<私たちはどこに行くの?(Et maintenant on va où?・レバノン/仏・2011)> ★★★★

 

 

舞台はすべてレバノン、スタッフもキャストもレバノン人、セリフはアラビア語ですが、フランス、ドイツの技術協力を得た共作となっています。レバノンのある村、ムスリムもクリスチャンも仲良く併存しており、モスクのラビと教会の神父も仲が良いのに、対立するようになってしまったら、“私たちはどこへ行ったらいいの?”という極めて寓意的な作品です。

 

>レバノンの片隅の小さな村、周辺には地雷が埋まったままで、他所へつながるのは崩れ落ちそうな1本の橋だけで、 村の若い男2人がバイクで物資を運びこんでいます。泉のほとりでは、ヒジャブを被ったムスリムの女性もクリスチャンの女性も仲良く井戸端会議をしています。クリスチャンの女性アマルとイスラムの塗装工ラヒムは良い仲になっていて、結婚後の宗教について悩んでいます。村で唯一のTVの前に村人が集まって見ていると、濃厚なラブシーンが映し出され、慌ててチャンネルを変えると、近くの村でムスリムとクリスチャンとの対立から紛争が起きていると報じ、TVを消してしまいます。村の近くをウクライナ人の踊り子5人を載せたドサ周りのバスが故障し、踊り子たちは村人の家に分散して泊まることになり、村の男たちは浮足立ちます。そんな時、物資運搬中の2人が何者かに狙撃され、ナジムが死んでしまう事件が発生し、狙撃したのはキリスト教徒らしいというので、村の男たちは一気に対立して殺し合いになる雰囲気になります。モスクの司教と教会の神父は語り合って、拡声器で重要な儀式があるから、集会所に村人は全員必ず集まるよう指示します。女たちは、急遽、家にある銃を隠してしまい、ハッシッシ(麻薬)入りのパンや飲み物を作ります。何事かと集まると、そこでウクライナのダンサー達が踊り始め、男たちもハッシッシ入りのパンや飲み物ですっかり良い気分になって釣られて踊り始め、騒動のことはすっかり忘れてしまいます。翌日、村人全員が集まり、男たちはナジムの棺を担ぎ、女たちはそれに続き、墓地に向かいます。

 

宗教の違いなんか問題ない、人間は皆仲良く平和に暮らせるんだ、という楽観的なメッセージを込めた作品でした。主張としてはごく平凡ですが、現実にはそれが出来ず、宗教や宗派の違いで殺し合っているので、胸に突き刺さります。宗教を超えて共存している村が荒野の中の孤立した村と言う設定は、外国が余計なちょっかいを出さなければ平和なんだということだと思いました。現に、アラビア半島ではかつてアラブ人もユダヤ人も共存していましたが、イギリスが自国の利益のために二枚舌を使って混乱させて対立を生み出してしまって現在に至っています。

 

事件が起きるまでは、のんびりした村人の日常を淡々と描いていて少々冗長に感じましたが、インド映画の模倣か、時々、村人の合唱や踊りが入っていて違和感を覚えました。冒頭にアマルとラヒムの愛が描かれますが尻切れトンボになってしまい、結ばれたのかどうか気になりました。