出発してから、九日たったのか。朝六時に起きて、いつものように瞑想をし、歩き始める。

 昨日うちに、私は、老僧の本を読み終わったので、どうしようかと考えていた。お遍路で歩いてみると分かるのだが、肩に荷物が食い込んで、紙一枚でも、軽いほうがいいと思うようになる時があるのだ。それで、その本を拝んで海に流した。そうしたら、数珠までなくしてしまう。引き返して探してみたが、見つからない。また資金がかかる。

 とぼとぼ歩く。

「信じる者は、救われる?。信じて、バカを見た者もいる?。馬鹿を信じた、バカもいる?。」アハハッ。

「おい、そこで読んでるあんた。笑いごとではない。」・・・私には全部、当てはまる。ククッ。

「だから、笑わないでくれって。」

「あーあ。」

雨がピシャ、ピシャ、強くなる。

雨降れば、雨に負け。ドロンコ、ドロンコ。

風吹けば、風に負け。コロゲテ、コロゲテ。

車が水しぶきをあげながら、私を置いていく。

波の音が、足元で攻めてくる。

前を見て、また下を向いて、網代笠が風で傾かないように、手で押さえて進む。

ふと、どこからか、キャラか沈香のお香の香りがする。あたりに寺はないし、家が遠くに一件あるだけだ。

何だろう。海の方から漂ってくる。鼻をつきだして良い香りを吸い込む。不思議だった。

そして、また歩き始める。

 海の波が道の側面に、打ちつけている。その道の前方から、逆回りのお遍路さんが来る。小さなおばぁさんだ。私が「逆打ちですか。」と尋ねると、「ハイ。」と、低い声で答えて、通り過ぎて行った。あの年でお遍路かぁ。

 今日は足がよく痛む。次の札所まで、残り九キロのところまで来て、岩陰にお薬師さんがお祭りしてあり、雨の避けられるところがあったので、今日はここにテントを張ることにした。金もないし元気もない。今日はよく御真言を唱えた。さあー、寝よう。・・・・つづく。