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なぜUFCは訴えられたのか?
アメリカの法律にはシャーマン法というのがあります。
このシャーマン法の第2条によると、市場を独占すること自体は違法ではないんですけど「独占の企て及び独占のための共謀を禁じている」ので、簡単に言えば、意図的に市場を独占し、その独占力を乱用すると違法になるということなんです。
アメリカの法律だと、市場の50%以上を占めていると、その企業が独占禁止法に抵触していないか?という調査の対象になるんですけど、まず今回のケースの原告側の根本的な主張は、2010年12月16日から2017年6月30日の間、UFCはアメリカのMMA市場の約90%を占めていた。
そして、UFCは市場での優位性を維持しつつ更にシェアを拡大させるためのスキーム(Scheme/企み)を遂行することにより「エリート・プロ・ミックスド・マーシャルアーツ・ファイターたち(以下「選手たち」)の試合をプロモートする市場におけるMONOPOLY POWER(独占力)を獲得」したのと同時に「選手たちのサービス求める市場でのMONOPSY POWER(買手独占力)を獲得」した、ということなんです。
ここで、少しだけ言葉の説明をしたいと思います。
「MONOPOLY」という単語を英和辞書で引くと、独占とか専売、専有と出てきますが、要は、市場にたった一人、または一つの企業の売り手しかいない状態を示します。
そして「MONOPOSY」とは買手独占、つまり市場に一人、または一つの企業しか買い手がいないことなんですけど、アメリカのクラスアクション上の定義だと「MONOPOLY/独占」とは「MARKETING POWER」のことを指しており、これを、英和辞書で引くと「市場での力」「営業力」とでますけど、要は「独占力」のことなんですね。
この「独占力」を獲得するためにUFCが行った、原告側の主張する前述の「スキーム」とはー
1)世界独占の長期契約とその規定事項により選手を縛る
例えば4試合・20カ月の世界独占契約をUFCと結んだら、4試合または20カ月経てばフリーエージェントとなれるのか?
必ずしもそうではないのが現実です。
契約の規定事項によると、怪我だろうが私的な理由だろうが、試合のオファーを断ったら契約期間が自動的に半年延長となりますし、契約が終わった時点でチャンピオンだったらチャンピオン規定により、更に契約期間も延び、試合数も追加されます。
2)不当な圧力をかけて再契約を迫る
UFC側の望む世界独占の複数試合契約書にサインしないと、タイトルマッチをすることができない。
さらには、UFCの望む契約書に合意しないと、大会の中でもいい位置でカードを組んでくれない。
(これは、当時だとスポンサー収入にも影響したし、UFC以外の団体と契約交渉する際にマイナス効果になり得るし、ズッファの意向に従わなかったペナルティと捉えることもできる、ということです)
これは少し掘り下げて説明するとこういうことです。
例えば、選手がUFCと4試合契約を結んだとします。
その選手が勝ち続けいい結果を残すと、当時のUFCは、契約最後の4試合目の前に、新たな複数試合契約のオファーを出してくることが多かったんです。
つまり現行の契約の最後の1試合はもうやめて、少しファイトマネーあげて条件もよくするから新しい複数試合契約にサインしてくれ、ということでして、これは、選手からしたら、契約最後の試合を終えてからフリーになって、他にどんな選択肢があるか市場で自分の価値を試してみる、ということができなくなります。
逆の見方をすれば、もしも契約最後の1試合負けちゃったら再契約できないかもしれないけど、新しい複数試合契約を結んでおけば、負けてもまだ次がある、ということでもあるんです。
どちらがいいかは選手とマネジメントの考え方次第だと私は思いますけど、原告側が問題視しているのは、もしもこの新しい複数契約を断って現行の契約の最後の1試合をやると決めた選手の試合が、大会の中でもプレリミナリーや、テレビ放送のない枠で組まれていたので、これがペナルティと捉えることができ、これが選手に「強制的に」契約を締結することを迫ったのと同じだというのが、原告側の主張なんです。
3)UFCの市場での独占性を脅やかす競合会社を買収し操業停止にした
日本のMMAファンなら忘れもしない2007年のPRIDE買収と、2011年ストライクフォースの買収が、この最たる例です。
アメリカ国内でもUFCは2006年にWFAを、そして2010年の10月にWECを買収し、結果的に、買収した全ての団体は操業停止となっている。
この買収、操業停止という戦略により、UFCは更に多くのトップ選手たちをUFCという一つの会社の世界独占契約下にまとめた。
これにより、UFC契約下の選手にとっては、他の選択肢が極端に少なくなったし、UFC契約下にいない選手たちからも、いい選手たちと対戦する機会をも奪った。
(このいい選手たちと対戦する機会をも奪った、に関しては、日本の団体も感じていることかと思います)
以上の三つの「スキーム」により、UFCは収益の20%以下しか選手たちに支払わないままで済ませ、現在に至っている。
俗に「BIG 4」と呼ばれているNBA、NFL、NHL、MLBは、収益の約50%を選手に支払っているし、同じ格闘技であるボクシングでは、プロモーターが手にする収益の60%から場合によっては70%が選手に支払われている。
そして原告側が雇った専門家の分析・計算によると、今回の訴訟の対象期間である2010年12月16日から2017年6月30日の間、UFCが選手たちにすでに支払ったファイトマネーに加え、更に約890億円から約1760億円を選手たちに支払うのが妥当である。
これぐらい払っても、UFCは銀行に泣きついたり投資家を募るみたいなことをする必要もなく、今の経費を削ることもなく、利益をあげ続けられるし、今までもそれだけの利益をあげてきているし、企業としても安定している。
めちゃくちゃ簡単に説明しちゃうと、市場を明らかに独占し、その独占力を使って自分の都合のいいファイトマネーしか選手たちに支払ってないのに、会社はガンガン儲かっているし、社長以下、みんないい給料もらって、経費もバシバシ使って立派な社屋や施設も建てている。
選手の名前や実績が売り上げに直結するのがプロ・スポーツ・ビジネスなんだから「BIG 4」と同じようにもっと選手に支払うべきだ!というのが原告側の主張となります。