彼は、人恋しかったのか、のっけから、
「会社に、雑巾みたいに捨てられましたよ。」と言う。私は、
「雑巾ですか?。」
「だから、汚れを吸いとって、捨てられるだけってやつですよ。」
彼は、会社を退職した後、テントにとまりながら、バスに乗り、全国を旅しているのだそうだ。それで、十日ほど前に、お四国に流れ着いたと言っている。お遍路さんではないみたいだ。
その彼は、お四国の風に洗われて、白い古着で新しい雑巾を作ったような感じになっていて、それでも、顔をクシャクシャにして、照れくさそうに、
「夜のテントは、心細くてねぇ。夕方になると、つい、家に電話をしてしまうんですよ。」首の後ろを書きながら言う。私は、『この元重役の人は、弱さを知ったんだなぁ。』と思いながら、『風呂はどうしているのだろう。』とも、思ったりしていた。気のすまない彼は、
「今日は、日曜日で、どの店も開いてなくて、チョコレートしか食べてないんですよ。何かあった時のために、チョコレートだけは、持ってるんですけどね。」私と同じような仕打ちを受けて、ボロボロなのに、スキはなくして生きているんだと言わんばかりに・・、自己完結しているんだと言わんばかりに・・、自己弁護的にしゃべる。そう言えば、私も朝から何も食べていなくて、断食を覚悟していた。
彼にしてみれば、仕事はないし、家族には励ましてもらいたいし、しかし、それもむしょうにみじめだし、腹は減るし、鼻水すすって、六十男の一人旅、所詮、誰にもわかるまい。クソッタレ。
「坊さん、あんた、分かるかい。」と、言っているのかもしれない。私は、
『はぁーい、分かりますよ。・・・・エ・ン・カ(演歌)ですかねぇ。』って、、、言えないだろう・・・。・・・つづく。