ISUの収入源など | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

ツイッターでフォロワーさんが「ISUの収支報告とかどんな感じなんだろ」と呟いていたのがきっかけで、ISUサイトで公表されている財務諸表等を初めて覗いてみたらなかなか面白かったので自分用にちょっとまとめてみます。ゆるいまとめなので、経理関係の専門用語は誤用があるやもですが、ご容赦を。あと細かい数字は切り上げたり下げたりして把握しやすいようにしています。1フラン単位で細かい数字は実際のバランスシートや収支表を参照してください。

 

バランスシートを読み解く中で、度々ISUの総則やコミュニケーション文書にも立ち返ったりしていたので時間はかかりましたが、好奇心はまあ満たされたという感じです。幸いISUの財務関係はスイススタンダードなので、自分的には見慣れた感じで理解しやすかったです(ドイツ語か英語かの違いはありましたが)。

 

で、ISUの収入源は何か。これは2018年では金額順に並べると、

 

「ISUイベントのテレビ放映権料(約1700万スイスフラン(以下フラン)、約18億6000万円(円換算は以下略しますが、フラン額にゼロを二つ足してちょっと色つけると円←アバウト)」

「IOCからの五輪分配金(約1100万フラン)」

「ISUイベントの広告料(約686万フラン)」

「資産運用からの利子収入(約332万フラン)」

 

となります。

 

2018年では、と書きましたがISU総則の財源の項(p.16)にも以下のように明文化されているので毎年これがデフォなのでしょう。  

 

3. Financial Resources

The main financial resources of the ISU emanate from incomes from TV rights and sponsorship fees related to ISU Events, contributions from the International Olympic Committee (IOC) for the ISU’s participation in the Olympic Winter Games and interest income earned from the ISU’s financial assets.

 

 

なお、IOCからの五輪分配金ですが、IOCは五輪の観客動員数やメディア露出などを考慮して各競技団体をランク付け、それに従って傾斜配分しています。ロンドン五輪で最高ランク評価となった国際陸上連盟は、この分配金が4700万ドルでした。平昌五輪後、ISUが受け取ることになったのは総額約4400万フランなので、スケート競技も同じく最高ランク評価だったのでしょう(ドルとフランは大体同じ←アバウト)。2018年に収益として計上された1100万フランですが、これは、この総額の4分の1です。次の五輪までの4年間、1年ごとに分割算入されるんですね。これは18年の予算に組まれていた額よりも約200万フラン多く、平昌五輪の想定以上の成功を物語っているようです(ソチ後は総額約3600万フランと低かった)。

 

ちなみにISUに加盟している各国連盟(ISUメンバー)がISUに支払う年間会費(subscription)ってどれだけか知ってました?なんと、たったの300フランなんです(総則のp101参照)。この項目は雑収入に含まれています(雑収入の総額は約65万フラン)。一方、ISUメンバーに対するISUの補助金はISUディべロップメントプログラムという項目で総額約290万フランあるという関係になっています。日本のスケ連はGPFを開催した平成29年(2017年)には、約1200万円を特別事業費の項目中、ISU補助金として受け取っています。ただし、別途ISUからの補助金としては以下の数字もあり、これらと特別事業費の関連はよくわかりませぬが残高がゼロなので算入されていないのかな、となんとなく。とにかくこれだけの金額がISUからISUイベント開催国に支給されるってことで(単位:円)。

 

ISU補助金(国際大会参加補助)14’609’760

NHK杯補助金13’584’000 賞金19’800’000

GPF名古屋 33’109’500 賞金48’070’000

 

さて、IOC分配金というISUの一大収入源が増えた一方で、別のメイン収入源である広告料(スポンサー契約料)の686万フランというのは、実は13年1300万フランのほぼ5割減と、大苦戦しています。これについてISUの18年アニュアルリポートでは、次のように述べられています。

 

「冬季五輪競技連盟であるISUは、そのイベントが世界規模で報道され、TV放映権料やスポンサー契約料といった形で収益を得るという恩恵を受けている。放映権契約に関しては、収益や締結済みの契約から今後2〜3年は安定した状況が続くとみられる。一方でスポンサー契約の締結を取り巻く状況は、主に市場競争の激化のため、厳しさを増している。スピードスケートの冠スポンサーに関しては、現在のところ従来通りの条件での更新は実現しておらず、ショートトラックの主力市場である中国と韓国ではスポンサーシップ契約を守ることができなかった。これは、両国のISUメンバーが、様々な理由から18/19シーズンのISUショートトラックイベントを開催できなかったことに起因する」

 

そして同じくアニュアルリポートの総括で、今後の展望として、次のように述べられています。

 

「2022年総会までの短期的展望としては、16〜18年の収益が予想を上回ったことから、19〜22年にかけては増える一方の活動ニーズに対応するためのマイナス予算を正当化できる。しかし、22年以降は、剰余金からの補填という手段によらず現在の支出レベルを保とうとするならば、収益をアップしなければならない」

 

なお、その収益力アップのためには、やはり大口スポンサーの獲得や現存スポンサーの満足度を維持・向上させることを第一と考えているようです。その他、デジタルコンテンツの拡大やファンエンゲージメントの向上で、より若いオーディエンスの獲得を目指しているらしいのですが、この点に関しては、変におもねった表面的な戦略よりも、無料ストリーミングの普及や、テレビ局の権利関係による動画ブロックの緩和、そして何よりもチケットを若者にも入手しやすい範囲に抑えることが重要なのではないでしょうかね。スポーツイベントのチケットのプライシングは今や世界的に市場原理に基づいた商品として設定されるようなので(ダフ屋の原則と同じ・汗)、人気選手出場が見込まれる試合が高騰するのは仕方ないとするしかなさそうですが…。

 

そして収益に対する支出関係ですが、これも金額順に並べます。

 

「ISUチャンピオンシップとISUイベント等への補助金(約1400万フラン)」

「ISUチャンピオンシップとISUイベント等の賞金(約440万フラン)」

「ISUディベロップメントプログラム(約770万フラン)」

「その他事業費(約950万フラン)」

 

結果的に2018年の収支の差は、事業費の赤字約3600万フランを資産運用利益の3300万フランその他で補って最終的に赤字を23万フランに抑えています。これは色々想定外の偶然に左右される部分が大きいのですが、当初予算がマイナス593万フランだったそうなので大リカバリーですね。

 

以上、駆け足かつ超表面的に、経理万年初心者がISU収支報告を見てきましたが、冒頭のフォロワーさんの問いは、そもそも「「フィギュアのジャッジはボランティアだから仕方ない」ってのを見る度、毎年支払われてるであろう相当な放映権料とかフィギュアに還元されてるんだろうか?」という疑問から発生したもの。これに関しては、ディベロップメントプログラムという項目の下のジャッジ教育の充実という分野で投資されているのでしょうが、競技別には分類されていないのでどれだけの額がフィギュアに流れているかは結局不明。もちろんフィギュアにも還元されているはずです。それが十分かどうかは別問題として…。

 

ちなみに、ISUからグローバルセミナーの様子が動画としてつべにアップされましたよね。まだ全部は見ていませんが、これまでもジャッジセミナーなどで言われていたことが単に一般にも見える形で公表されただけなんじゃないかしら、と思っています…ので、今後ガラッとジャッジングの質が向上することはあまり期待していませーん。