精華ちゃん応援団 結成 | 詩歌藩国 広報部(偽)

精華ちゃん応援団 結成

「必要になったら呼びますから、しばらくそこで見ていてください」


I=Dの整備手伝いとしてやってきた二人組にたいしてそう言いながら、森 精華はトレードマークの青いバンダナを頭に巻いて、よし、と気合を入れる。
はーい、と元気に手まで上げて返事をする二人。あふれんばかりの笑顔で、喜びを表している。


一人は青く染め上げられた銃士服をゆったりと着こなす犬士の男。優しげな目をした細身の青年だ。
もう一人はかっちりとした軍服に身を包む小柄な少女。
子供の頃から野山を駆けていた彼女は、北国の生まれにしては日に焼けていて、明るい肌の色が真っ白な軍服によく映えた。
背丈は青年よりも頭ひとつ分小さいものの外側にハネたくせ毛が見るものに活動的な印象を与えている。
青年の名は鈴藤 瑞樹。少女の名を駒地真子といった。
どちらも森 精華のファンであり、今回は藩王と摂政の企み、もとい粋なはからいで本来ならば森 精華ひとりで行なわれる予定だった整備作業を手伝う、という名目でここまでやってきたのだった。
たった二人ではたいして役にはたたないし、駒地にいたっては整備士ですらなかったが、そんなことは関係なかった。
二人にとって、ただ彼女と同じ時間を過ごせるということが何にもまさる喜びだったのだ。


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「これでよし、と」
三機目の整備を終え、ハッチから顔を上げて一息つく。
触ってみてわかったのは、形こそ人型をしているが士魂号とはまったく違う制御機構をしているということ。むしろ通常の戦車の仕様に近い。
専門とは違ったが、それでも特に問題なく作業をこなしていく。なぜだか、この国に来てからこと整備に関しては調子がいい。


ふと横を見るとさっきの二人がごそごそと何かやっていてた。よく見るとさっきとは服装が違う。
なぜかどちらも額にハチマキを巻いて、詰め襟、それもずいぶんと丈の長い俗にいう長ランと呼ばれる変形学生服を身につけていた。


「フレー、フレー、もーりーさーん!」


威勢のいい掛け声とともに自身の身長の倍はあろうかという巨大な応援旗を振り始める鈴藤。
純白の旗に、黒々とした楷書で『森さんLOVE』と書かれていた。となりで黄色いポンポンを持った駒地が一生懸命に踊っている。
飛んだり跳ねたり、くるくると動く様子はまるで小動物のように可愛らしい。
見ていると自然に笑みがこぼれてくるような何かがあった。
心底うれしそうな二人をよそに、困っていたのは応援されている当の本人、森 精華であった。
この国に来てからずいぶんと時が経ち、詩歌藩国にも、そして藩国民にもだいぶ慣れ親しんできたつもりではあったが もともと人付き合いが苦手なうえ、義弟からの小学生並に稚拙な愛情表現しか受けたことのない彼女は好意を素直に向けられることに慣れていなかった。
だが自分のことを好いてくれているのは知っているので、やめてほしいとも言えなかった。
おかげで顔を真っ赤にして、落ち着かない気分のまま作業を続けるはめになってしまった。他に誰も見ていないのが、唯一の救いである。


 そんな彼女を見てついに我慢のしきれなくなった鈴藤が叫び、走り出す。
「お、お持ち帰りぃ~☆」
 駒地、巨大なハリセンを取出し鈴藤の後頭部めがけて思い切り振り下ろす。
すぱーん、と小気味良い快音が整備工場に響き渡る。
「裏切り者。抜け駆けしないってさっき決めたばかりでしょう」
うつ伏せのままぴくぴくと震えている鈴藤を見下ろしながら、頬を膨らませた駒地が言う。
そこでふとある事実に気がついた。


森+駒地+鈴藤-鈴藤=二人きり=チャーンス 


あわてて頬に手を当てる。興奮で熱くなっているのがわかる。よそから見れば、それはもう真っ赤になっているに違いない。
一生に一度のチャンスかもしれなかった。一分迷って、覚悟を決める。
「せいかちゃーん!なんか手伝うことなーいー?」 
うれしさと恥ずかしさでついつい大声になってしまうのを自覚しつつ、愛しの彼女へ向かってまっすぐに走っていった。


 一人取り残された鈴藤、最後の力を振り絞りなんとか起き上がろうとして
「デスペナ有りなんて、聞いてなかったぜ……ぐふっ」
今度こそ動かなくなった。