男の甘えと、女のワガママ。映画「ブルーバレンタイン」 | 忍之閻魔帳

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「ブラック・スワン」が大ヒットしている中、
今回は敢えて「ブルーバレンタイン」を取り上げてみたい。
ある夫婦の出会いから別離までを描いたドラマで
出演は「ラースと、その彼女」のライアン・ゴズリングと
「ブロークバック・マウンテン」のミシェル・ウィリアムズ。
本作が長編映画2作目というデレク・シアンフランスは
ドキュメンタリー出身だけあり、人間の描き方に嘘がない。
いずれオスカー像を手にするのではと思わせる期待の新鋭だ。



映画の冒頭、子煩悩ながら甲斐性のない夫を尻目に、
生活を支えなければならない妻が苛ついた態度で身支度をしている。
朝から酒を呷り、運転すらしない夫は
夫婦仲が冷えてきていることに勘付いてはいて、
安ホテルを予約して何とか関係修復を図るのだが、
妻が求めているのはそういうことではなく・・・。

些細な出来事が積み重なり、破裂寸前まで膨れ上がった女性の心理状態というものを
男にはなかなか理解できない。「いったい何が不満なんだ」と声を荒げる男は、
その「何」(不満の正体)さえはっきりすれば解決すると思っているのだろうが
「ココ」と言えないからこそ、問題の根は深いのだ。
この映画が異様にリアルなのは、暴力や浮気といった決定的な理由が無いにも関わらず
二人の仲がもう修復不可能にまで達しようとしていること。
幸せ一杯だった過去の記憶を暖色系で、冷えきった現在を寒色系の色使いで描くことで、
過去はますます甘美なものとなり、現在はますます耐え難いものに映る。
妻の我慢が限界に近づく一方で、夫は自滅としか言い用のない選択ばかりをし、
観ているこちらは「あーあーあー」と溜め息をつくばかりである。

両親の不仲が子に植え付けたトラウマもあったろうが
13歳に初体験を済ませ、在学中に妊娠してしまうまでに
性交渉をかわした相手の人数を「20人から25人」と言ってのけるシンディにとって、
出会った頃のディーンの優しさは、彼女が何よりも求めるものであったろう。
しかし、「優しいだけの男」の効力はそう長くは続かず、
金銭的、時間的に厳しい制約を強いられる結婚生活の中で少しずつ色褪せてゆく。
夫役と父親役の二足草鞋を「それなりに幸せ」と言い聞かせているディーンが
実は多才な人物であることをシンディは誰よりも知っていて、
愛する男をこんな男にしてしまったのは自分だという自責の念もあったかも知れない。

「愛してさえいれば何でも超えられる」と信じる若い二人が
一時の感情に任せて結婚してはみたものの、愛だけで乗り切るには人生はあまりにも長い。

健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、
富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか。


そう問われる瞬間がバラ色であればあるほど
「悲しみのとき」がいずれやってくることを、人は想像できない。
私には、シンディとディーンはまだやり直せるように見えた。
双方の心情は察するに余りあるが、それでも見切りをつけるのは早かったように思う。
相手に不満や怒りを感じるのは、まだ愛情が残っている何よりの証だからだ。
その堪え性の無さも含めて、まだ若い二人の決断と言えばそうなのだが、
花火と歓声を背に去ってゆくディーンの後ろ姿と、
エンドロールで流れる写真の数々にやるせなくなった。

恋愛ドラマと言っても決して楽しい作品ではないし
映画的な「美しい別れ」を見せてくれるわけでもない。
わざわざ金を払って離婚する男女のいざこざを見せられても・・・と思う方にはお勧めしない。
作品としてのクオリティは非常に高いので、映画好きにはお勧め。

余談。
本作でオスカーの主演女優賞にノミネートされたミシェル・ウィリアムズは
故ヒース・レジャーの元婚約者であり、彼との間に子供もいる。
婚約を破棄した翌年にヒースが亡くなってしまったことなどを考えると、
本作のシンディー役がやけにリアルだったことも、実体験からくる経験も
あったのではと邪推してしまったり。



■DVD:「ラースと、その彼女」

ライアン・ゴズリング主演作。
等身大のリアルドールを本物の彼女と思い込み、
生身の人間には拒絶反応を起こしてしまう困った青年の物語。
題材からして、彼の行動が周囲をドン引きさせる様を面白可笑しく描いた
コメディなのだろうと思っていたのだが、心温まるヒューマン・ドラマである。



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  タイトル:ブルーバレンタイン
    配給:クロックワークス
   公開日:2011年4月23日
    監督:デレク・シアンフランス
   出演者:ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ、他
 公式サイト:http://www.b-valentine.com/
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