プロテアの翼2

プロテアの翼2

作品(小説、エッセイ)や、本のレビューをUPしていきます。

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「ドテラを落とした時、

誰かが拾ったんだろうよ。あきらめることだな」

 

とめ吉がせせら笑った。

シズエの身体がわなわなと震えだした。

 

「みなさん、わたしは長屋の住人が下手人ではない

と結論づけました。実は、小判のありかもわかりました」

と言うと、米堀はどうだとばかりに胸を張った。

 

「あなたの話はさっぱりわからない。

いったい誰が下手人なんですか」

 

長屋の住人が下手人ではない、

という米堀の言葉に、金兵はほっとしたものの、

小判が見つからなければ、

シズエが奉行所に訴え出る可能性があった。

 

「さて、小判の行方ですが、一体どこにあるのでしょうか」

 

金兵の心配をよそに、米堀が話を続けた。

 

「シロの好物がいわしの干物であることは、

みなさんもよく知っていますね。

シロが、好物のいわしを埋めて隠すこともご存じですね。

小判には、シズエさんがいわしの干物を焼いたときの

匂いがたっぷりとついていたはずです。

さて、皆さん、これで下手人が誰かわかりましたね」

と言うと、米堀は周りを見渡した。

 

「シロが巾着をどこかに埋めた可能性に思いいたりました。

今朝、シロにいわしを与えたところ、

長屋の裏に走っていきました。そこで目撃したのは、」

 

米堀が再び、自信たっぷりにぐるっと一同を見渡した。

 

「じれっていな。

米堀のだんな、さっさと結論を言っちいまいなよ

と、とめ吉が我慢できずに催促した。

 

米堀はうんうんと首を振って、

「シロがいわしを埋めました。

それであたりを掘っくり返したら、これが出てきました」

 

米堀の両手が広げられ、巾着が現れた。

おお、と誰ともなくどよめきが起こった。

 

「わたしの巾着だ。返してよ」

 

シズエは満面の笑みで、巾着を受け取ろうとした。

 

「シズエさん,あなたはこの中に何両いれましたか。」

 

「15両よ」

 

再び、おお、歓声が上がった。

米堀が巾着を開けて、座敷に小判を広げた。

全部で10枚あった。

 

「シズエさん,はじめから15両はなかったんですよね。

実際は10両だったんじゃないですか」

 

「あら、そうだったかしら」

 

「最初から15両なんてなかったんですよ。

誰かを陥れようとしたんじゃないですか」

 

「シズエさん、まさか、私を陥れようとしていたんですか」

 

金兵が大声を上げた。

シズエはそっぽを向いて黙った。

 

「なんという人だ。

私の家に居候までして。実際は何両だったんですか」

 

「実際も何も、15両よ。でも・・・

もしかしたら、何両か途中で落としてしまったのかも」

 

「シズエさん,いい加減にしないと

この長屋から出て行ってもらいますよ。

結局誰も盗んじゃいなかったのではないですか」

 

「シロが・・・」

 

「シロは盗んだのではない。埋めただけのことだ」

 

藤齊が、顔を真っ赤にして、

シズエをにらみつけて、刀に手をかけた。

 

「でも5両足りないわよ」

 

「いい加減にしなさい。まだそんなことを言うなら、

今日にでも出て行ってもらいますぞ」

と、金兵は我を忘れて怒鳴った。

 

ひえーっ、とシズエは声を上げると、

「いえ、10両でした。元から10両ですとも。

みなさん、お騒がせしましたね。

今日は罪滅ぼしに私のおごりでお酒を飲んでくださいな」

と言うと、シズエは深々と頭を下げた。

 

「そうか、そうか、赦すとも。酒をおごってくれるじゃろう。

金兵さん、まあこの辺で話を終いにして、酒を飲もうか」

 

お膳がそろい、邦庵は待ちきれなくなっていた。

 

「それじゃ、お酒ですかな。清五郎さん」

 

清五郎は米堀の推理に全く興味がなく居眠りしていたが、

酒と聞いた途端、びくっと目を見開いた。

 

「『台の原ほまれ』を冷でもらおうか」

 

これを潮に宴会が始まった。

 

 

「米堀さん、いろいろとありがとうございました。

おかげで解決できました」

と言うと、金兵が深々と頭を下げた。

 

米堀は得意げに髪をかきむしりながら、

 「いえいえ、大家さん、私も楽しませてもらいましたよ。

もしかしたら探索の才能があるかと思ったりして」

と言って笑った。

 

「今度、同心の口がないか奉行所に訊いてみますよ。

それにしても見直しましたね」

 

金兵は、米堀に酒を注いだ。

 

「いやあー、埋もれた才能ですかね。ははは・・・」

と言うと、杯を一気に飲み干した途端、頭がぐらっときた。

 

「とめ吉さん,ちょっとお話が」

 

米堀はふらふらと立ち上がり、 

「厠で用を足しながら話しましょう」

 

2人は厠にむかった。

 

「とめ吉さん、シズエさんが、今まで見たことがないような

神妙な顔して座っていましたね」

 

「そりゃそうだ。シズエ婆さん、頭が相当混乱してるようだ。

火事の時、俺が小判をかき集めたことを、

すっかりと忘れていやがる。

さらに、おれに小判を預けたこともな」と囁いた。

 

「シズエさんが、神妙な顔をするのを初めて見ました

 

「因業婆あが、よく10両で納得したな。

本当はおれに12両預けたのによ。

巾着を返しに行く前に、15両盗られたと騒ぎ出しやがった。

おかげで12両を返すに返せなくなってしまった

 

「シズエさんにお話しを聞いたら、

あの夜のことをはっきり覚えていないようだったので、

シロが拾ったことにしました。

皆さん、すっかり信じましたね」

 

「シロが犯人とはな。おれには考えつかない。

ありがとよ、米堀の旦那」と言うと、1両手渡した。

 

 

・・・こうして人情長屋はつづいていくのであった。 

 

 

第四話終了です。皆さん、いかがでしたか。

しばらく間をおいて、五話をUPしますので、お楽しみに。

今朝、ブログの更新ができていないことに気づきました。

若干、間が空いてしまいましたが、第四話8回目をUPします。

最終話は、今夜UPする予定です。

 

 

「まあまあ、その話はまたあとでしましょう。

話をつづけます。

ところでも、とめ吉さんがシズエさんと話をはじめた時、

シズエさんは小判をどうしたましたか」

 

「巾着にしまいこんでドテラの袖に入れていたんだ。袖の中は」

 

袖を裏返すと、巾着を入れる袋が縫いつけられていた。

 

「ここに入れておけば、取られる心配がないからね」

 

「ばあさん、あんた、たんまり金を持ってんだろう。

いわしなんざ食べなくてもいいんだろうよ。

おれは、小判を見てねえよ。

いわしの匂いが充満して、えらく臭かったのを覚えているがな」

 

「シズエさんは間違いなく、

小判をドテラの袖にしまったのかどうかが鍵となります」

と米堀。

 

「間違いなくしまいこんだんだ。

あんたは火事のあと、景気がよかったようだね」

 

「ばあさん、おれだってたまにゃ、ツキが来ることもある。

博打で3両もうけたからよ、ばっと使っちまったのさ。

あんたなんかにわからねえだろうが」

 

シズエはとめ吉を見下したように、憎々しげな表情を浮かべ、

「金輪際わかろうとは思わない。

わたしの巾着を盗ったとなれば、あんた、首を刎ねられるよ」

 

「ばあさんの小判を盗るほど落ちぶれちゃいねえよ」

と言い、とめ吉はシズエの挑発に乗ろうとはしなかった。

 

「そうすると、長屋に巾着を置いていかなかったのですね」

 

「ええ」と言うと、シズエは再びとめ吉をにらんだ。

 

「これでとめ吉さんと、シズエさんの家の片付けをしていた

田吉さんが下手人ではないことがわかりました。

次に、大家さんと藤齋さんにお話を聞きました。

大家さんはシズエさんを背負っており、

シズエさんが混乱しているすきに、

ドテラから抜き出したかどうかですが、

大川を渡りきるまで一度も下ろされることはなかった

とシズエさんから聞きました。

両手がふさがっていて無理だし、大川を渡った直後に、

ドテラが脱げたことに気づいたそうですから、

大家さんも下手人ではないことになります。

そうすると、残るはドテラを拾った藤齋さんが

下手人である可能性が高くなりました」

 

「米堀殿、わたしが下手人だと言うのか」

と言うと、刀に手をかけたまま藤齋が立ち上がった。

 

「下手人の可能性があるのは

あなただけとなったを言っただけで、

下手人と断定したわけではありません。

落ち着いてください。まだ、話の続きがありますから」

 

「私が下手人でないと言うことか」

 

「とりあえず、座ってください。

お訊きしたいこともありますので」

 

「そんなに興奮しなさんな」

とまわりになだめられて、藤齋は首を捻りながら座った。

 

「ところで、ここのところ、

お内儀が内職をしていないようですが」

 

「それが、今回のことに何か関係あるのか」

 

「15両あれば内職は必要ありませんよね」

 

「なんと言うことを言う。貴殿も元は武士であろうが。

侮辱を受けては、何もなかったことには済まさぬぞ」

 

藤齋が立ち上がりかけたが、

まわりから腕が伸びて動けなくなった。

 

「曽祖父までは宮仕えでしたが、

酒がもとで主家を離れることになり、

父の代までは仕官の口を捜しました。

わたしは、とっくにあきらめています。

そろそろ刀を手放そうと思っているぐらいで」

 

「あなたがシロをかわいすぎるからよ」

 

藤齋の女房のはつが、憤然として言った。

藤齋の顔が見る見る真っ赤になった。

 

「米堀殿、はつはふてくされているだけだ。

暮らしは決して楽ではない」

 

藤齋は、はつを見ようとしなかった。

 

「シロはシズエさんのドテラを咥えて、

あなたのもとに戻ってきたんですね」

 

「そうだ。逃げる途中ではぐれてしまった。

それで長屋に引き返したのだ」

 

「わたしを置いてでしょう」

とはつが冷たく言い放った。

 

「悪かったとあやまっているではないか。

シロは家族の一員なのだ。

主であるわたしが探さなければならぬ」

 

「まあまあ、夫婦喧嘩をしている場合ではないですよ。

はつさん、あなたの夫は斬首の危機ですからね。

さて、あなたはシロを咥えてきたドテラがあまりの臭さで、

シズエさんのものだとわかったのに、

なぜすぐにシズエさんに返さなかったのですか」

 

「シロが咥えてきて舐めまわして汚してしまった。

シズエさんに文句を言われると思ったのだ。

とりあえず、洗ってから返えそうと思ったのだ。

もちろん、ドテラには巾着もなかったし、小判もなかったぞ」

 

「あなたも小判を盗っていないということですね。

皆様、これで事件は解決しました。

長屋の住人に下手人はいなかったということです」

 

「あんた、それではわたしの小判はどこなのよ」

 

(最終話に続く)

 

「みなさん,お集まりくださいましてありがとうございます」

 

金兵は、商いをしている居酒屋で、

長屋の住人を集めて昼食をとりながら、

今回のシズエの訴えの結果報告をすることにした。

 

米堀はいつにもまして髪の毛が乱れており、

昨夜の深酒の結果であろう、あくびを連発していた。

 

「米堀さん,あなた,いつまで飲んでいたのですか」

 

金兵は、きつい言い方になるのを止められなかった。

 

「いやあー、わかりません。気がついたらここで寝ていました」

 

昨夜は事件解決の前祝いと称して、

酒好きの住人らと酒を飲んだ。

そして、当然、つけでだ。

 

昨夜、米堀が事件を解明できたと自信満々に言ってきたため、

犯人が誰か聞いたら、長屋住人の前で明らかにする

と言って教えようとしなかった。

 

金兵としては、長屋の住人が下手人であれば

自分自身も連座して死刑になるため、教えるように迫った。

米堀は笑って心配ありませんよと言って取り合わず、

住人を集めるように金兵に言った。

 

金兵は米堀の様子で少し安心はしたが、

本当に大丈夫なのか、再度迫ったら、

住人の中に下手人はいないと断言した。

そして、小判は間違いなく、

シズエの手元に帰ることも約束した。

 

延焼免れたものの、長屋の住人が10日以上も

火事の後始末に追われており、

住人の慰安も兼ねて、金兵は昼食を振舞うことにした。

 

昨日は自信満々だった米堀だが、

今日は飲みすぎと寝不足で、

いつも以上にさえない顔をしている。

本当に大丈夫なのか心配になってきた。

 

「米堀の旦那、昨夜と言うより、

今朝まで世話になりやしたね。

大家さんよ、何とか解決できそうでよかったな」

 

とめ吉が、酒臭い息を金兵に吹きかけた。

金兵が辟易としているのも気付かない様子だ。

 

「いえいえ、それもこれも大家さんのおかげです」

 

「金兵さんよ、ご馳走になったのう。

やはり酒は一番良い薬だわい」

 

邦庵は酒といった瞬間に舌なめずりした。

 

「米堀さん、信吉さん、田吉様、それと清五郎さん、これを」

 

邦庵が薬を差し出した途端、全員一斉に後ずさった。

邦庵はにやっと笑った。

 

「わたしは金の亡者ではない。

飲みすぎによく効く薬だ。ただでよいですぞ」

と言って配ろうとしたが,手を出すものがいなかった。

 

「安心しなさい。飲んだあとに金を払えとは言わん」

と邦庵。

 

「でも、先生、この間は結局、

そんなうまい話があるかと、金をとったじゃねえか」 

と、とめ吉は警戒心を隠さずに言った。

 

「これはしたり。すまなかったなあー。

ただのつもりだったが、米堀さんが払うと言うもんだから。

ひとりだけ金をもらうのは申し訳ないので、

全員からいただくこととした。のお、女房殿」

と言って振り返った。

 

「皆様、いつも申し訳ございません。

米堀さんの志しを無にできませんので、

いただくこととしました」

 

ほほっと、喜色満面の女房に、一同、背筋が凍った。

 

邦庵は何事もなかったように、

あきらめ顔の一同に薬を配りだし、

女房ひとりが満足そうに眺めていた。

金兵は知らぬ顔で、座敷に集まった長屋の住人に言った。

 

「みなさん、いろいろとご苦労さまでした。

ようやく火事の後片付けも終わり、

普請の準備が整いつつあります。

本日を区切りとして、早く元の生活を取り戻せるよう、

これまでの労をねぎらい、昼間ではありますが、

一緒にお膳を囲むことにしました。

なお、酒は昼間ですから節度をもっていただければ」

と言い終わると苦い笑いが込み上げた。

無駄な話だと、昨夜深酒した面々を見てため息をついた。

 

「では,お膳を整える前に、

シズエさんから訴えのあった小判のありかについて、

これからここにいる米堀さんが解明しますので、

お聞きください」

 

米堀が立って一同を見回した。

 

「みなさん、シズエさんの小判を隠した下手人がわかりました」

 

おおーとざわめきが起こった。

 

「調べの経緯を話した後に、下手人の名前を言います。

まず、火事で半鐘が鳴った時、長屋のみなさんは食事の最中か、

後始末をしていた頃合いだったと思います。

わたしも素麺を食べてげっぷしていたところでした。

そして,鐘がなると同時にほとんどの人が外に出たと思います。

とめ吉さんの声が長屋中をかけめぐり、

火事が近くであることを知って取り合えず、

わたしもそうでしたが、

急ぎ大川の向こう岸に逃げるようと長屋を出ました。

このときシズエさんは遅い食事をとるべく、

魚を焼いたところでした」

 

「また,いわしであろう。シロが吠えておった」

と藤齋は言った。

 

「あなたの犬はわたしにほえたり、噛もうとする。

しつけができていないわね」

 

「シロはそんな犬ではない。

あなたがシロの好物のいわしばかり食べるから,

ドテラに匂いが沁み付いて、どこかにいわしがあると思うのだ」

 

「わたしが悪いとでも言うのですか」

シズエは洗い立てのドテラをぬごうとして、

まわりにとめられた。

 

 

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「シロがシズエさんのドテラをくわえて

藤齋さんにもってきた時に、小判を抜き取ったかもしれません

 

「藤齋さんがまさかそんなことをするわけがない。

あのまじめな堅物の・・・」

 

「下手人の可能性は、十分にありますよ。

15両ですからね。わたしだってほしい」

 

「すると、あなたは藤齋さんが犯人だと?」

 

「藤齋さんが最初にドテラを

手にしているのは間違いありません。

ドテラはドロだらけで、誰かが拾った形跡はありません。

ドテラから小判が入った巾着を抜き取ったのが、

藤齋さんである可能性は高いですね」

 

藤齋の生真面目で小心者だ。

金兵は、藤齋が他人の金を盗むような大それたことを

するとは思えなかった。

 

米堀は、首をひねっている金兵を見て、

「シズエさんの勘違いだった場合は、

相変わらずとめ吉さん、イチエさん、田吉さんがあやしい。

それと忘れてはならない大家さんだ」

 

金兵は、一体誰が下手人なのかわからなくなった。

 

「とにかく、早く下手人が誰なのかつきとめてください。

米堀さん、下手人がわかったとしても、

まずわたしに知らせてください。

いいですか、くれぐれもわたしにですぞ」

 

金兵は、長屋から下手人を出したくはなかった。

10両以上の窃盗は斬首刑だ。

しかも大家は連座制で裁かれる可能性があり、

内々に処理をしないと大変なことになる。

 

金兵は、シズエの訴えをお上に届けてはいなかった。

火事のごたごたの中、盗まれたものなのか、

落としたものなのか判然としないというのが表向きの理由だが、

実際は自分自身が連座して裁かれるため、

お上に届けず、内々に事を納めなければならなかった。

 

米堀に金を出したのも、シズエが奉行所に駆け込まないように

なるべく早く小判を見つけるためだった。

 

「それにはまず腹ごしらえですかねえ」

 

米堀は期待をもって金兵を見た。

 

「わかりました。早く店に行ってください」

 

「それじゃ、わたしはこれで」

 

米堀はよれよれの着物のまま、長屋を出て行った。

後ろ姿を見送りながら、ため息をついた。

 

早く解決しなければ。

シズエが騒ぎ出さないうちに。

 

 

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「いったい誰が下手人なんでしょうかねえ」

 

と言うと、米堀は、欠伸を繰り返した。

 

「あなたは今までなにをしてたんですか。

ごろごろしてばかりで」

 

金兵は気のない様子の米堀に声を荒げた。

 

米堀はがばっと起き上がると、

「なんということを言うんですか。

この10日間、休まずここ一帯の聞き込みをしたんですよ」

 

「だまらっしゃい。

あなたの聞き込みは、飲み屋で酒を飲むことですか」

 

「これは心外ですな。

わたしは飲めない酒を飲んで聞き込みしたんですよ。

おかげで金を使い果たして米を買えず、

腹が減って起き上がれないんです」

と言うが早いか、ぐうーと腹がなった。

 

―とほほ,ひもじいなぁ。

 

「あなたという人は・・・」

 

金兵はため息をつき、天を仰いだ。

米堀は金兵の内儀が切り盛りする店に毎夜いりびたり、

長屋住人を何人か引き連れて、大酒を飲んでいた。

 

挙句の果てに、聞き込みと称して金を払っていない。

他の店ではしご酒を飲んでいるとも聞いていた。

 

「今日こそ何とかしてください」

と内儀に責められ、家から押し出されるように出てきた。

 

「わたしは、あなたに、飲み代を出したわけじゃない。

今日からわたしの店は出入り禁止です」

 

「大家さん、もう一文も残っておりません。

腹が減って、減って・・・」

と言いながら起き上がり、腹をさすった。

 

「あなたに無駄飯を食べさせる余裕はありません。

調べたのなら、結果をきちんと報告してもらわないと」

 

だらしなくあくびをする米堀にあきれながらも、

支払った分の仕事の結果を聞かずにはいられなかった。

 

「大家さん、腹が減って何も考えられません」

 

金兵は黙ったまま米堀をにらみつけた。

 

「冗談ですよ、冗談。ちゃんと調べたんですよ」

米堀は愛想笑いをした。

 

「まずシズエさんに、

火事で家を出るまで何をしていたか聞いたんです。

その日の昼、家の中で魚を焼いていたそうです」

 

「家の中で魚を焼いたとは・・・

それこそ火事になるじゃないですか」

金兵がかっとなって怒鳴った。

 

「別にわたしがやったわけじゃないですから、

そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。

シズエさんは小判をどうしても見たかったと言ってましたよ。

それと焼いていたのはいわしの丸干しです」

途端、米堀の腹がぐうーとなった。

 

「いわしを焼きながら小判を見ていたとは・・・

まったくあきれた人だ」

 

「食欲がわくそうで。

小判がおかず代わりだと言っていました。

そんなに小判があったら、わたしだったら鯛の刺身ですがね」

 

「あなたには、いわしのおかしらが分相応です。

さっさと続きを話しなさい」

 

米堀はうらめしそうに金兵を見た。

 

「小判を巾着にしまいこんだ途端、半鐘が鳴りだして、

とめ吉が戸を蹴破って家に入ってきたそうです。

家を壊し始めたので、止めようしましたが、

逆にここから出ていけと怒鳴られて、

助けを求めて家を出たそうです。

直ぐ近くまで火が近づいているのを見て、腰がぬけてしまい、

あとのことは大家さんが一番わかっていると思います。

それと、とめ吉さんに巾着を見られたとも。

だから犯人はとめ吉だ、とわめいていましたね。

さらに大家さん、あなたもあやしいと言っていました。

背負われている間に、

ドテラの袖から抜き取られたと疑っていますよ」

 

米堀がさぐりを入れるように金兵を見た。

 

「わたしは、下手人を見つけるために、

あなたにお金までを渡しているのですぞ。

そのわたしを疑うのですか」

 

「シズエさんは、小判をドテラの袖に入れたそうです。

とすれば大家さんがあやしいことになる」

 

「あわてて逃げ出して、

長屋にそのまま置いてきたじゃないですか。

わたしはシズエさんを背負うので精一杯で、

小判を隠し持っているなんて全く気づきませんでしたよ」

 

自分に疑いがかかるとは思いもしなかった。

 

「まさか、大家さんをこれっぽちも疑っていませんよ。

ただ世間のうわさは、真実と関係なく広まりますからね。

わたしはこの10日間、うわさを否定するべく、

長屋のみなさんに、

大家さんがいかに人格者であるか話しをしたんですよ」

 

米堀は真剣な表情で金兵を見た。金兵は自分の不明を恥じた。

 

「米堀さん、さっきは全く失礼なことを言ってしまいました」

と言うと、懐からこの間と同様、米堀に一朱銀を2枚渡した。

 

米堀は満面の笑みで、

「いやあー、わかっていただければいいですよ。

わたしとしては、シズエさんがドテラの袖に入れたとしたら、

落とした時点で誰かに拾われたかのではないかと思っています。

それにドテラにいれたのではなく、長屋に置いたままで、

そのあとに誰かが瓦礫の中から持っていたかもしれません。

ここだけの話ですが、大屋さんに頼まれて、

長屋の片づけをしている田吉さんを疑っていまして」

 

米堀が頭を掻いた。

さっと、大量のふけが飛び散った。

金兵はすかさず後ずさりした。

 

 

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「シズエさんが小判を持っていることを、

長屋の誰かが知っていましたか」

と米堀が訊いた。

 

「ここの人たちに金があることがわかったら

何をしでかすかわからないから、誰にも教えていないよ」

 

「ばあさん、何て言い草だ。この中に泥棒がいるって言うのか」

 

信吉は真っ赤になって怒鳴った。

 

「そうさ。だから今まで知られないようにしていたんだ。

わたしの大事なお宝だからね」

 

「そんなにお金があるならわたしの薬を買ってくれんか。

あんたに効く薬がいっぱいあるんだがね」

 

シズエは邦庵に目を向け,

「先生、この間の腹くだしの薬は、

でんぷんをこねただけのものじゃないのかねえ。

全然効かなくて三日ほど寝込んでしまった。おかげでげっそり」

 

シズエが頬をさすると、

たっぷりと肉のついたあごが、ぶるぶると震えた。

 

「なに? そんなことはないぞ。

だったらもっと効く薬を分けてやるか? それも安くな」

 

邦庵が、袋から薬を取り出そうとした。

 

「顔を洗うのに、薬をもって歩いているんですか。朝から商売熱心ですね」

 

皮肉たっぷりに純造が言った。

それにしても今朝は朝からあきれることばかりだ。

 

「人助けは医者の使命だ。いつも皆の健康を心配しておるのよ」

と言って、おほんと咳払いをした。

 

「我々の懐具合を心配しているだけじゃねえんですかい」

と真助。

 

「なにを言うか、わたしは本当に」

と言いながら、袋から邦楽薬湯と手書きされた薬を取り出した。

 

「これは腹の差し込みに効くぞ。

シズエさん、新薬じゃ。安くしとくぞい」

 

「いい加減にしておくれ。あんたの薬は金輪際買わないよ。

だいいち誰かに盗まれて今はお金がなくて買えない」

と言うと、とめ吉を睨みつけた。

 

「てめえ,おれをうたがっているのかよ」

とめ吉がとうとう怒り出した。

 

「みなさん、お取り込み中のところすいませんが、

わたしの質問覚えてますか」と米堀。

 

「何でい,ばあさんが金を持ってたってか。

そんなの知っているやつはいねえよ」

 

「とめ吉よ、実は拙者、シズエ殿が小判に

頬ずりしているのを見たことがある」

 

田吉秀左衛門が、汗を拭いながら言った。

しばらく前から火事場の片付けの仕事をしている。

金兵に頼まれて、早朝からシズエの家の片づけをしていた。

 

「いつ見たのよ」

 

「誰もみていないと思ったんだろうが、

夕餉の時間に、たまたまあんたの家の前を通った、

魚の焼いたにおいにつられて、ついな。

家の戸が少し開いておって、もう外は暗かったし、

提灯をもっていなかったから、

覗いてもばれないだろうと思ってな。

小判を一枚一枚卓袱台に並べて、

うっとりしているのを見たのだ」

 

田吉はその時の光景を思い出して、身体を震わせた。

汗がすっとひいた。

シズエは田吉に何か言いかけたが、すぐに口を閉じた。

あさましい姿を見られてしまった。

文句を言いたかったが、なんと言っていいかわからなかった。

 

「シズエさん、実はわたしも、

田吉様と全く同じものを見たことがある」

と裕蔵が言った。

そこから次々と長屋の住人が口々に言い始めた。

 

「なんでい、ばあさんが小判をもっているのを

知らなかったのはおれだけか」

 

「あんたも知っていたんだろうよ」

 

ようやく、シズエが口を開いた。

全員知っているのなら開き直るしかなかった。

 

「あんたが小判に目を奪われている姿を見たよ」

 

邦庵は、邦楽薬湯をシズエに、

金はあとで良いと言いながら手渡した。

あとで良いのなら、とシズエはしぶしぶ受け取った。

 

「シズエさんが小判をもっていたのは事実のようですね」

 

米堀は、腕を組んで考えた。

もっとも有力な下手人の候補のとめ吉は、

シズエが小判を持っていることを唯一知らなかった。

これが事実だとすると、いったいだれが犯人なのだろう。

 

「みなさん、これからわたしが

シズエさんの小判の行方を調査します。

わたしはみなさんの中に下手人がいるとは思っていませんので」

 

米堀はいつものように、八方美人的発言で締め括った。

 

「火事の片づけは、田吉様の指図に従うようにしてください。

それでは、半刻後に集まってくれますかね」

と清五郎が言うと、住人が井戸端から離れた。

 

 

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ふああああ・・・

 

米堀があくびをして、ぽりぽりと頭をかいていた。

 

「米堀さん、店賃を大分貯めいてるようですが」

と金兵が言うと、あくびをかみ殺した。

 

「大家さん、なかなか良い仕事がなくて」

 

「先日も口入れ屋に紹介してあげたじゃないですか」

 

米堀はまた頭を掻くと、

 

「力仕事の口はあったんですが、

重いものを持つのは苦手でして」と言い、再び頭を掻いた。

 

金兵は呆れつつ、

「あなたは仮にも武士ではありませんか。

もっとしっかりしてもらわないと」と、諭すように言った。

 

「金兵さん、この人を心配してもしかたないの。

ぐうたらで、いい若いもんがほとんど働かないで。

いつ見ても寝転がってあくびをしているか、

鼻毛を抜いているだけですからね」

 

シズエが、米堀をホロ糞にけなした。

 

「なんと・・・」

 

米堀は言い換えそうとしたが、言葉が出なかった。

図星だったからだ。

おそらくシズエのことだから、

暇つぶしに家の中をのぞいているにちがいなかった。

 

「家にいる時は誰でもゆっくり休んでいるじゃないですか。

わたしだってたまには働いていますよ」

と言ったが、すぐに後悔することになった。

 

「やっぱりね。あんた、ほとんど働いていないじゃないの」

 

シズエが蔑むように言った。

米堀はあわてて何か言おうとしたが、

長屋の住人の冷たい視線が、

身体の至るところに突き刺さってきた。

 

「まぁ、そういうことだから、

あなたがシズエさんのお話を良く聞いて、

小判を探してあげてください」

 

「でも,わたしも忙しいんですがね」

 

今度は頭をかきむしって、

シズエを見ないように装って、横目で見た。

 

「では今すぐ溜まっていた店賃を払ってもらいますか」

 

「そんなぁー、焼け出されたばかりで、

そんな余裕はありません」

 

-とほほ、なんで私がこんなことをしなくちゃならないのか。

 

米堀がため息をつくと、

金兵もまたためいきをついて、一朱銀二枚を取り出した。

 

「探索で仕事ができないのでしょうから、当面これで」

 

途端、米堀が顔をほころばせて、

「おお、これはどうも」と手を差し出した。

 

金兵は、米堀をきっと睨み付けると、

「頼みましたよ」と言い、振り返ってシズエに言った。

 

「あとのことは米堀さんに頼みました。

わたしは、これから町名主さんのところへ行ってきますので」

と言うと、金兵は忙しい、忙しいととぼやきながら歩き去った。

 

「早く犯人を捜してよ」

 

シズエはとめ吉をにらみつけながら言ったが、

米堀はひさしぶりの大金、一朱銀をしみじみとながめていた。

 

「米堀さん、お金を眺めて

ニタニタしているのはみっともないじゃないですか」

 

イチエは米堀をたしなめたが、

イチエの話を聞いていないのか、まだ眺めていた。

ぼさぼさの頭は風に吹かれて、さらにふくれあがっていった。

 

「しょうがねえな。何も聞いちゃいねえよ」

 

信吉もあきれ顔で言った。

ようやく,米堀が顔を上げた。

非難の目にさらされていることに、ようやく気づいた。

 

「大家さんからご指名ですので、皆さん、ご協力お願いします」

と言って、米堀は頭を下げた。

 

「米堀のだんな,おれは犯人じゃないぜ。

第一ばあさんが小判を持っていたのかよ」

 

「わたしはねえ、

あんたのようなその日暮らしの貧乏人じゃないんだよ」

と言い、シズエは胸をそらして、

 

「15両、15両だよ」と言うと、

井戸端に集まっている住人を見渡した。

またかという、あきれ声と、おおという、驚きの声が交錯した。

 

「シズエさん、いつそんな大金をためたんだね」

 

世話人代表の清五郎が聞いた。

金兵が留守の場合、長屋を任されている。

 

「それは言えないよ。

あんたがたに、わたしのことを話す気はないよ。

とにかくわたしは15両持っていたんだ」

 

シズエが長屋に来たのが4年前。

米や野菜等の貸し借りに応じないため、

誰も行き来していないが、頻繁に着飾って出かける。

溜め込んだものがあることはうわさになっていた。

 

 

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「それにしても、とめ吉、ずいぶん無茶したもんだな」

 

信吉はすすだらけの顔を洗いながら言った。

 

「心配していてたんだぞ」

 

清五郎は、火事が収まった祝いだと、

昨夜、邦庵と深酒をしたため、頭が痛いらしく

頭をこんこんとたたいた。

とめ吉を心配していたとは、到底思えなかった。

 

「信吉、肩の具合はどうだ」

 

邦庵が目をしょしょぼさせて歩いてきた。

 

「先生、おかげでこの調子でさぁ」

 

信吉は肩をぐるぐると回した。

うっかりものの信吉は、

あわてふためいて逃げ出し、転んで肩が外れて唸っていた。

たまたま、邦庵が通りかかり、えいっとばかりに治したのだ。

 

邦庵は、そうかそうかと首をふり、

「治療費が500文では安いか」

と言うと、にやっと笑って手を差し出した。

 

「先生、昨夜の今日で、もう取り立てかい。ひでえな」

 

「信吉さん,なんてことを言うの。

昨夜、先生がお代は取らないと言ったでしょう。

ちゃんとお礼を言わなきゃいけないわよ」

 

シズエが声を荒げて、信吉を睨み付けた。

 

「おお、こわっ。手習いの師匠が、

そんな目でならにらむんじゃねえよ」

 

「邦庵先生の親切心を踏みにじるようなことを言うからよ」

と言うと、再び信吉を睨んだ。

 

「まあまあ、そんなことで喧嘩しなさんな。

とにかく痛みがないようで、よかったな」

 

「おかげさんで。シズエさん、すまねえ。

気が動転して、余計なことを言ってしまった」

と言うと、ぺこっと頭を下げた。

 

-そんなこと言ったかなぁ。

 

邦庵は清五郎を見た。

清五郎は首を傾げてたっきり、何も言わなかった。

 

「本当にすまねえ、助かったぜ」

 

信吉がもう一度頭を下げた。

 

「むむ。そうか。そうだったかなぁ」

 

酒を飲みすぎたせいか、

昨夜のことが思い出せず、頭を振ったあと、ため息をついた。

 

―全く、覚えておらん。・・・・まあ、いいか。

 

「昨夜は大変だったな。それじゃあ家に戻るぜ」

と言うと,とめ吉は長屋に戻りかけた。

 

「泥棒、わたしの15両を返してくおくれ」

 

金兵の家から出てきたシズエが、とめ吉を指差して叫んだ。

昨日の火事で,とめ吉に家を取り壊されてしまい、

家の普請の間、金兵の家に居候することになった。

 

「何だとぉ、ばばあ、気でも狂ったのか」

 

留吉は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「昨日の火事で、最後まで長屋にいたのはあんただ。

あんたしかわたしの小判を盗めないじゃないか」

 

「ばか言え。この貧乏長屋に小判があるのは大家ぐらいだ。

なんせ大家のおかみさんは、

小料理屋でたんまりもうけてやがるからな」

 

「これこれ、余計なことを言うものではありません。

だったら、まとめてつけを払ってもらいますかね」

 

「あちゃ、これはどうも・・・」

 

ひたいわぽんと叩くと、とめ吉が舌を出した。

とめ吉は金兵の内儀が営む居酒屋の常連で、

大分つけを貯めこんでいた。

 

「ばあさん,とうとう惚けちまったのか」

 

「惚けただなんて、わたしを誰だと思っているの。わたしは」

 

シズエが話しだすのを手で制すると、

「てめえは、ただのクソばばあじゃねえのか。

昨夜だって、腰をぬかしやがって、

大家に背負われてなければ、今頃あの世だろうよ」

 

「ふん、助けてくれって、頼んじゃいないよ。

金兵さん,大家として責任をもって犯人をさがしておくれ」

と憎まれ口を言うと、シズエはとめ吉をにらんだ。

 

金兵はまたかとため息をつくと、

 

「火事の後始末でここしばらく忙しいんですよ。

早く家の普請を決めなければならないし、それに」

 

金兵はシズエに手を焼いていた。

いつまでも居候されたのではかなわない。

あれをやれ、これがおかしいと、

居候の癖に我がもの顔で振舞っている。

たった一晩しか経っていないが、

早く出て行ってもらわないと、気が狂いそうだ。

 

「誰か,シズエさんの話を聞いて、

小判を探してくれる人はいませんか」

 

近くにいた長屋の住人を見まわした途端、全員下を向いたが、

とめ吉だけがシズエを睨みつけていた。

 

 

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このところ更新が滞っていましたが、

ようやく「人情長屋」第四話のめどがつきましたので、

一話がだんだん長くなって恐縮していますが、

本日より、9回にわけて「火事の始末」UPしていきます。
 

 

 

江戸時代は火事に遭っても、

立ち直りの早い逞しい人々の時代であった。

火事のあとの瓦礫の山の片付けを生業とするものもいて、

「江戸の華」と呼ばれた火事に立ち向っていく時代でもあった。

人々は焼け野原で嘆きつつ、

寄り添い助け合って日々の暮らしを立てていた。

 

 

「シロ,そんな汚いものは捨て置け」

 

藤齋健衛門(とうさい けんえもん)は、

ドテラをシロの口から引き剥がした。

散々嘗め回した挙句、火事場で引きずりまわしたために,

ドテラは、元の色がわからなくなるほど汚れていた。

 

シロは藤さ飼い主にしかられ、

くぅーんと泣くと尻尾を丸めて、藤齋の足元に擦り寄った。

 

「いいんだ。おまえが悪いわけじゃない。

こんなきたないものを落とすやつが悪いのだ」

 

藤齋はシロの頭を撫で、好物のいわしの干物を与えた。

シロは素早くかぶりつくと、走り出し、長屋の裏手に消えた。

 

「あなたさまは・・・」

 

金兵はあきれて、次の言葉がでてこなかった。

周りの目が全く入らない様子で、

「シロ,シロ」と言いながら、藤齋は満面の笑みを浮かべた。

 

長屋の住人が井戸端に集まってきて、藤齋を囲むと、 

 

「藤齋様、そのドテラはシズエ婆さんのものではないですか」

と言うと米堀は大口を開けて欠伸をした。

 

信吉はドテラをつまみ上げた。

 

「婆さんのものに間違いねぇな」

 

「シズエ殿のものなのか。これはやっかいなことになったな。

米堀殿、あとのことはよしなに頼む」

と言うと、藤齋は「シロ、シロ」と言いながら歩き去った。

 

「藤齋様、待ってください」

 

米堀は藤齋を追い、あっと言う間に長屋から消えた。

 

「相変わらず逃げ足が速い野郎だぜ」

 

とめ吉はあきれ返って、思わずため息をついた。

 

「とめ吉さん,昨日はありがとうございました。

長屋と私まで助けてくださるとは、

なんとお礼を言っていいかわかりません」

 

金兵は深々と頭を下げた。

 

「どうした風の吹きまわしだ。

あんたが頭を下げるなんて、気色が悪いぜ。

何かあるんじゃねえだろうな」

 

「滅相もない。わたしは心から感謝しているんです」

 

「そうか、それなら」と言うと、両手を差し出した。

 

「なんでしょう」と金兵。

とめ吉の汚い手の意味がわからなかった。

 

「わからねえのか」

 

とめ吉は指でまるを作って、にやっと笑った。

金兵はようやく、金をよこせと言っていることに気づいた。 

 

「あんたって人は・・」

 

金兵はとめ吉をまじまじと見た。

イチエの非難の目に気付くと,とめ吉は手を引っ込めた。

 

 

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「何とか生き残ったぜ」

 

すすだらけの真っ黒な顔のとめ吉が何も持たずに立っていた。

イチエはその場に座り込んだ。

自分のせいで死んでしまったと思っていた。

 

「ユミちゃんは?」

 

イチエは、とめ吉にすがりつくようにして聞いた。

ユミが何事もなかったように、とめ吉の背中から現れ、

にっこりと笑った。

 

「はい、おねぇちゃん」

 

と言って差し出したのは手習い本だった。

驚きのために言葉がでなかった。

 

―本が・・・

 

「約束どおり全部持ってきた。」

 

とめ吉は、イチエに風呂敷包みを渡した。

 

「ユミが風呂敷を持ってきてくれたおかげで、

何とか持ってこれた。

でもなあ、ユミ、二度と火事場に戻ってきちゃなんねぇぞ」

 

そう言うと、とめ吉はユミの頭を撫で回して、

 

「ありがとよ」

 

懐から真っ黒になったアメをユミに渡した。

あきらめていた手習い本が手元にもどってきた。

とめ吉に深々とおじぎして、

 

「ありがとうございました」

と、腰を深く折った。

 

「いいってことよ。それじゃ、顔を洗ってくるぜ」

と言うと、ユとめ吉は、ユミを連れて土手を降りて行った。

 

「どなたか具合の悪い人はいませんかな」

 

医者の妻井邦庵が提灯をかざして、長屋の住人に声をかけた。

 

「ヤブよお、肩が痛くて死にそうなんだ」

 

信吉が大声をはり上げた。

火事場のどこかで、肩を強く打っていた。

邦庵は信吉の腕をつかむと,

ええいという掛け声とともに、ぐきっと音がなった。

 

「いててて・・・ なにすんだ。・・・おや、痛みが」

 

信吉がそっと肩をまわしてみたが、痛みが消えていた。

 

「先生、おかげで痛みがうそのように消えた。礼を言うぜ」

 

邦庵はこほんと咳をすると、

「礼はいい。ほれ」と言い、右手を差し出した。

 

「まさか治療代よこせって言うんじゃないだろうな」

 

「そのまさかじゃ。火事場から逃げ出したばかりだから、

500文に負けとこう。さぁ」

 

邦庵は左手も差し出した。

吉はあっけにとられ、

 

「ごうつくのヤブが」

 

先生から再びヤブに降格した邦庵をにらんだ。

 

「まあ,今日は手ぶらだろうから待っててやる。

明日もってくればよい」

 

と言うと,次の患者を探し始めた。

 

「良い薬があるぞ」

 

「そんなに高くないから心配するな。分割払いでもよいぞ」

 

「先生、こっちこっち」

 

暗闇の中から、元杜氏の清五郎の声が聞こえた。

いつの間にか調達してきた徳利を持って、

おいでおいで、をしている。

 

「清五郎、その酒は?」

 

清五郎がわからないのかという顔して、

 

「なんでもいい。さあさあ」

 

清五郎はござにひとり座れるだけの場所を空け、

杯に酒を注いで差し出した。

 

邦庵は一気にあおると、

「やはり酒はいいねえ」と言って、にやっと笑った。

 

「先生の薬よりよっぽど効くんじゃないか」

 

「なにを言う」

 

「まあまあ、もう一杯」

 

清五郎は杯になみなみと酒を注ぐと、

邦庵はぐいっと、盃を飲み干した。

 

-・・・薬より効くかも。

 

 

暗闇の川面に灯りをあてた。

イチエは、川面にうかぶ手も顔も真っ黒な顔の自分を見た。

一筋の涙が流れ、そして微笑んだ。

 

-これで生きていける。

 

 

・・・こうして人情長屋はつづいていくのであった。   

 

 

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