印象に残った話をあげてみる。(後の懇親会で個人的にうかがった内容も入っている)
◎学ばない人はテクニック論に走る。同友会の例会をセッティングしても、そのようなテーマにして方が人は多く集まる。しかし、黒字の人はその場に座っていないのだ。
◎仕事に対して熱くなることはあった。しかしそれはモチベーションではなくテンションだった。所詮は新聞紙を燃やすようなもので、本気ではなかった。
◎飲食業は休日が少なくて当たり前の常識を覆すため、月7日の休日以外に2月8月にまとめて長期休みをとらせることで(飲食業はニッパチは暇だから)、若い社員にはプライベートで趣味を生かした生活をしてもらうことも可能になった。
◎ボーナスも社員の一人一人と必ず面談して、査定の内容を詳しく説明している。
◎「安心して空振り三振ができる会社」を作りたい。グラスを割って怒れば今の子供はグラスに触ることをしなくなる。野球に例えると試合に出たくない、応援席でいいなどと言い出す。子供が少ないから親も大事に育てているから仕方ないだろう。悪く言えば欲がないのだが、非常に素直。社会貢献などという言葉には過剰に反応する。彼らは決してダメなのではなく、使う側が変わらなければならないのだ。
◎以前は社員が自社を「この会社」と呼んで不平不満を述べていた。自分も構成員の一人で当事者でもあるのに人ごとのようだった。今は「うちの会社」と言ってくれている。やっと当事者意識が出てきた。
◎転職を繰り返す人はそれが5回も6回にもなると普通は今でも中々正社員になれない。順調にいい会社でレールに乗った人は収入も地位も上がっていくという完全な格差社会となっている。離職者・解雇者を次々出す経営者は学ばないことでどれだけ多くの社員を傷つけていることか。ボロボロの履歴書は経営者の罪である。
◎農業生産法人を最近立ち上げた。定年退職後65歳からの新規採用のイメージを描いている。利益の出せる農業、年間240万円稼げる農業が目標。(ちなみに広島では平均的な農家の稼ぎは年間100万円を切る)
◎女性が生き生き働ける職場を目指している。採用試験をすると今は女性の方が男性より優秀な人が多いので自然と女性を多く採ることになる。結婚、出産、育児にかかる時間を考慮に入れて女性が働きやすい職場作りのために今制度を整えている最中。
今は素晴らしい会社になったのだけれど、最初からそのようであったわけでもなく、川中さんの試行錯誤の末このような形になったそうだ。人間はあきらめないことが肝心だ。
懇親会最後の挨拶で「松山が好きだから今日は社内で会議があったが、こちらに来させてもらった」と言った川中さんの心意気に答えてこれから増々、愛媛県中小企業家同友会の松山支部が発展していけばいいなと思った。