私には、薄闇の中でのその光景が、人間の悪業がうごめく現代社会の縮図のようにも見えた。うっー、不安と孤独がよぎる。酔っ払いに文句を言うことぐらいは簡単だけど、業の上に良い悪いを重ねて、業を深くするのも、どうかと思う。今、付けても効かぬ薬を、なぜ塗る。社会のためか?。ふーん、その社会が薄闇の中なんですけど。
私は、見るに見かねて、自分のマットをそのおばぁさんたちに差し出して、
「ばぁさん、しょうがねぇよな。これでも使いなよ。俺、ちょっと向こうへ行くから。」行く宛もないのに、言うと、ばぁさんたちは、
「すみません。」と、受け取ってくれる。俺は、
「ああ、いいよっ。」
あきらめがちに、ふわっと、背中を向けながら、ひょいと片手をあげる。と、フーテンの寅さんみたいな気分になっていた。生きる場所がない。肩に、スコンとお人好しの馬鹿な風。「アッハッ」
私は、仮眠室を出て、ホールの方へ行ってみた。すると、寝椅子が一つ空いている。ラッキーじゃないですか。私は、マットよりもよっぽどいい感じの寝椅子に寝ることになった。椅子から一メートルぐらいのところに、大型テレビがあって、私が、しばらく見ていると、なんと、大好きな「男はつらいよ」が始まる。
「おおーっと、」、これには思わず喜んだ。
後藤久美子の演じている、母一人子一人のいずみちゃんが、愛らしく耐えていて、かわいらしくて、愛おしくて、「情けは人の為ならず、回り回って自分のため。」、そんな寅さん映画をプレゼントされたようで、とっても嬉しーい。
高知修行の道場、歩いて、歩いて、良く歩いた。そして、寒かった。でも、最後にこんなプレゼントをしてもらって、大自然の気の流れに乾杯。
寅さんも 信仰すれば 恋遍路
感情に 付ける薬は なけれども 愛しておのこ、いとおもしろし・・・つづく。
(この日23日の日記の始めに、寅さんの空想を持ってきたのは、この寅のためでした。私や誰かではありませんのでよろしく)