いじめについて。



昔、小学四年生の時、転校して来た女の子がいた。初めは皆仲良くしていたんだけれど、やがて遠巻きにするようになった。なぜかというと、その子には他人の持ち物を盗んだり、嘘をつく癖があったから。
その子を『少女A』とします。

クラスメートが少女Aを自宅に招いた。その他数人で遊んでいたんだけど、部屋にあったヌイグルミが何故か消えてしまったんだそう。私はその場にいなかったから詳しいことは知らないんだけど、でも皆は快く探そうと言ってくれた。探し始めたら、ある女の子が少女Aのかばんから消えたヌイグルミを見つけた。何かの拍子で入ってしまったのか?でも少女Aは「これは私のもの」と主張した。女の子の部屋から消えたのと同じヌイグルミをかばんに入れているなんて出来過ぎている。女の子は「私のやろ」と言ったが、少女Aは自分の物だと言い張った。少女Aは“自分のヌイグルミ”を持って帰った。

また違う日、ヌイグルミを失った女の子がまたあるものを失くした。えんぴつのキャップ。キャップの先にはかわいいキャラクターの形をした小さな消しゴムが入っている、いわゆるファンシー文具。
それからも何故か文房具がころころ消えていく。そして少女Aのふでばこには失くしたのと同じ文房具が増えていく。ある女の子がそれに気づいて、文房具を失くした女の子に報告した。女の子が直接「それ私のじゃないん?」と聞いたそうだが、少女Aは「これは私の」と言い張った。

クラスメートは少女Aとあんまり遊ばなくなった。証拠はないけれど、でも少女Aが盗んだんじゃないかと思っていた。クラスメートは「盗んだんやろ」と糾弾しなかったけれど、少女Aと遊ばなかったら物は消えないわけだから、遊ばないようにした。

女の子が少女Aと遊ばなくなると、少女Aは男の子と遊ぶようになった。少女Aは愛知からの転校生だったから「愛知に彼氏がいる。彼氏は読者モデルをやっていて地元では有名」と言って、こっちで恋愛やらはしないと明言していたのだが、女の子と遊べなくなると男の子にすり寄るようになった。ある女好きの男の子が少女Aにすり寄られてまんざらでもない感じになっていた。で、その男の子とデートした。小学生だから、公園とかに行ったらしい。でその後男の子の家に行った。

次の日、少女Aは一部の女の子に、「昨日家に連れ込まれて乱暴をされそうになった」と話した。「嫌だと言ったら、服をはさみで切られた」「だから服をピン留で留めて帰った」なんて言った。
本当だったらそりゃあひどい話だけど、そんなの嘘だって分かる。小学四年生が強姦しようとした?それもあの気のいい男の子が?皆気分の悪い顔をしていた。少女Aが可哀想って訳じゃなくて、あんまりえげつない嘘をつくから。

そんなこんなで皆少女Aと遊ばなくなった。もう皆、少女Aはドロボウだと思っていたし、嘘つきだと思っていた。地元にモデルの彼氏がいるっていうのも嘘だろうと思っていたし、さらには「今一緒に住んでいる家族は本当の家族じゃない。だから私は家で冷たくされている」なんて嘘をついていたけど、でも強姦未遂の狂言よりは可愛げがあった。ある日リストバンドをしてきて「この下にはリストカットの跡がある」と言ったこともあった。いやあ、普通にキレイな手首見たことあるんだけどね。

それで五年になって私は少女Aと違うクラスになった。
そしたら隣のクラスで少女Aがいじめられていると聞いた。隣のクラスの友人に話を聞くと、クラスメートに冷たくされる、ひどいことを言われると少女Aは先生に相談したんだそう。で、少女Aが名前を挙げた子たちは先生に呼び出されて一方的に叱りつけられた。
小学生は当然反発した。「嘘つき!」って言ったとしても本当のことを言ってるだけだし、今までひどい事をしてたんだから自業自得じゃないか。ますます隣のクラスの子たちは少女Aにつめたく当たったし、もっと明確な悪口を言っていたかもしれない。でそれをまた少女Aが先生に報告する、クラスメートは反発する、それの繰り返し。

少女Aはきっと先生に「大丈夫?」と気を使われるのを嬉しがっていた。悲劇のヒロインぶりたかった。普段自分をいじめてる子たちが泣きながら教室に帰ってくるのを楽しんでいた。でも段々それが激化していって、隣のクラスは学級崩壊して授業が出来なくなった。少女Aは教室に近づかなくなった。私の友人は少女Aにいじめっ子として先生に報告されて、説教されて泣いていた。しかし難しい事に私の友人は、悪い子ではなかったけれどなんでもよく出来る子というか、頑張れる子で「目立ちたがり」の称号を貰っていて、クラスメートと少し距離があったから満足に慰められたりはしなくて目に見えて沈んでいた。同情的には見られていたんだけど。

クラス替えは二年に一回だったからそのまま六年生になって、少女Aも授業に出てくるようになって、表立ったいじめは無くなって、卒業して中学生になった。で、中学で夏休みの課題に「私の主張」っていうのが出た。地球温暖化とか、何かについて主張文を書く課題。
私は中1でも少女Aと同じクラスにならなかったんだけど、少女Aが学年集会で作文を読む事になった。聞いてびっくり。「私は小学生の頃虐められていました。……」えー?それ書くの?中学って言っても、私の、少女Aの小学校から持ち上がってる生徒が多いのに。むしろ地域で一番大きな小学校だったから持ち上がってる生徒が一番多いのに、えー?そんな事書いちゃうの?「私は小学生の頃いわれもないイジメを受けていました。いじめられて、教室に入れなくなりました。入ろうとすると足が震えて、涙が出てくるのです……」みたいな事を壇上で読んでいた。私は彼女の発表が終わってから、微妙な顔をしている友人に「すごいなー」と皮肉って苦々しく笑いかけた。すると友人は「私もあいつに、先生に嘘 言いつけられて、次の日教室入れへんくなったわ」。いっそ「昔クラスにこんな女の子がいた」なんて反論文を書けばよかった。今してるんだけど。
それから元同じ小学校の生徒がなんとなく集まって「あれはないよなー」と苦笑い。なんとなく集まったんだけど、“なんとなく腑に落ちない”から集まったに違いなかった。自分のした事を棚に上げて、よくいけしゃあしゃあと言えるなあ。怒る気力はない。だって3年間彼女の嘘に振り回されていたんだから、「……またやってる」って感じ。呆れたし関わりたくないし喋りたくない。
少女A、性格は変わってなかったから違う小学校から来た生徒にも嫌われたり距離を取られたりしてた。今回の暴露作文をきっかけに彼女のしてきた事はあかるみになってボッチになってしまった。彼女の友達は部活動の後輩だけ。彼女のしてきた事を知らない子たちだけ。

彼女は“いじめられてた”って言うけど、本当にいじめられてたのか?私は「本人がいじめられてると思ったらいじめ」という今の社会の認識にのっとって今までの文章では全て「イジメ」と表記してきた。私は少女Aが“いじめられてた”と認識している時期クラスメートではなかったから、いわれのないようないじめを仮に受けていたとしても知らない。だから本当に“いじめられてた”のかもしれない。
いわれのないいじめはいけない。「こいつは過去に悪い事をしたから」と正当化していたならそんなのは理由になってない。過去を理由に、いわれのないいじめを受けていたのなら彼女は“元いじめられっ子”だ。
だけど、嘘をついて「嘘つき!」と罵られるのはいじめか。嘘をついて、尚且つクラスメートの男の子を強姦未遂犯にして傷つけて「最低」と言われる事がいじめか。そんな嘘をつく少女Aに関わりたくなくなったのはいじめか。さも被害者でしかないという顔で周囲を苛立たせて、それを注意した私の友人を“いじめッ子”として先生に言いつけて泣かせて、お前の方がいじめっ子だと私は思っていた。私は彼女に「どうしようもないな、お前」とはっきり彼女を蔑んで言ってやったことがあるけど、届いていないだろうなと思う。

本当に長かったけれど(まだ続くんだけど)、こんな事を考えたのは彼女の作文を見つけたから。中学生の頃の作文ではなくて、高校生の時に書いたものらしい。友人がたまたまネットで見つけたらしくて読んでみたらやっぱり「小学生の頃いじめられていて……」っていう内容。これを読んだ人のなかで私の友人はいじめっ子になるんだろうなあと思った。私は彼女を明確に罵った訳だけどどうせ記憶にないだろうから、彼女のなかで私はいじめっ子ですらないと思う。でもあったらどうぞいじめっ子にしてくれという感じ、どうぞ何度でも思い出して自分を見つめてみたらどうだい?という感じ。

今思ってるのはそう、彼女は完全な“被害者”になりやがった。窃盗犯なのに。証拠不十分だろうけどさ。名誉毀損なんてしてるのに。男の子をひとり女性不信にしたり、性にまだうとかった私にひどく生々しいトラウマを植え付けたりしたのにさ(私の事はいいんだが)。

私は彼女は、所謂“被害者”ではないと言いたい。元々彼女はいわれがあっていじめられていたんだ。いわれのないイジメもあったかもしれない、あった可能性の方が高い、でも、所謂理由なく理不尽に不合理にイジメられてたばっかりじゃない。はっきり言っちゃうけど、今までイジメと表記していたものの中にはイジメですらないものもある。当たり前の因果応報と自業自得があっただけ。それに都合のいいフィルターをかけちゃって自分からイジメを誘発して、悲劇のヒロインぶって小学校中学校の教師の同情集めて、今だってネット記事から彼女への同情が集まってる。これからだって事あるごとに「私は小学生の頃虐められていましたが……」って同情を引く演説をするだろう。その度に私の友人は“いじめっ子”になる。胸くそが悪い。

当時のクラスメートは確かに悪い。イジメじゃなかったものをイジメにした。そのイジメを「いい気味だ」と楽しんだ奴もいるだろう。糾弾されるべきだ。
だけど彼女は純然たる“被害者”ではない。やる事はやってる。イジメではないものをイジメにしてしまった原因の一端すら彼女にあると思う。それを彼女に「お前が悪い」と言うのは酷だろうけど、だからってクラスメートだって窃盗したり名誉毀損したりしなければイジメたりなんてしなかっただろう。

誰が悪いの? みんな悪いんだ。みんな被害者で加害者だ。私だって彼女を罵ったし陰口を言った。「ほんま、いい加減にしろって話やな」「まあそういう人間なんやろ、しゃーないわ」。

私は完全に彼女を侮蔑している。だけど彼女を貶めるために情報操作はしていない。
で、ね。『「いじめられる方にも原因がある」なんて嘘っぱち』っていうのが今の常識だと思うけど、こういうケースもある。これはレアケースだと思うんだけど、今回のケースは、みんな悪い。しかし状況を知らない人に少女Aが色々吹聴してる分、彼女の方がタチが悪い。って話。

イジメについての話を聞くといつもこれを思い出すのです。自分で読み返しても元いじめっ子が言い訳をしているような雰囲気があるんだけど、





だけどさ、これって本当に所謂“イジメ”だったの?