東野圭吾の『放課後』、『卒業』は、真っ直ぐで生硬で、そして好ましい清々しさを湛えていた。そしてそれは団塊の終わりくらいの世代の、つまり自分と同じような時代を生きた人々の物語のように感じてもいた。

 

さて、『11文字の殺人』を手に取り読み始めると、「お、これは」。お洒落で洗練されている。東野圭吾作品の幅が広がったのか。肩の力が抜けてきた。などと余計なことを思ったりもしながら読み進めると、しみじみとした味わいというか、しっくりと馴染みある感覚がある。

 

 

11文字の殺人 新装版 東野圭吾

交際を始めて二カ月が経ったある日、彼が海で亡くなった。彼は生前、「誰かが命を狙っている」と漏らしていた。女流作家のあたしは、彼の自宅から大切な資料が盗まれたと気付き、彼が参加したクルーズ旅行のメンバーを調べる。しかし次々と人が殺されてしまう事態に!『無人島より殺意を込めて』――真犯人から届いたメッセージの意味とは!?昭和だから起きた怪事件!

 

 

読み終えた時点で何かを書き記す気にならなかったので、小説の冒頭部分に出てくる箇所を抜粋してみる。

 

「推理小説の魅力というのは何かな?」

「造りものの魅力じゃないかな」

「現実の事件は白黒をはっきりさせられない部分が多い。正と邪の境界が曖昧なんだ。だから問題提起にはなるけれど、しっくりとした結論は期待できない。常に何か大きなものの一部なわけだよ。その点小説は完成している。そのものがひとつの構築物だ。そして推理小説というのは、その構築に一番工夫を凝らしやすい分野なのじゃないかな」

「そうかもしれないわ」