次の札所は、宿のすぐ近くだった。

第四十六番浄瑠璃寺(本尊・薬師如来・おん ころころ せんだり まとうぎ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)をお参りする。それから、納経所に行くと、住職さんが、私にボールペンを渡してくれる。見覚えがある。『私のだ。』私が、

「あれ?、どうしたんですか?。」と聞くと、「御夫婦の方が、おいて行かれましたよ。昨日、その人たちの車に乗っていたんじゃないんですか。」と答えらる。私は「車の中に忘れていたんですね。わざわざ、ありがとうございます。お手数をかけました。」と、思わぬことに、お礼を言った。

 そう言えば、あの御夫婦は、狭いワゴン車の中で、仲よくしてたなぁ。彼らは、私に、昨日の車の中で三回ぐらい、「あなたに乗ってもらって良かった。」と言っていた。そして、私にとって、ボールペン代も大変だろう察して、納経所に預けてくれたんだろうと思う。しかし、住職さんも、迷わずによく私に声をかけてくれたなぁ。不思議。

 少し歩いて、

第四十七番八坂寺(本尊・阿弥陀如来・おん あみりた ていぜい からうん)大師堂(南無大師遍照金剛)を、お参りして、また少し歩き、

第四十八番西林寺(本尊・十一面観音・おん まか きゃろにきゃ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)を、お参りする。とんとんと田舎道を進んで、

第四十九番浄土寺(本尊・釈迦如来・のうまく さんまんだ ぼだなん ばく)大師堂(南無大師遍照金剛)を、お参りして、そして、

第五十番繁多寺(本尊・薬師如来・おん ころころ せんだり まとうぎ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)も、お参りする。

 繁多寺の境内で、私は、三十代後半の男性からお賽銭を受け取った。彼は椎間板ヘルニアの手術を受けて、退院してきたばかりだった。そして、「女房と子供がいるんですよ。腰が痛くても仕事をしなきゃ。次の寺から、病気平癒のお祈りをして欲しいんです。」と言われた。彼は、「運命なんですかねぇ。」と、諦めきれないような声を出している。この人も家庭を持って生きている人だ。私は、冬の日差しがやけに目に染みた。・・・つづく。