「おもかげ復元師」 笹原留似子 | 瞬間(とき)の栞 

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幸せ、癒し、心の栄養になる「本と言葉」をご紹介してゆきます。
個人的な読書感想文、読書随想です。本の内容、あらすじができるだけ解るように努めています。
ただしネタバレがありますので充分ご注意ください!


泣くことが、大事。

泣けることが、必要です。

そのために、復元があるのです。











「おもかげ復元師」 笹原留似子











納棺師という職業。






亡くなられた人を見送る現場で、故人を安らかな
表情にお戻しし、お身体を清らかにして仏衣を
ととのえ、棺にお納めする。





僕は、映画の「おくりびと」で、この職業を名前だけ
知ったのですが、この本を読み終わったあと、
笹原さんの仕事の凄さ・尊さ・優しさに、なんどもなんども 
「ありがとう」とつぶやいていました。





僕は、自分の亡くなったおばあちゃんの
最後の顔を覚えています。





亡くなったおじさんや、おばさんの
最後の顔を忘れられません。





大切な人との最後のお別れ、
最後に見た顔は
ずっと、ずっと、まぶたの奥深く、心のいちばん
奥底から、何十年経っても鮮明に甦ってきます。






もしも、最後のお別れに


苦しそうな顔をしていたら・・・・・・


顔色が悪かったら・・・・・・


身体がゆがんでいたら・・・・・・


臭いがきつかったら・・・・・・






故人のことを想い出すたびに、その最後の
顔が、脳裏に浮かぶことになるでしょう。





それは、苦しい想い出になると思います。





笹原留似子さんは、故人と過ごしたかけがえ
のない日々を良い想い出にするために、一番
良い顔を記憶してもらうために、生前の姿に
近い状態に戻そうと、日々努力されています。





人は死ぬと、時間とともに変化してゆきます。





たとえば、口が大きく開いてしまっている。

顔が土色になってきた。

目が閉じなくなってしまった。

表情がなんだかくるしそうだ・・・・・・。







笹原さんが切ないのは、そのような状態のときに
故人のそばに、誰もいなくなってしまうことなんだ
そうです。







それが







実際、姿がどんどん戻っていくと、ご家族は本当に
驚かれます。





「寝ているみたいだ」などという声が必ず上がります。






笹原さんは、変えるのではなく、戻すと語っています。





復元なんですね。





僕が驚いた、笹原さんの大きなこだわりが・・・・・・







微笑みを戻す







ことなんです。





わたしは表情筋の研究をくり返すことで、笑いじわを
たどりながら処置をして、生前の微笑みに近いお顔に
戻すことができるようになりました。





故人が、安らかな笑みを浮かべていたら、生きている
我々の気持ちが、どれだけ救われるでしょう。





それほど、最後の別れの表情は、残された人を幸せに
するか、不幸にするかを分けてしまうものだと、この本を
読んで感じました。





笹原さんは、大切な人の死と向き合えるために
「参加型納棺」を、自分の会社を立ち上げたときに
考え出しました。





ご家族に見守っていただくのではなく、ご要望を
お聞きしながら、一緒に納棺を行うという「参加型
納棺」です。




たとえば、清拭をお手伝いいただく。死化粧をお子さん
やお孫さんと一緒に行う。仏衣を一緒にととのえる。




どうしてこのような方法が思い浮かんだのかといえば、
このほうが、ご家族が大切な人との死と向き合える
から。



かけがえのない人の死を、自分自身から起こる感情
のなかで人生の大切な出来事として受け容れる
ことができるようになると考えたからです。














3.11


東日本大震災


未曾有の自然災害。










笹原さんは、岩手で被災されます。





電気もなく、テレビも映らなかったわたしたちには、
このときまだ、東日本大震災で何が起きたのか
まったくわかりませんでした。






その後、テレビの映像を見た笹原さんは、
次のように語っています。





衝撃的でした。



宮城県の平野を津波がどんどん駆け上がっていく。



小さく映っている車が今にも飲みこまれそうです。



わたしは目を背けました。これは子どもには見せられない。








そして・・・・・・






以前から、笹原さんと活動を共にしていた
僧侶であり、特別養護老人ホームで働く
太田宣承さんと、津波で大きな被害に
あった沿岸部の被災地に入ります。





僧侶として何かできることはないか?と
太田宣承さんは、考えました。





その結果、
太田宣承さんは、被災地のお参りへ。
笹原さんは、復元ボランティアの活動を
行うのです。





犠牲になった人の安置所となった体育館を
歩いていると、ある「なきがら」に釘づけに
なった笹原さん。





それは、小さな小さな、なきがらでした。





三歳くらいの女の子でした。「身元不明」と
書かれています。




死後変化が始まっていました。皮膚の一部が
薄い緑色に変わっています。津波にのまれた
のでしょう。





顔に少し陥没があり、たくさんの細かな傷が
ありました。身体全体に膨らみも出てきて
いました。





真っ先にこみ上げてきたのは、この思いでした。




「戻してあげたい」




車の中には処置をするための道具がありました。






今までの経験において、なきがらの状態で、
ご家族の気持ちが、大きく変わることを
知っていた笹原さんは、葛藤します。




身元不明のなきがらに触れることは、法律で
禁じられているのです。




笹原さんは、警察の方にお願いしてみましたが、
首を横に振るのでした。





技術的にはできたし、道具もありました。





笹原さんは、苦しみます。





辛くて、切なくて、涙が出てきます。




安置所を離れてから、はげしく後悔したそうです。





それから





はじめての、津波被害者の納棺の依頼
がありました。





17歳の高校生の女の子。




ご家族は、身体のチェックもされていない。
相当なショックを受けていると笹原さんは
感じました。





お顔は損傷が激しく、変色も始まっていました。
ご両親はどれほどつらかったでしょう。直視は
できなかったろうと思います。





長い髪には、砂がたくさん入りこみ、藻のような
ものもいっぱい付着していました。




津波の凄さは、遺体にもかなりの衝撃を
あたえたようです。





髪を何度も何度も洗います。お湯は使えません。
腐敗が進むからです。




口の中にも砂がたくさん
入っていました。





「お父さんも、お母さんも、待っているからね。
おばあちゃんもいるよ。一人じゃないよ。
淋しくないからね」





笹原さんは、そう話かけながら、2時間かけて
復元したのでした。





ご家族を呼びました。目を閉じて微笑む娘さん。
かわいかった。




真っ先に入ってきたお母さんは、大声で名前を
呼んで、なきがらにすがりました。




ずっと無言だったお父さんは、肩を震わせて、
娘さんの顔をじっと眺めていました。






ようやく振りしぼるようにして、お父さんは
娘に声をかけます。





「守ってやれなくて、すまん」





お父さんの目から、大粒の涙がこぼれれ落ちました。





笹原さんは、こう語っています。






泣くことが、大事。



泣けることが、必要です。



そのために、復元があるのです。






家族みんなが娘さんに、声をかけ
はじめました。




おばあちゃんは、お孫さんの頭を
ずっといとおしそうになでています。




それから、笹原さんの方を振り向き





「本当に、本当にありがとうございます。

孫がようやく家に戻って来てくれました」






事故死や、自殺、死後長時間が経過すると
そのまま棺に入れられ、家族と対面すること
なく火葬されるそうなんです。




笹原さんの想いはひとつです。





絶対に最後にいいお別れをしてほしいから。





このあと、笹原さんは体力の限界、精神の
限界まで復元に取り組んでゆきます。




笹原さんは、わずか300人しか・・・と
書かれていましたが、僕は、よく300人も
あのすさまじい現場で、復元することが
できたと、この本を読んで思いました。




それほど、遺体の損傷がひどいのです。




復元に欠かすことのできない、ウィッグ
(人工の髪の毛)や、まつ毛もなくなり、
笹原さん自身の髪の毛を切って、使った
といいます。




おもかげが戻らないと、いいお別れができない
そうなんです。




「おもかげ復元師」




笹原さんは、命をかけて、「お別れ」の
瞬間(とき)を創ったのですね。




笹原さんの力となった、
唯一のものは・・・





ご家族の方に「ありがとう」と喜んでいただける
ことが、わたしのすべての原動力でした。

















明日で東日本大震災から4年目。





明日は、「おもかげ復元師の震災絵日記」 という
笹原さんのスケッチと、言葉を、ご紹介しながら
今日のこの本と震災について、辿ってゆきたい
と思います。





明日もまた読んでください。













【出典】

「おもかげ復元師」 笹原留似子 ポプラ社











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