予定時刻を大幅にこえて、
銀色の小さなトレーを持って主治医は
戻ってきた。

『お待たせしました‥。
予想をはるかに超えた状況でした。』


『摘出した腫瘍などは、
ご家族にきちんと見せます。

こちらが卵巣です。』

と主治医が言った。



銀色のトレーの上には、
私の掌ぐらいの大きさの
卵巣‥だったものがあった。


卵巣は破裂していて、
直接的な死因は、
ここからの出血だったらしい。


破裂した卵巣の中には
BB弾のような黒い塊がいくつもあった。



『この、黒いのが、癌です。』
主治医はそう言った。




‥こんなものが。
こんなものに、ともちゃんは殺された。



手袋をつけて
憎しみを込めて触ったが、
潰せない、微動だにしない‥
程硬かった。



本当だったら小さくて、
痛みなんて感じないはずの卵巣が。


こんなにも大きくなって
破裂していたなんて‥。


どれだけ‥
本当にどれだけ痛く、
苦しかったのだろう‥。




『先程、摘出した腫瘍は、
ご家族にお見せする、と言いました。

ですが‥。』

と主治医が言った。


『肝臓から膀胱‥
お腹の中全てが腫瘍により
一つの塊となっていました‥。』

丁寧な主治医は、
表現が悪かったらすみません。
と断りを入れて
話を続けた。



『すぐに、お腹からその塊を
ズルっと出して‥
スライスしてホルマリンにつけました。

臓器の識別をしながら
スライスをするのに、
かなり時間がかかってしまいました‥。』




主治医は、
見るべきではない、
けれど、希望があれば、
デジタルカメラで撮影した、
お腹の塊を見せる、と言った。



私は、見せてもらった。




デジタルカメラに写っていたのは、
皮膚を剥いだだけの
お腹の写真のようだった。


胸から下〜骨盤までを
切り取って、皮膚を剥いだような‥
そんな衝撃的な写真だった。



主治医が見ない方が良いと言ったのは、
家族にとって衝撃的過ぎるから。



『解剖医も、私たちも初めて見ました‥。
お腹を開けた瞬間に


‥何だろうね‥これ‥。


と解剖医が言いました。


詳しい結果は、年末‥もしくは年始に
出揃ってくると思います。』



主治医にお礼を言い、
霊安室で眠る母に会いに行こうとしたら、
母によくして下さった看護師さんが、

「霊安室は、暗くて狭くて
あまり綺麗な所じゃないから‥
良かったら、今日居た病室で、
ともみさんに朝まで過ごしてもらおうかな、と‥思っているのですが、ダメですか?」

と仰った。


看護師さんの優しさが、
本当にありがたかった。


パパと、病室に戻った。
クーラーでガンガンに冷やされた部屋は
開けた瞬間、チクリと肌を刺す寒さだった。


ベッドに横になっている母は、
病院着ではなく、薄い白の肌着を着て、
綺麗に布団をかぶせられ、
手を胸の上で組んでいて、
‥顔には白い布がかかっていた。


【本当に‥死んだんだな‥。】
震える声でパパは私に言った。


顔にかかった布を外すと、
きちんと目を閉じて眠っている母だった。


身体はとても硬く、
人間とは思えない程に冷たかった。


息を引き取った時よりも、
私は、顔に布がかかっている
母を見た瞬間が一番衝撃的だったし、
辛かった。
今でもあの瞬間のドキッとした気持ちや、
母のおでこの硬さ、
悲しいぐらいの冷たさは
忘れられない私のトラウマになっている。



しばらくして、
そっと白い布を母の顔に戻して、
私たちは病院を出た。


帰宅して寝室へは行かずに
リビングで横になった。
今までは、毎晩寝る前に、
何か母の生きる術を調べる日々だった。


もう、調べる事も無いや。


検索履歴は胆嚢癌や腹膜播種、
腹水、浮腫み軽減、痛み軽減‥
そんなものばかりだった。



明日からは
お通夜とお葬式の
準備をしなければいけないのか。



母の友人達に連絡をしたり
葬儀の打ち合わせ‥
あっ、喪服の準備もしなきゃ‥
朝は葬儀屋さんが病院に来るから
早く病院に行かないと‥。


なんて、意外と冷静な気がしていたけど、
無理に冷静になろうとしていただけでしたね。


敢えて忙しく過ごして、
悲しみを誤魔化していたのでしょう。


悲しみは後からやって来る、
と言うのは、
日常が戻ってきた時に、
大切だった母だけが
そこにスッポリと居ないから。


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更新が止まってしまっていて
ごめんなさい🙇‍♂️🙇‍♀️

実は、娘1の幼稚園が閉園しまして。
それに合わせてお引越しをしましたウインク


以前住んでいた家は、
母が毎日遊びに来ていた家で、
楽しい思い出もたくさんあるのですが。


娘1が、ばぁばの面影を追って、
少し不安定になっていたのと。

私自身も、楽しい思い出が
辛すぎたのもあって。


思い切って、一つお隣の市で
田舎暮らしをしています照れ
(い、田舎とか言ったら怒られるかなw)



前の家では、
【ばぁばが居なくなっちゃうーえーん
といきなり起きて泣いたりしていた娘1も。


今は、
【今日はねおねがい
ばぁばとお花畑でかくれんぼしたよおねがい
と、楽しい夢を見るようになったそうです。


新しい幼稚園にも
慣れて楽しくやってくれていますニコニコ


娘2も、無事に1歳を迎える事ができまして照れ
(もう11キロある)


日当たりの良いリビングで。
ともちゃんはいつも
私たちの事を見守ってくれていますニコニコ


今もし生きて側に居てくれているとしたら‥

【結構良い家じゃーん照れ!】

なんて言っているのだろうか。

それとも、

【虫多いし無理田舎ー!ムキー

だったのかな。


どっちにしても、
たくさん遊びに来ていたに違いないね。