私は、遊仙寺を出て、山を下り、しばらく歩いたが、あまりの寒さに負けて、ビジネスホテルのカプセルに泊まることにした。
うす暗い通路を通って、部屋に入ると、五・六個程のカプセルが置いてある。そこに、三十代前半の男性がいた。彼と私の他には宿泊客はいない。部屋には、共同で使うためのソファとテーブルがある。彼は、向かい側のソファに座っている。
私はテーブルを挟んで、こちら側のソファに座りながら、
「こんにちは、お遍路さんですか?。」と、聞いてみた。彼は、
「お遍路はしていないんですけど。旅をしています。」と言う。そして、
「今さっき、あなたが部屋に入ってきたとき、同じような格好をした坊さんが、通り過ぎて行った。」と、薄笑いを浮かべながら、ピアそうに話してくる。 この人も、多少、霊能者?。私は、
『こいつ、悪い薬でもやっていたのかぁー?。』と、トホホ。
そして、彼の重ーい身の上話を聞くことになる。詳しくは書けないが、疎外と親切と子供の命と事故と家族ぐるみの許しと数十年にもわたる恨み、の話だった。彼は、深ーところから、鼻声で流れるように話す。私は、こんなんことがあるのかなぁ、と思いながら、腹を据えるしかなかった。
墓場を臨死体験もどきの感覚で通過した後は、霊能者との遭遇になった。・・・つづく。