まさかのダークファンタジー巨篇。映画「美女と野獣」 | 忍之閻魔帳

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映画 美女と野獣


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▼まさかのダークファンタジー巨篇。映画「美女と野獣」



サービスデー公開の新作が多数集まった先週末の映画興行ランキングにおいて
土日の2日間で動員13万6028人、興収1億6707万7800円を稼ぎ出し
見事3位にランクインしたのが、「美女と野獣」。
G・ド・ヴィルヌーヴ(J・L・ド・ボーモン)によるフランスの古典を
実写映画化したもので、大半の方にとっては
1991年にディズニーが製作したアニメ版が強く印象に残っていることだろう。


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監督を引き受けたのは、2011年の「ジェヴォーダンの獣」で注目され
2006年の「サイレントヒル」がゲーマーからも大絶賛されたクリストフ・ガンズ。
ヒロインのベルには「アデル、ブルーは熱い色」「グランド・ブダペスト・ホテル」など
人気急上昇中のレア・セドゥ。呪われし宿命を背負った野獣には
「トランス」「危険なメソッド」のヴァンサン・カッセル。
クリーチャーデザインは「サイレントヒル」のパトリック・タトポロスを、
衣装デザインには「パフューム ある人殺しの物語」
「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」のピエール=イヴ・ゲローを起用し
アニメ版の印象を覆すダークファンタジーに仕上がっている。



ある日、ひとり商人が謎の館に迷い込む。
始めのうちは歓待を受けるも、欲を出した商人は愛する末娘のためにと
庭のバラを摘もうとして野獣の逆鱗に触れてしまう。
娘を寄越さなければ家族を皆殺しにすると脅された商人は
命からがら逃げ帰りそのことを告げると、心優しい娘は父の為ならと館へ向かった。
恐ろしい野獣は実は呪いをかけられた王子で
呪いを解くためには真実の愛を見つけなければならない。
美しく心優しい娘に求愛するが、娘は頑に心を開かず野獣は苛立を募らせてゆく。
やがて、館での孤独な暮らしに耐え切れなくなった娘は
一日だけの帰郷を申し出るのだが・・・。



発売中■Blu-ray:「パフューム ある人殺しの物語」
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異常なまでのこだわりによってゲームの世界観を完璧に再現して見せた
クリストフ・ガンズが本作で意識しているのが、1946年公開のジャン・コクトー版。
原作に忠実なストーリーと、コクトー版を最新技術でリマスターしたかのような映像美は
夢が溢れ、愛に満ちたディズニー版のイメージを開始5分で木っ端微塵にしてしまう。

野獣は本当に恐ろしく、ベルを迎える館の住人と言えば目玉の大きな犬だけ。
ポット夫人&チップ、ルミエールやコグスワースといった
サイドキャラクターは誰独りおらず、野獣と二人きりの生活は
寒々しい色使いも手伝って、一時帰郷を申し出るのも当然なほど孤独に満ちている。

「あのディズニーの!?」とロクな下調べもせず劇場に足を運んだ方は
トム・ティクヴァの「パフューム ある人殺しの物語」や
ギレルモ・デル・トロの「パンズ・ラビリンス」に近い、
精神的にもビジュアル的にも残虐な美しさを描いた本作に拒絶反応が出てしまうだろう。
しかし、クリストフ・ガンズの撮った「美女と野獣」と聞けば
「サイレントヒル」の完成度を知るホラー映画ファンならば納得するはずである。


発売中■Blu-ray:「サイレントヒル」
発売中■Blu-ray:「ジャックと天空の巨人」

終盤にかけては巨像が暴れ回るスペクタクル巨篇へと移行し
さながらブライアン・シンガーの「ジャックと天空の巨人」を見るかのよう。
私は大変楽しめたのだが、日本の興収ランキング3位に入るような
メジャー作品かと言われると返答に困る。
「パフューム」や「パンズ」がそうであったように
本作は(本国はさておき)日本では単館系で公開されるべき
マニアックな楽しさを持つ作品であり、メジャー公開によって
本来呼び込むべきではない層からの酷評が寄せられはしないかとヒヤヒヤしている。

原作者と大揉めしたジブリ版の「魔女の宅急便」が大ヒットし、
原作者お墨付きの実写版が大コケした事実からも分かる通り
原作に忠実であればあるほど映画が良くなるとは限らない。
しかし、本作は原作に忠実で、かつディズニー版とは異なった面白さを持たせることに
かなりのレベルで成功している。

ただ、ひとつだけ大きな大きな欠点がある。
本作は、野獣が王子へと戻るために必要な「真実の愛」が描き足りない。
館に幽閉されたベルは、ずっと不機嫌なまま家に帰りたいしか考えていない。
野獣の下に実は可愛らしいところがあると発見する場面もないし
野獣がベルに向ける愛情も、衣食住に困らない物質的な施しを与えているだけであり
人間の姿に戻りたい一心でやっていると邪推することもできる。
ディズニー版の名場面として知られる、テーマ曲が流れる舞踏会のシーンでさえ
帰郷したいベルが交換条件として出した案であり、取り引きの場に過ぎない。
二人の距離が縮まっていく過程が描かれていないのに
ラストでいきなりキスをされても「え?いつの間に?」となってしまう。
どれだけおどろおどろしくても、その過程だけはもう少しきっちり描いて欲しかった。

人間に戻った時の素顔がヴァンサン・カッセルというのも、日本人的にはどうか。
せめてロマン・デュリス(「タイピスト」「ムード・インディゴ」)あたりを
連れて来なければ絵にならないと感じる方が多そうな気がする。

ディズニーが「子供向けの童話」なら、こちらは「本当は怖い残酷童話」。
違うアプローチを楽しむ余裕のある方や
「サイレントヒル」を楽しめたホラーファンならお薦めするが
ディズニー版のような歌や笑いがたっぷりの感動作をお求めの方は避けたほうが無難。

映画「美女と野獣」は現在公開中。




発売中■DVD:「ビーストリー」

「美女と野獣」の舞台を現在に移し、青春ラブストーリーに仕立てた
アレックス・フリンのヤング・アダルト小説の映画化。
主演は「ハイスクール・ミュージカル」のヴァネッサ・ハジェンズと
「マジック・マイク」のアレックス・ペティファー。
変化球ではあるが、これが意外とイケる。