色々と自分の半生に照らし合わせて、あれこれ考えているうちに峠を越えていた。一見、矛盾しているようにも思うのだが、前に歩きながら、自分の内側の心の感覚を、見つめているのが遍路旅かもしれない。下って、下って、歩いて、歩いて、いたら、大きな川が見えてきた。風景にはまっている。その中に、歩きのお遍路さんの姿が見えている。たぶん、安楽寺で話をした大阪のお遍路さんで、種田さんだろう。彼が赤い看板の酒屋さんに寄ったので、私は追いついて、どんな感じか聞いてみた。種田さんは、朝日の缶ビールを三本買っていて、それを、リュックにつめながら、

「生存競争の中で、会社をやらせてもらってたんですがね、あきませんわ―、ごまかし半分ばっかりで。止めてもーたんです。」

「借金はあるんですか。」心配して、よけなことをつい聞いてしまう私。彼は、失礼だとも言わずに、

「借金をしそうになったんで、やめたんですわ―。」と言う。私は、

「それなら、まだ、安心ですね。」などと、分かったふうなことをのたまう。彼は、

「家族は認めてくれているんですけど、心の置き場がなくていけませんわ。」と諦め加減に言って、苦しそうに荷物を背負って、先に行った。私も、店でラーメンなどを買った。

 その店を、出て見ると、

 風が出てきた 川のほとりの坂道をいく お遍路さんがいる

 重い荷物に 風邪が吹く 笠が傾き 白衣が乱れる

 チリリン チリリン どこへ行く チリリン チリリン 何がある 道の先には 何がある 

 悲しみと 憂いと 努力を抱いて チリリン チリリン どこへ行く

 自分の願いが届かなかったか 世間の矛盾を押しつけられたか

 捨てて生きるか 戦うか のがれて世俗のよいを飲む

 道は続く遍路道 まっすぐ続けば 白の道 細くて 白い 絶対の道

 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛

 自分で唱えて 大師と泣いた。


 十三番札所に向けて、歩いて、歩いて、あまりに疲れていたので、道のほとりに座り込んでいたら、地元の人が、坊さんの遍路を喜んでくれて、お金をお接待(布施)してくださった。心が嬉しい。少し歩けるようになって、大日寺に着いた。

第十三番大日寺(本尊・十一面観音・おん まか きゃろにきゃ そわか)大師堂(南無大師遍照金剛)をお参りした。御真言を一日中、お唱えした。め一杯やってみると助けがあるとも思った。・・・・つづく。