明け方から、雨だったので、テントの中に居ながら外の様子を見て、七時ごろ出発する。山道の遍路道に入ったら、足元に滑りやすい石がゴロゴロしていたので、私は、ここで怪我をするわけにはいかないと思いながら、恐る恐る進む。
やがて、県道に出て、ぼそぼそとゆっくり歩く。橋を渡ったところで雨が強くなり、傘をさす。私は下を向いて歩いて行く。
以前勤めていた寺では、身を削って、本堂の再建やら、作務行やら、御祈祷やら、たくさんの奉仕をして来たが、寸足らずの坊さんたちに奉仕してなんになったんだろう、「場所が変わればこの様か」と、目には見えない種類の功徳を疑って、諦めて、濡れたアスファルトをさ迷うように歩いて行く。私は、水たまりをよけた。
ふと、何かを感じる。私が頭を上げて見ると、「乗っていきませんか。」と、声をかけてくれる人がいた。女性だったか男性だっかも良く覚えていないが、私は、車の中が濡れないように気を使いながら、その車に乗り込んで、次の札所まで、五キロほど載せて頂いた。運転手さんは札所の近くに住んでいる人らしい。ほとんど車の走っていない道で、こういう人がいるなんて。
私は、寺の門の近くで下してもらい、『大師うどん』の旗を見ながら、境内へ向けて進んで行く。と、そこは、見覚えのある場所だった。
『ここは、以前に団体参拝でお参りしたことのある寺だ。』
あの時は、もっと大きな寺のような印象があったのだが、今日はなんだか、少し小さく見える。そう言えば、どの寺も大きな寺院なのに、最近の私は小さく感じることが、多くなったように思う。私の深層意識の方が拡大したのだろうか。・・・つづく。