私は、一時間強、暴風雨との格闘をした。やっと風がおさまってくれる。私の両手は、痺れて冷たくなっていた。疲れているのか、安堵しているのか、よく分からない。
それでもこの隙にと、私はテントを畳む。テントのポールが二本ほど曲がっていたので、両手でそれを直して、袋に詰め込む。
「ふーっ。」と、私が、一息ついて見上げると、小雨の雨粒が斜めに落ちている。私は、なんか綺麗だと思う。雨粒の向こうに街灯の明かりがあって、その薄明かりが雨粒に小さく反射していて、闇の中に澄んだ空間を作っている。その空間が、私の心の空間にはやさしい感じがする。光の加減が「もう行くの?。」と、私の一人を慰めるように語りかけてくれる。『どうしようかな。朝までこの空間にいようかなぁ。』少し甘えそうになる。
迷っていても、仕方がない。私は、カッパを着て暗闇の中を歩き始めた。
アスファルトの田舎道を、私は、スコスコと歩き続ける。まだ暗闇の空間は澄んだままだ。遠くで車のライトが流れて行く。少し不安もある。スコスコと歩く。
明け方なって、私は三角寺山への登り口までたどり着いた。山道を登っていると、少し明るくなって、霧が、ふーっと立ち込めて来る。一面が真っ白になる。
『神秘的だぁ。何かのお示しか。』
私は、その霧の中を泳ぐように歩く。霧の海だ。初めて泳いだ。楽しい。
黒い衣の袖が、風を起こして、白くて微細な霧の水滴が渦を巻く。小さな渦だ。やさしい感情の渦か?。カルマ(業)の渦かも知れない。
白い水滴の浮遊感が、私の心の空間に、小さな喜びとうるおい感を運んでくる。私は、自由かも知れないと思う。しばらくの間、この白の中を、私は進んだ。
やがて、霧を抜けて、日光が差して、明るい世界に出る。そうだ、太陽の光も逆転出来ない動きだ。
第六十五番三角寺(本尊・十一面観音・おん まか きゃろにきゃ さわか)大師堂(南無大師遍照金剛)をお参りした。・・・つづく。