高橋秀之の小説 -7ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【18】


 直樹は、恥らいながら拒む優美を無視して欲望を

満たそうとしたが、倫子の一件が頭の中でくすぶり

没頭できず医局に向かった。

 医局に入るとすぐに、医局秘書の大野かおりに問

いかけた。

 「最近、外来事務から外科のドクターの印鑑を求め

る書類が回ってこなかったか」

 『えっ?あぁー、たしか迫田さんが外科の下向先生

の印鑑を求めて来られました』

 「それで、その件はどうなった」

 『彼女、迫田さんは急いでおられたので、その日は

先生は不在だったので翌朝、先生に捺印してもらっ

て、わたしが直接外来事務まで持って行き、彼女って

亡くなられたんですよね、その日の昼過ぎ彼女に渡し

ました。それで、その日のそのあとで亡くなったと聞き

驚いているんですよ』

 「その患者の名前を覚えていないか」

 『公印をも押しましたから、控えを見れば』

 大野かおりは、言うが早いか直ぐ自分の机の上の

パソコンを操作しだした。

 暫くモニターを見つめていた後、直樹の方に目を向

 『夏川さまです』と言った。

 直樹は近づいてモニターを覗き込んだ。

 大野かおりの髪が直樹の頬をくすぐり、彼女のつけ

ているコロンのかすかな香りが直樹の花を楽しませた。

 

 その時、秘書の優美が

 『先日の、警察の方がお見えですが』と告にきた。


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【17】


 その日、橋本直樹は外来担当の割り当てがなく、

手術日でもなかったので午前中に病棟回診を済ま

せた。

 副院長室に戻ると、秘書の高村優美が決済を求

める書類を持ってきて机の上に置いた。

 直樹は、机の上から離れようとする優美の手を素

早く握り引き寄せた。

 『どうされたんですか』

 「きみを抱きたい」

 『こんなところで、誰か来ます』

 恥じらいを浮かべながら手を振りほどく、優美を

見つめながら直樹は考えた。

 俺は妻の倫子のことよりも、この優美の方を愛し

ているのだろうか。

 愛している、という言葉が適切でなかったとしても

優美の方が自分の好みにあっていた。


 直樹はこの病院で副院長として、また整形外科医

として不動の立場を築きあげていた。

 しかしここは、妻の倫子の父である村瀬徹が理事

長であり院長である個人病院だ。

 倫子と離婚したり、この優美との関係が義父の耳

に入れば、積み木が崩れる如く今の立場におられ

なくなるだろう、と直樹はいつも自覚していた。

 

 大阪府警旭警察署

 昨夜以来、刑事課長である井戸の怒号が乱れ

飛んでいた。

 「池田は釈放だ、河村、だいたい別件の詰はどう

なっていたんだ。本件の取り調べを吹っ飛ばせや

がって」

 河村は、井戸の罵声に耳を貸すことなく立ち上が

り、西枝に一緒にくるよう顎で促し促し部屋の出口

向かった。

 慌ててあとに続いた西枝は、廊下で腹立たしそう

にゴミ箱を蹴飛ばしている河村に追いつき問いかけ

た。

 「河村さん、どこへ行くんです」

 「どこへ行くだと、村瀬総合病院に決まっているだ

ろう。あの橋本とかいう医者、ガイシャの殺しには

直接関わりをもってねえだろうけど、奴はガイシャ

と会う約束をしてたから、何かを知っている筈だ。

奴の女房にや一発食らわされたから、それをネタ

に揺さぶりをかけてやる」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【16】


 池田に慰み者にされたあと、倫子は汚れを丹念に

シャワーで洗い流した。

 池田に頼み込んで、避妊具をつけさせたのでその

点は心配ないと思いながら、夫には知られないよう

にしなければと考えた。


 ところが今朝突然、警察の者と名乗る二人の男の

来訪を受け、あの忌まわしい池田の写真を見せられ

た。

 倫子は、彼らに表情の変化を悟られないように気

をつけながら

 『さぁー、存じませんが』と、示された写真を返した。

 二人の男は

 「そうでしょうな」と予想外の言葉を残し拍子抜けす

るように帰った。

 

 そして今、倫子は知られてはいけないと考えている

夫の口から、あの出来事の時間帯を問題視するよう

な問いかけをされ、不安を感じた。

 しかし着替え終えた倫子は、明るさを装って夫のい

るリビングへ戻った。


 大阪府警旭警察署

 淀川河川敷OL暴行殺人事件捜査本部、と看板が

掲げれた部屋に、出払っていた捜査員が次々と戻っ

てきた。

 目撃者がなく証拠も乏しい事案で、捜査は行き詰

っていた。

 捜査本部は、日頃からマークしていた池田という

男を事件前日にあった些細な事案の容疑者として

身柄を確保した。

 捜査本部は身柄を確保した上で、じわじわ本題に

ついて固めていく予定だったが、その前段階である

別件についてアリバイを主張され慌てた。

 河村と西枝の二人は

 「池田のアリバイは崩れました」と報告した。

 しかし、そこへ戻ってきた金子刑事と吉川刑事が

 「いや、アリバイが証明された」と言い出した。

 彼らは、池田が主張したラブホテルに確認に出向

いていた。

 「これは、ホテルの入り口およびホテル内の廊下

にセットされた防犯ビデオのテープです」

 部屋にいる全員が、金子が掲げるビデオに目を

向けた。

 「おい、山川、再生してくれ、いま池田の身柄を確

保している事案の時間帯に、池田と橋本倫子の姿

が確認できます」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【15】




 倫子は、押さえつけられているような重苦しさを感じなが

らボーっとしている意識の中で目を開けた。

 あの池田が、ベッドの上に横たわされた倫子の体に覆い

かぶさっているのに気がついた。

 『いや!』

 倫子は驚いて、池田を押しのけようとした。

 しかし、手に力が入らない。 

 『な、何をしているのですか』
 「気がつかれましたか、奥さん」
 

 池田が、体を浮かした。

 倫子は、池田の下から抜け出ることができた。

 しかし、衣服を脱がされ下着姿にされている事に気づき、慌て

てシーツを引き寄せ身を隠そうとした。

 「奥さん今さら隠さなくても、その姿は、たっぷり拝ませて頂き

ましたよ。今から、まだ身に着けているものも脱がさせてもらい

ますがね」

 『けだもの、大きな声を出すわよ』

 「どうぞ、どうぞ、こんなところで大きな声を出しても誰も来ま

せんよ。それに此処のホテルじゃ隣の部屋の喘ぎ声が聞こえ

るとかの苦情で防音工事を済ませたところらしいですよ」

 シーツで身を覆いながら壁の方に後ずさりする倫子に、ジワ

ジワと池田は近づいてくる。

 観念したかのように倫子は言った。

 『いうことを聞けば免許証は返してくれるの』

 「あぁー」

 『じゃあ、早く返してください』

 「後からだ」

 『先で、なくちゃだめです』

 池田は、テーブルの上に投げ出してある自分の上着の中か

ら、倫子の免許証を取り出し差し出した。

 倫子は奪い取るように、それを受け取り自分のバッグに入れ

た。

 そのとき、背後から池田が、倫子のパンストの腰ゴムに指を

かけ一気に引き摺り下ろした。

 倫子は逃げようとしたが、膝の部分までパンストが下ろされ

ているので、足が思うように動かず転んだ。

 「何をしているんだい、奥さん」

 池田は、そう言いながら、倫子を抱きかかえるようにしてベッ

ドの上へと運んだ。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。

仮面夫婦【14】





 倫子が店のドアを押し開いて中に入ると、カウンター

の中から見覚えのある顔のマスターが

 「いらっしゃいませ」と、声をかけてきた。

 わたしのことなど覚えてない筈よね、と自分に言い聞

かせ、倫子は店内を眺め回した。



 夜に来た時よりも、明るい雰囲気だった。

 昼食時だったら、混んでいたと思われたが、2時過ぎ

の店内はガランとしていて、店の隅に近づきたくないタ

イプの男が一人新聞を開き座っているだけだった。

 その男が、倫子に向かって手を挙げた。



 えっ?、あの男(ひと)が免許証を拾ってくれた方?

 倫子は、その席に近づき

 『池田さんですか?』と問いかけた。

 免許証を拾った、と倫子に電話で知らせてきた時に

男が名乗った名だ。

 「あぁー」

 『この度は免許証を拾って下さりありがとうございま

した』

 池田は、上着のポケットから倫子の免許証を出し見

せた。

 倫子が、手を差し出し受け取ろうとしたら、池田はさ

っと引っ込めポケットに戻した。

 「奥さん、ゆっくり話をしましょうや、とりあえず座って」

 マスターが、お冷とおしぼりを持ちオーダーを取りに

きた。

 倫子は、池田の第一印象が悪かっただけに、お礼を

渡し免許証を受け取り一刻も早く離れたかったが、仕

方なく池田の前に腰を下ろした。



 倫子は、池田の前にコーヒーカップが置かれている

のを示し

 『同じのを』と、マスターに注文した。

 マスターがその場を離れると、倫子は用意してきて

いた封筒を池田の前に差し出し

 『これは些少ですがお礼です』と言って、池田が再び

免許証を出すのを待った。

 「奥さん、まあ慌てずに」

 池田は、ニヤつきながら倫子を舐め回す様に見つめ

た。

 倫子は一刻も早く、その場を去りたかった。

 そこへマスターが、倫子がオーダーしたホットを運ん

で来てテーブルの上に置いた。

 マスターは、そこから離れるとき、倫子には死角に

なって見えなかったが、池田を見て二ヤっと笑った。

 「さぁ、奥さん、冷めないうちに飲んで、それから話を」

 倫子は、池田に促され、コーヒーを口にした。



 『封筒には、二万円入っております。お礼としては

少ないのでしょうか』

 倫子は、免許証を渡そうとしない池田の態度に苛立

ちながら、交渉を始めた。

 倫子は前にいる池田の顔が、少しづつ薄らいでいく

様に感じた。