ぼくたちの失敗。映画「マイ・バック・ページ」妻夫木聡 松山ケンイチ | 忍之閻魔帳

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評論家の川本三郎が「週刊朝日」「朝日ジャーナル」所属時代の体験を綴った
書籍「マイ・バック・ページ」を、「リンダ リンダ リンダ」
「天然コケッコー」の山下敦弘監督が映画化。
学生運動が盛んだった1960年代後半から1970年代前半を舞台に
ジャーナリストとして名を上げんとする主人公と、
ひとりの活動家との交流を描いた社会派のドラマ。
主演は「悪人」で昨年度の映画賞を多数獲得した妻夫木聡と、
「ノルウェイの森」「GANTZ」の松山ケンイチ。
共演は中村蒼、忽那汐里、石橋杏奈、韓英恵、長塚圭史、山内圭哉、あがた森魚、三浦友和。
音楽はクラムボンのミトと、「婚前特急」のきだしゅんすけ。
主題歌は真心ブラザーズと奥田民生による「My Back Pages」。



1960年代後半。
自らの手で世界を変えようとする若者の情熱が暴走し、
国家権力との衝突を繰り返していた時代。
しかし、1969年に起こった東大安田講堂事件を機に、全共闘運動は失速し始める。
「週刊東都」の記者として働く沢田(妻夫木聡)は、入社前に抱いていた高い理想と、
妥協と割り切りを要求される社会の仕組みとの狭間で、思い悩む日々を送っていた。

1971年。
全共闘は崩壊の一途を辿り、大衆からの支持も失った一部の活動家は
より直接的な武力闘争へと突き進み始めていた。
ある日、編集部に「京西安保」の幹部を名乗る男からタレコミが入る。
接触に成功した沢田は、梅山(松山ケンイチ)の熱弁に耳を傾ける一方で
趣味が似通っている梅山に対し、取材対象の枠を超えた親近感を抱く。

そして、「事件」は起こった。


【作品をより深く楽しむために】

Wikipedia「東大安田講堂事件」(1969年1月)
Wikipedia「三島事件」(1970年11月)
Wikipedia「朝霞自衛官殺害事件 /赤衛軍事件」(1971年8月)

非常に良く出来た作品なのだが、楽しむためのハードルは結構高い。
というわけで、まずは鑑賞前のご注意を。
「観客はとうに知っていること」として
序盤から膨大な情報が詰め込まれている作品なので、本作の時代背景について
よくご存知でない方は、上記の3つの事件についてだけでも目を通しておくべし。
知っているといないとでは、映画への没入度がまるで違うので。
本作がメインとして扱っているのが「朝霞自衛官殺害事件 /赤衛軍事件」で
事件を引き起こした張本人が、松ケン演じる梅山(実際は片桐)。
妻夫木演じる沢田は、梅山を使って独占スクープを得ようとした新米ジャーナリストである。

自らの掲げる理念が崇高なものと信じた若者が、変革の一翼を担うつもりで
四畳一間のアパートで火炎瓶をせっせと作っていた時代。
この映画は、1960年後半から1970年前半にかけての時代的変化と、
ひとりの若者が引き起こした事件の顛末を、取材する側・される側の
両サイドから描いている。

本作が面白いのは、梅山が社会を揺るがすほどの大事件を起こした人間ではなく
カリスマに憧れただけのフォロワーに過ぎない、という点。
その場凌ぎの嘘を吐き、舌先三寸で丸め込もうとする梅山の軽薄さは
尾崎豊の「卒業」に感化されて、真似事で校舎の窓ガラスを割ってみた凡人学生のようだ。
沢田が梅山のような男にまんまと乗せられてしまったのは
単に趣味が合っただけではなく、一刻も早く名を上げて社会部の人間を見返したい、
それにはスクープが必要だという意地もあったかも知れない。

劇中で梅山が沢田に向かって言う
「もう少しで俺達は本物になれるんですよ」という言葉は、
まだ一人前になっていない自覚と、時代の変化から取り残されようとしている焦りを
端的に表していて、またそういった感情は、現代の若者が抱えているであろう
不安や葛藤と何ら変わりないことに気付かされる。

昔の知り合いと偶然再会した居酒屋のカウンターで、
グラスを持った沢田が突然泣き出してしまうシーンが凄い。
台詞もない上にけっこうな長回しなのだが、堪え切れず零れ落ちる涙と
取り繕った作り笑顔から、沢田の挫折が痛いほどに伝わってきて
思わずもらい泣きしてしまった。
妻夫木聡は本当に良い役者になった。

物語を彩る女性陣が意外と粒揃い。
梅山の素顔をいち早く見抜き、仲間が事件を起こした時にも
ナポリタンを食いながら漫画を読み、ケラケラと笑っている梅山に対して
侮蔑の視線を送る韓英恵。
梅山の思想が虚栄に満ちたものであることに気付いていながら、
最後の1%を信じたくて離れられない石橋杏奈。
そして、保倉幸恵をモデルとした倉田眞子役の忽那汐里。
まだ幼さの残る表情とはっきりした意思表示が魅力的で、
物語を客観的な立場から眺めている唯一の人物として存在感は抜群。
彼女の口から語られる時代や事件に対しての意見は、
どれも真っ直ぐな分、いちいち胸に響いた。

とっつきにくい題材ではあるし、141分もあるので気軽に勧められる作品ではないが
観ておいて損はない。今の20代、とくに男性には共感し得る部分が多いはず。
予備知識を少しだけ入れて、是非劇場でご覧いただきたい。

映画「マイ・バック・ページ」は5月28日より公開。



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GSサウンドの後期を描いた「GSワンダーランド」(石田卓也・栗山千明・水嶋ヒロ)
1971年の「山岳ベース事件」を描いた「光の雨」(裕木奈江・萩原聖人)
いずれも本作と近い時代を、若者を主人公にして描いている作品。
「GSワンダーランド」だけが明るいコメディなので違和感を感じる方も多いかも知れないが
「時代に乗り切れずに徒花として散っていった若者」という意味では
一番近い気もするので、敢えてここに混ぜてみた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:マイ・バック・ページ
    配給:アスミック・エース
   公開日:2011年5月28日
    監督:山下敦弘
   出演者:妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、中村蒼、他
 公式サイト:http://mbp-movie.com/
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