毛糸玉 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

毛糸玉

みぞおちのあたりにもつれた毛糸玉

赤い毛糸玉を持っている その子は

それは伸び縮みしながら

さまざまに赤く染まった糸

 

その端をもって生まれてきた

初めはただの糸くずだった

一緒に大きくなりやがて絡まり

玉結びや蝶々 次第に塩ビの人形や

剥げたシール タバコのフィルタなど巻き込み

解けぬ結び目が増えた クラス2のものも

 

練乳を計る 粘度や濃度

シリンダーの目盛りはかすれ

コマゴメのピペットは雫を留めぬ

舌には甘く 喉には苦く

 

複雑な毛玉はいまや胸の奥に食い込み

外そうにも自分の組織を持っていってしまう

だがその子は もうその子とも呼べないが

外した 白い壁の部屋で

 

毛玉は転がり解け赤い糸が走る

白い床の上を走る緋色の線が一筋

 

胸には深く大きなからっぽ

毛玉がなくなって動きやすいはずが

その子は微笑んで止まった

陶器の笑顔を浮かべて

手には糸のはじまりを持って