予想最低気温-10℃。

でも晴れ。
路面はドライ。

いける。


バイク解禁。

アクセルを開くと足元から響くエンジン音。

聞きなれてたはずなのに、細かな金属音も新鮮。

Vツインが唸る。


思い出した。

何故バイクに魅了され続けるのか。


遥か上空で編隊を組む渡り鳥の向こうに、澄み渡った残雪の岩手山。

肌は千切れるほど冷たいのに、溶けだした土の濡れた薫りが届く。

五感を刺激する。

この瞬間を、刹那を、否応なしに突きつけられる。

体を倒せばバイクも曲がる。

どこまででも行ける尽きない予感。


相棒、愛してる。
かじかんで痛む指先から目をそらし、ごわごわしたカバーをまくりあげると、
久方振りの相棒が、夕日を受けて輝いていた。

尻の形で形状記憶されたシートに跨がると、長く乗っていなかった違和感など吹き飛ぶ。

エンジンは少し寝ぼけていた模様。

ちょっとほっときすぎちゃったな。


安定してきたところで氷のようなハンドルを握りアクセルを開いてみた。

腹の下から、Vツインの振動が。

の、野太い…!

ステレオで聞こえる相棒の力強い鼓動。

ふかす。ふかす。近所迷惑なんて何のその。
何度もふかす。

かっ………こいい…!

こんなにカッコいいものに乗っていたんだ!
こんなにカッコよかったんだ!

走りたい!遠くへ…!


バイクが好きという名札は常に着けていたけど、実感が遠くなっていた。

余裕も無く冬を耐えてる。

春、バイクのエンジンをかけると毎年覚醒する。

私はバイク乗りで、旅人です。

それは確かな自己認識。
独立を思い立つにあたり、ネガティブな要素も多分に含んでいたけど、
舵を切るきっかけになったことは前向きな事だった。

個人的に受けたフルで制作したサイトの評判の良さ。

いけるか?

現状、不安と不満がはち切れそうだった。
それに背を向ける形になることに迷った。

逃げか?

逃げる気持ちで決めたらきっとまた逃げる。


冷静ではない頭でグルグル考えて、半々かなと。

まあ、及第点でしょう。

あまり満足してるとそっちに舵切れないし。


まず、やってみます。
にっちもさっちも行かないですねぇ。

ええ、全て自分のせいです。

逃げてました。

四六時中逃げて、回りのせいにしてました。


ほんとはずっと思ってた。

自分で舵を切りたいって。


でも船長になるには、あれもこれもまだまだー!っつって、修行ーっつって、人の沸かした湯でヌクヌクふやけてました。

そこで愚痴ってました。

湯があちーだのぬりーだの。

自分は薪をくべることもせずにね。

それがいかに愚かなのか知ってたはずなのにやっちまったねぇ。

やっちまい過ぎて、首まわんねぇから見上げたところにあったんだよね。

「独立」が。

あ。と思うよね。

でもやっぱ怖いなー怖いなーとキョロキョロしようとしたけど、やっぱ首まわんねーの。

余所見不可。

バケツから溢れるほどの言い訳だってもう役に立たない。

逃げ回った先が、逃げ続けてた所だなんて皮肉すぎて苦笑いしかない。


前向きなだけじゃなくて、後ろ向きに選択肢を潰した結果行き着いた。

だからこそ、もう逃げない。 
始まったね。

終わりの始まりかもね。

ふはは!

前向きになれないなら、後ろ歩きすれば良いさ。

方向は一緒さ!