黒田尚宏指揮 野田市民室内管弦楽団第14回定期演奏会 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2024年7月28日(日)14:00~

会場:野田ガスホール(野田市民会館)

指揮:黒田尚宏

演奏:野田市民室内管弦楽団

独奏:松永理恵子

曲目:

ドヴォルザーク:序曲「フス教徒」作品67

シューマン:ピアノ協奏曲イ長調作品54

ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調 作品88

感想:

 今回は野田市の市民オケを訪れてきた。

 レベルや曲目等にこだわらなければ毎週或いは毎日でもどこかでコンサートを見つけることが出来るのが日本の現状で、これは凄いというか裾野の広さを感じる。

 このオケは2009年に結成され毎年1回の定期公演の活動を続けている七夕オケである。

 年齢層的には幅広く、若者からかなり年配の方までいる印象だ。

 指揮者を務める黒田尚宏さんは、名前をどこかで見たなと思っていたら、以前聴いた吹奏楽団の常任指揮者となっており、このオケでも常任指揮者を務めるなどこの地域のアマチュアオケの常連指揮者のようでそれで記憶に残っていたようである。

本人は武蔵野音大でファゴットを学んでいたようだが、いつのころからか指揮者活動が主になっている模様だ。

 今回の会場は「野田ガスホール」と名前がついているが、野田市民会館のネーミングライツでの名称であり、年間160万円でこの名称の権利が買われたとのこと。

 1226席のワンスロープのプロセニ形式のホールで、ややステージの横幅が広い印象だ。

 

 1曲目はドヴォルザークの序曲「フス教徒」で、恥ずかしながら初めて知った曲である。

 調べたところによるとフスとは14世紀にカトリック教会の堕落を批判して処刑されてしまった人物で、その彼の意志を継いだ人々が自治政府を作っていくといった流れに人々が「フス教徒」であり、そういったチェコの源流の英雄への愛国的精神が詰まったのがこの曲である。

 そういった悲劇的な要素や戦いへの意志の強さなどが感じられる曲である。

 作曲者がアメリカへ渡る前の1883年に作曲され、名声を高めていった時期の曲であろう。

 

 演奏は木管群の安定したスタートともに、全体としてかなり整った演奏を展開する。

 もちろん、全体的な音の質としてそこまでレベルが高いわけではないが、大きな粗を見せない順調な曲運びであり、練習量の賜物なのか指揮者の力量なのか分からないが、しっかりと音楽が表現されていた印象。

 アマチュアオケが主戦場と見える指揮者の指導力によるところは大きいのかなと思う。

 

 2曲目はシューマンピアノ協奏曲

 録音では何度も聴いているが、ライブとなるとちょっと記憶がなく、かなり久しぶりである。

ソリストは地元の中学出身の松永理恵子さんで、東京音大卒でパリにて学んだ後に日本で活動を行っている方。

 ネットではそれほど目立った活動は見つけられなかったが、聖徳大学などで講師をしているようだ。

 強いアタックで演奏が始まると特に派手さはないが、ソリストの堅実な弾き方が非常に印象的だった。

 支えるオケ、、というかオケの方は協奏曲を弾くためにソリストにお願いしたようなスタンスに見え、しっかりとソリストについて行っているような雰囲気に見えた。

 オケ側の構成をよく見ると、ヴァイオリンは女性が圧倒的に多く、対向位置のヴィオラはほとんどが年配の男性という特徴的な配置となっていて、音的にはヴィオラが少し弱いような感想を持った。

 そういったオケを背にして、ソリストは教科書的とも言える演奏をしっかりと務めていた。

 第2楽章に入ると、やはりソリストの堅実な演奏がしっかりと響く、

 シューマンのコンチェルトは、技巧的にはそこまで難曲ではない印象だが、表現の面では高い能力を要求される曲であり、このソリストはしっかりと対応していた気がする。

 そのまま第3楽章に入ると、ソリストはテンポを少し抑えながらオケを引っ張っているような印象。

 もちろんオケ自体は指揮者が引っ張っているのだが、ソリストに寄りかかっている印象の方が強い。

 第1ヴァイオリンなど、個々のパートの音色が危なっかしくなる部分もないではなかったが、なんとか無事フィナーレを迎えることが出来た。

 アンコールとしてプーランクの即興曲第15番が演奏され、やはりしっかりとした技術に裏打ちされた演奏を楽しむことが出来た。

 

 後半はドヴォルザーク交響曲第8番

 作曲家自身がアメリカの音楽院に招かれる直前の曲でアメリカ的なメロディの影響を受ける前の作品ということが出来る。

 この曲も中国へ渡る前は何度も聴いていたが、録音も含めて久しく聴いていない。

 アマチュアのオケで良く取り上げられているので、チャンスはあったと思うが残念ながら優先度が低く、久しぶりになってしまった。

 さて懐かしいメロディで曲がスタートする。

 ホルンとトロンボーンの金管がフガフガとした音になっているのと、ヴァイオリンの音が不安定なので、全体としての音色はあまり綺麗にならない。

 またやはりヴィオラが弱いので、音色全体に厚みがない問い

 木管群は安定した演奏を続けていたと思うが、金管の大きな音の中に沈んでしまっていたとように思う。

 続く第2楽章のアダージョは、やはりヴィオラが弱く、バランスを少し崩していた印象。

 リズム的には踏ん張っていたと思うが、ティンパニと金管のバランスが取れていないのでドンフガ的な響きになってしまう。

 続く第3楽章のヴィヴァーチェは抒情的なメロディで有名だが、ここもヴィオラの弱さはやはり気になるものの、全体的には綺麗にはまったと思う。

 ホルンが若干浮き気味な印象はあったが、全体の出来から言えばそれほど気にならない。

 

 そのまま続けて第4楽章冒頭のトランペットが鳴り響くが、これはなかなか綺麗に決まる。

 ただ、その後のテンポの速い全奏の部分では少し全体が粗い響きになった印象で、曲の流れを強引に押し込んでしまっていたように聴こえた。

 変奏部では綺麗なバランスを取っていたが、フィナーレではやはり強引さの方が気になってしまう。

 まあ全体としてはしっかりとまとめられた演奏で、悪くない印象ではあった。

 聴衆の反応も温かく、結局第3楽章がアンコールされ演奏された。

 普段は特にアンコール曲が用意されていいようだが、確かにこの日のこの楽章は印象が良かったのでアンコールにはふさわしく本番よりリラックスしたかのような演奏を聴くことが出来た。

 さらに拍手が続いていたため、第4楽章のフィナーレの部分も追加で演奏されお開きとなった。

 まあアンコールというのは本来こういうものであり、無理に別の曲を用意する必要はないのである。

 彼らの音楽活動が今後も楽しく続くことを祈りたい。