いつも通りに、もうひと手間。映画「深夜食堂」 | 忍之閻魔帳

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映画 深夜食堂 劇場版 小林薫


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▼いつも通りに、もうひと手間。映画「深夜食堂」

安倍夜郎の同名コミックを「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
「歓喜の歌」の松岡錠司監督らが実写化した人気ドラマ「深夜食堂」が
いよいよ映画に進出する。
小林薫が店主を務める食堂に夜な夜な集う人々の悲喜交々を
飾り気のない料理と共に描く30分の人間ドラマ。
劇中の料理は「南極料理人」「ごちそうさん」の飯島奈美が担当。



ドラマ版の二部が放送される前に
番宣番組に出演した小林薫はこんなことを言っていた。

「ドラマやってすぐ映画はいけない。せめてもう一回ドラマやってから。」

近年のテレビ局製作の映画は、視聴率がどうであろうが
まず最初にゴール地点を映画と決め、その助走としてドラマを作ることが多い。
ドラマは劇場版までの長い前振り、もしくは撒き餌のようなもので
局を挙げてのローラー作戦によって視聴者を劇場に向けさせる。

「深夜食堂」は松岡錠司監督が山下敦弘、熊切和嘉ら監督仲間に声をかけて作った
「映画人ならではの手法で30分のドラマを撮る」ことがコンセプトのドラマであり
劇場版をゴールに定めた企画ではなかったはず。
小林薫の冒頭の言葉は、ちょっとぐらい評判が良かったからといって
安易に劇場版に進出してもドラマの価値を毀損するだけだと分かってのことだろう。
結果的にドラマはシーズン3まで続き、さらにその後に劇場版が登場することになった。
まさに「満を持して」である。

劇場版でも構成は変わらず、「ナポリタン」「とろろ飯」「カレーライス」の
3つのエピソードからなるオムニバス形式。
遺骨を置き去りにするエピソードが全編に渡って少しずつ描かれてはいるが
基本的には「いつものあの味」だ。
高岡早紀、多部未華子、余貴美子、筒井道隆、田中裕子といった
劇場版ならではの華やかなキャストを迎えつつも、
映画の空気を作っているのは食堂の主人(小林薫)と、
忠さん(不破万作)小寿々さん(綾田俊樹)竜ちゃん(松重豊)
マリリン(安藤玉恵)お茶漬けシスターズ(須藤理彩/小林麻子/吉本菜穂子)ら
常連客という点は何も変わらない。
どんな客が来ようともいつもと同じようにもてなす「深夜食堂」の最大の魅力が
こんなところにも貫かれていて、そのこだわりが第1期からの古参ファンには嬉しかった。

では「劇場版 深夜食堂」は、単純にドラマ3話分をくっつけただけの
作品なのかというと、これもちょっと違う。
ぱっと見た感じは同じでも、確かに何かが違う。
私も最初は何がどう違うのか、監督の隠し味の秘密がわからなかったのだが
2つ目のエピソード「とろろ飯」に入って分かった。
劇場版には、ドラマ版にはないたっぷりとした間がある。
同じ台詞運びでもひと呼吸置くと置かないとでは
客に伝わる心情が何倍にも変わることがあり
松岡監督も当然その辺のことは熟知していたはず。
しかし、CMとエンディングを抜くと本編が20分ほどしかないドラマ版では
敢えてそこの部分を切り捨てて、「すぐ出せる小鉢」の良さを優先させたのだと思う。
じっくり人物を追うカメラも、いつもはほとんど映らない下町の風景も
削ろうと思えば削れる。しかし、あるとないとでは味が確実に変わってくる。
ドラマ版と同じように基本的な下ごしらえを済ませた上で
『あとひと手間』を加えているのである。

煮物は面取りをしたほうが仕上がりが美しいし
出汁も鰹節から掻いた方がいいに決まっている。
米だって土鍋で炊いた方が絶対美味い。
素揚げをしたり、隠し包丁を入れたり、下茹でをしたり、
そういった手間が料理の仕上がりを大きく左右することを知ってはいても
たったひとりで毎日営業する深夜食堂でいつもそれをやるわけにはいかない。
だからこそ、119分に3本のエピードが割り振られた劇場版では
いつもの料理にもうひと手間加えて、より心のこもったもてなしをしているのだ。
それでも、シャイな主人はきっとこう言うだろう。
「こんなもので良ければ」と。

出てきた料理は、ただの「とろろ飯」。
しかし、丁寧にすりおろされた山芋と
土鍋と炭で炊き上げられた白米が出会う時、それは至高の一品になる。

松岡監督らしい心づくしを存分に感じることのできる良作。
ドラマ版からのファンはもちろん、最近すっかり良い人情劇が減ったと
お嘆きの方も劇場に足を運ぶ価値あり。

「映画 深夜食堂」は1月31日より公開。




発売中■Blu-ray:「深夜食堂 第一部 & 第二部 ディレクターズカット版」
発売中■Blu-ray:「深夜食堂 第三部 ディレクターズカット版」

続編はおろか、DVD化自体ないのではと諦めていた
ドラマ版「深夜食堂」は現在までに3シーズンを重ね、
1&2期はセットで、3期は単独でBlu-rayが発売中。

深夜から明け方までが営業時間であること、
場所が歓楽街の片隅であることなどから、
一見・常連を問わず、深夜食堂に集まる客達は
皆どこかに人に言えない悩みや寂しさを抱えている。
そんな彼等の事情を知ってか知らずか、店主は何も言わず厨房に立ち
今夜も暖簾をめくって「いらっしゃい」と声をかける。

映画では描けない1話完結、30分のストーリーが小気味良く、
一流料亭でこっそり出してもらえる賄い飯のような味わい。
1時間かけてほとんど何も進まないドラマも多い中、
30分でもここまできっちりした人情劇は描けるのだと
知らしめるようなエピソードばかり。

オープニングや劇中歌を担当している鈴木常吉氏のことは
ドラマの1期で初めて知ったのだが、場末のバーを流しで回っているような
哀愁漂う歌声がかなりツボ。
主題歌の「思ひ出」を含むアルバム「ぜいご」も購入してしまった。
シュディ・ガーランドの歌っていた「A pretty girl milking her cow」が
すっかり昭和歌謡になっている。




発売中■BOOK:「深夜食堂の料理帖」
発売中■COMIC:「深夜食堂 1」
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発売中■COMIC:「深夜食堂 8」
発売中■COMIC:「深夜食堂 9」
発売中■COMIC:「深夜食堂 10」
発売中■COMIC:「深夜食堂 11」
発売中■COMIC:「深夜食堂 12」
発売中■COMIC:「深夜食堂 13」

原作コミックは現在13巻まできた。
ドラマ開始当初は確か5巻ぐらいだったので、ドラマ同様随分長く愛されている。
マンネリと言われつつ、何巻のどこから読んでもふっと心を温かくしてくれる味わいは、
グルメ漫画が乱立する現代においてやはり貴重。

私達日本人なら必ずどこかで出会ったことのある
けれどなかなか手に入らない温かみと懐かしさを持っている
飯島奈美の魅力が存分に発揮された「深夜食堂」の料理に
クローズアップした「深夜食堂の料理帖」も発売中。
なんでも飯屋のオーナー(小林薫)がさっと作ってくれる家庭料理の数々は
優れた人情劇の感動をさらに増幅する効果的な品ばかり。
ドラマで登場した約30点のレシピが掲載。
原作者・安倍夜郎氏の漫画3編や対談も収録されている。




発売中■CD:「ぜいご / 鈴木常吉」
発売中■CD:「望郷 / 鈴木常吉」

鈴木常吉の歌うオープニングテーマ「おもひで」も遂にスクリーンに進出。
ドラマ版のようにスポンサーの思惑が絡まないため
世界観を台無しにする無粋なエンディング曲がなく、
鈴木常吉の歌声に絞られることによって、雑味のない椀もののように
それだけで映画がワンランク上がったように思える。