その宿は、蒲団を敷くのも大変そうな老夫婦が細々と営んでいた。雨なので,他の旅館は、空き部屋がなかった。そして、この旅館には、私たちの他に、客はいなかった。
私が寝る前になって、部屋のこたつに入っていると、霊伝さんが部屋に来た。私は、迷って迷って、霊伝さんに今夜の宿代を、布施した訳だが、そのことに対して、彼は答えようとしているのだろうか、
「うちの住職のもとで、一緒に修行をしよう。」と、真っ直ぐに話を始める。
「いやぁ~、・・・。」と、私はお茶を入れた。彼は、
「住職は、すごい霊能者ですよ。お大師様とも話が出来るんです。」と、正座をして行儀よく話を詰めてくる。私は、
「はぁー、そうなんですか。」斜め下を向いて、目を外す。
「人の前世だって、七代前まで分かるんですよ。いや、七代半かな。」という。私が怪訝そうにしていると、彼は、
「私は、毎日電話をして、指導を受けているんです。」と、力を抜かないで誘う。私が、
「それは、いいですね。」と、おあいそうをすると、彼は、
「三業が、三密にならなければいけないんだ。」と、追い打ちをかけてくる。
私は、一瞬、『お大師が、私をその寺に誘われているのか?。』とも、思った。しかし、この人たちが、私のわずかばかりの空の精神を、認めているとは、直感的に思えない。だから、彼の誘いに、私は、
「うん。」・・・とは言えない。・・・つづく。
三業とは、身体(動き)、口(言葉)、意(意識)が、欲界の人間の行いのこと。
三密とは、身体(動き)、口(言葉)、意(意識)が、仏の世界の行いのこと。空性(永遠の命性)が強くなると、三業が三密に変る。