ある和尚さんが、企業や何かを始めても、初代が苦労して、二代目が楽をして、三代目が潰す、と言っていた。笑うけど、当たっているよね。種田さんも三代目らしいから、問屋を潰しちゃったのかなぁ。そう言えば、酒も好きだし、遊びも好きみたいだな。彼が、
「仕事をしているときは、何を食べても旨くなかったけど、お遍路してから何を食べてもおいしくて。女房が、好き嫌いが無くなったわねぇ、って、喜んで言うんですよ。」と言う。私は、もともと、何を食べてもおいしそうに食べる人間ではあったが、今は、マヨネーズ食パンで我慢している。そんな日々だ。それでも、私が無理をして、
「良かったですね。」と言うと、彼が、
「今は、便利になって、楽しそうですけど、人間の本来の見えない能力がおちて、勢いだけになっていますやろ。恐怖や不安が増えましたねん。」と言う。私は、この人から、まさかこんな深層意識的な話が出てくるとは思ってなかったので、彼の顔の皺の中の目を、見るとはなしに、見据えてしまった。
彼の眼は、仏教で言うところの中庸の道、空性の道、を知っているようで、瞳に宇宙観があって、それが皺の中でキラキラしていた。声には生命力の力強さを感じた。もうよたよた歩く遍路ではなかった。・・・つづく。