私としては、彼をどうにか励まさなければいけないような、かと言って、私の話をしても、似たり寄ったりの話で、結果として、雑巾男二人が、世の中を恨んでもしょうがないだろうし、そもそも、今の私に、彼を励ます元気があるのだろうか?。とりあえず、すぐには解決できないし、私は、戸惑い気味の気持ちを持ちながら、彼を心配して、

「家族の人の生活はどうされているんですか?。あっ、元重役さんだから、お金の心配はないんですよね。」下手にだけど、聞いてしまう私。彼は、

「重役と言っても、小さな会社で、大したことはないですよ。まぁ、わずかですけど退職金もまだありますし、女房も働いていますし、一番上は社会人ですし、二番目は高校生で、バイトを始めたらしいですよ。おとといの電話でそう言っていました。」

「それなら、帰れるところがあっていいじゃあないですか。」と言ったら、彼は空中を見て、

「無邪気でいたいんですよ。心が埋まらないから。」と言う。しょうがないから私も同じ方向を見て、

「昨日なんか、風が強くて大変だったでしょう。テントはどうされたんですか。」

「駐車場の建物の影だったんで、風は大丈夫でしたけど、もう少ししたら家に帰ろうかと思っています。」と、うなずいている。この人は、柳に風の素直さで無邪気に生きていくんだろうなぁ。家族と。

 だけど、私が坊さんだからと言って、柳の下で、幽霊にだけはならないでね。

 それから、私はもう一度お参りをして、一人で地蔵寺を出発した。午後の三時半ごろだった。…つづく。