毛糸玉
みぞおちのあたりにもつれた毛糸玉
赤い毛糸玉を持っている その子は
それは伸び縮みしながら
さまざまに赤く染まった糸
その端をもって生まれてきた
初めはただの糸くずだった
一緒に大きくなりやがて絡まり
玉結びや蝶々 次第に塩ビの人形や
剥げたシール タバコのフィルタなど巻き込み
解けぬ結び目が増えた クラス2のものも
練乳を計る 粘度や濃度
シリンダーの目盛りはかすれ
コマゴメのピペットは雫を留めぬ
舌には甘く 喉には苦く
複雑な毛玉はいまや胸の奥に食い込み
外そうにも自分の組織を持っていってしまう
だがその子は もうその子とも呼べないが
外した 白い壁の部屋で
毛玉は転がり解け赤い糸が走る
白い床の上を走る緋色の線が一筋
胸には深く大きなからっぽ
毛玉がなくなって動きやすいはずが
その子は微笑んで止まった
陶器の笑顔を浮かべて
手には糸のはじまりを持って