東国風景(後編)
きっかけはそう、些細なことだった。
神聖巫連盟の隣国からたまたま遊びに来ていたボロマという赤褌一丁の男。
一目見た時点で間違いなく変態な上、人に褌の着用を求めてくるという気合いの入りっぷりだったが、なぜか鈴藤と意気投合し、同じ卓をはさんで話に花を咲かせていた。
すでに夜もふけ、お互い酒が入ってぐでんぐでんになっていた頃である。まともな判断力もなく、わけのわからんことを口走っていた。
そのまま何事もなく終わればよかったのだが、世の中にはわけもなくトラブルが発生することがままある。
この夜、居心地がいいからといってつい長居などしなければ。
あるいはもう少し飲む量が増えて酔い潰れてさえいれば。
そのどちらにも当てはまらなかったのはもはや不運だったとしか言いようがない。
こうしてあの時のことを思い返してみても、なぜあんなことを言ってしまったのか、鈴藤はボロマに対してこう言ってしまったのだ。
「俺と勝負してもし買ったら、焼き肉1億わんわん分食べさせてやるよ~」
たしか内容は酒の飲み比べだったはずだ。
勝負はおおいに盛り上がり、なんやかんやとあったのだが、負けてしまった鈴藤をまわりが囃し立て
「もちろん男に二言はねぇ、焼き肉1億わんわん分!きっちり揃えてやろうじゃぁねぇかっ!」
握り拳で宣言し、大演説をぶち上げながら誓約書を(メモ帳にボールペンでだが)書き上げてしまった。
そうして、彼の肉探しの旅が始まったのだった。
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肉探しの描写はあまりにも非人道的となったため、中略とさせていただきます。
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「うわ、すごい……」
「すごいだろう。もっと言っていい」
道端に山のように積まれた大量の生肉を前にして、二人の男がそれを見上げていた。
一人はあいもかわらず赤褌のみのボロマ。
目の前の光景がまだ信じられず、目をゴシゴシと擦っては見上げ直すということを繰り返している。
もう一人は誇らしげに胸を張る鈴藤だった。
八方手を尽くして、どうにか肉を集めたのだった。
「それじゃあ、とりあえず食べられるだけ」
そう言って屋台で使うような、明らかに家庭用ではありないサイズの鉄板を引っ張り出してくるボロマ。
さらに、これまたどう見ても業務用の電熱器まで持ち出し、先程の鉄板を乗せる。
ガチン、と電熱器のスイッチを入れる。
ニクロム線がゆっくりと赤くなり、鉄板に膨大な熱量を伝えている。
どこから取り出したのか、左手に通常の倍はあろうかという長さの菜箸を、右手には使い込まれた朱塗りの箸を持ち、両手を大きく広げるボロマ。
その姿はさながら翼を広げた大鷲のようにも見える。
十分に鉄板に熱が伝わったところで、彼は高らかにこう宣言した。
い た だ き ま す !!
瞬間、両手の箸を器用にあやつって、目にも留まらぬ早さで肉を焼き始める。
鉄板の上が埋めつくされたところで、間髪入れずにいい焼き加減のものからどんどん裏返していく。
肉の焼き加減をすべて把握しているのだろうか。焼きすぎて焦がす気配は微塵もなく、完璧なタイミングですべての肉を胃におさめていった。
ボロマの動きはさらにその速度を上げ、ついには箸の捌きはおろか、腕のこなしすら見えなくなってきた。
アイドレス的に表現するのならば、評価値30はありそうな勢いであった。
「まさか、食べきるなんてことはないよな」
鈴藤、山と積まれた肉が減ってきたように見えるのは、あえて無視した。
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10分後
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「はい、ごちそーさまでした」
「ウソ、だろ……」
ボロマへと目を向けると、後ろに山と積まれていたはずの大量の肉がキレイサッパリなくなっていた。
まさか、全部食ったのか。
あの大量の(怪獣の)肉を。
驚きで声もでない鈴藤に、ボロマはニヤリと笑いながらこう言った。
「さて、次はデザートをいただこうかな。新鮮な果物を1億わんわん分くらい」
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はい、そんなわけで随分と遅くなりましたが、ボロマさんへ1億わんわん分の焼き肉(を食べてるSS)をお届けします。
そしてボロマさんには大飯喰らい設定が(勝手に)追加されました。